第92話 途中報告①

 タイラー社長が戻って行かれた後でみんなでコーヒーを飲みながらくつろいでいるとホタルから念話が入った。


『先輩、やっと終わりました。迎えに来てもらえますか?』

『了解、すぐ行くな』


 みんなにホタルの迎えに行くことを告げると無限さんが尋ねてきた。


「小栗君、もう税関は開設したのなら普通に門から帰ってこれないのかい?」

「あーリュシオルとして行ってるから門から出てきちゃうと日本のSPが着いてくるから駄目ですね」


「そりゃぁ大変だな。でもリュシオルは別として要人では無い人物。例えば小栗君の奴隷であるフローラやフラワーならば外出は可能でSPがついたりもしないんだよね?」

「だと思いますが、馬娘の二人が外を出歩くとそれこそ大騒ぎになる展開しか見えないですね」


「エルフや獣人がコンビニ店員などで働いている未来を夢見るとわくわくするよ」

「でも日本で普通に亜人の女の子たちがいると無限さんの担当する事業での希少性が薄くなりませんか?」


「確かにそれはあるが将来的には全然ありでいいんじゃないかな?」

「まぁカージノ国内では亜人女性の地位は決して高くないですから、その辺りは変えていってほしいですよね」


 話が長くなるとホタルが怒りそうなので一度、二階の部屋へと上がってからエストの姿になりカージノ大使館へと移動した。

 ホタルは税関と大使館の間の庭園で待っていた。


「先輩、この敷地は外からは見えないような隠ぺいをかけたって言ってましたよね?」

「ああ、かけてるぞ」


「中からは普通に外を見ることが出来んですね」

「そうだな。俺もそれは気にしたことがなかったな」


 確かに大使館の敷地の中からは東京の高層建築物やスカイツリーの姿がはっきりと見えていた。


「先輩、隠蔽だけで結界は貼っていないんですよね?」

「あー今のところは結界は貼っていないけど、王女が着任する事を思えばまさかの時のために一応結界は貼った方がいいだろうな」


「少し気になったんですけど、結界ってずっと有効なんですか?」

「最初に込める魔力次第で範囲と強度が決まるけど、例えばカージノ大陸のような超広範囲な結界は女神神殿の祭壇に魔石をささげてそれで維持しているんだ。あれだけの広範囲だと結構な量を使っているはずだぞ。他の各都市も、その都市の女神神殿から結界を張れるようになっていてスタンピードが起こった時などは都市を守れるようになっているんだ」


「先輩……それって結構重要な話じゃないですか? 今後地球にもモンスターが発生する可能性がある以上、カージノ大陸と同じようにスタンピードから街を守れるようにしなきゃ駄目なんじゃないですか?」

「確かにそうだな。今後カージノ大使館を通じてポーラ王女から提案してもらうのがいいと思う」


「そうですね、なんでも私たちが抱え込んじゃうと身動き取れなくなりそうですし」


 この場所から直接転移してしまうと日本の税関から確認されてしまいそうなので一度大使館のエストの部屋に行ってから俺の部屋へと戻った。


「先輩、ホタルの姿に戻りますね」

「ああ、今日はまだ全員下の事務所にいるから着替えが済んだらホタルも来なよ」


「了解でーす」


 俺は先に事務所へと戻る。

 現在十九時を少し過ぎたくらいの時間だ。


 俺が下りていくと斎藤社長が全員揃っているのは珍しいので、ホタルが降りてきたら現状の把握と今後の行動予定のすり合わせを行おうという話になった。


 各自が了解して、それぞれが自分が手掛けていることの資料を準備した。

 ホタルが着替えを済ませて降りてきたのでミーティングが始まる。


 最初は藤崎さんからだ。


「私が手掛けているのは、カージノ大陸でマリンスポーツを実現させるためのツアー事業です。現段階で大手旅行代理店三社との打ち合わせを重ねカージノへの移動手段を確保する話が進行しています。皆さんご存じのように日本を含め世界中で浜辺は失われ、多くのマリンスポーツに関しては行える環境がなくなりました。しかし、カージノ大陸では広大な浜辺を有し、緯度的にも年間を通じてマリンスポーツを行える環境が整っています。移動手段は潤沢な予算が使える方は、横浜港に停泊している『ダービーキングダム』号がカージノ行の定期航路の実現に向けて準備に入っております。時間や予算に限りがある方向けにはLCCと提唱して台湾島までフライトし台湾島からは高速船によって、カージノ大陸まで渡航する予定です。この方法であれば日本から十二時間程度でカージノ大陸に到着できますし、予算的にも現実的なツアーの提供を行えます。日本がカージノとの国交を正式に開始したので、カージノ側の受け入れ施設が準備出来次第実現させたいと考えます」


 藤崎さんの発表を受け、斎藤社長が意見を言う。


「実現性が高い企画ですね。この事業を行う別会社の設立に関しては目途はたっていますか?」

「はい、大手旅行代理店との共同出資で別会社の設立を予定しています。経営陣に関しては先方から派遣していただく予定です。出資割合に関してはJLJが五十一パーセント。旅行代理店サイドは三社が等しく株式の保有をする予定です」


「了解しました。当然私は途中経過もうかがっておりましたし、JLJからの出資額の関係で財前さんとも話を重ねています。我が社からは非常勤の役員ということで、このまま藤崎さんに担当をお任せします」


 いやぁ、俺はあまりその辺りの途中経過を聞いていなかったけど、しっかり仕事してるなぁって感心しちゃったよ。

 でも、カージノ側の受け入れ施設は俺が用意しなきゃいけないんだよな。

 どうしよう……

 とりあえず手を挙げてみた。


「藤崎さん、ちょっといいですか?」

「はい小栗さん。どうぞ」


「受け入れ側の設備を用意するとして、移築できるような物件をあたってもらえますか? マリンスポーツに必要な設備のレンタルやシャワー設備などの整った大きく綺麗な海の家! 的な物件がいいですね」

「わかりました、そういった設備であれば砂浜の失われた現在であれば安く取得できる物件があるはずです。何件か目星をつけておきます。対象範囲は日本国内? それとも世界中でしょうか?」


「一週間後に行われるカージノ大使のお披露目で友好国と認められた国家であれば国外でも構いません。インフラに関しては発電機が予定より早く使えそうですので問題はありません。水道も魔道具で問題なく使えます」

「早速、物件の選定に取り掛かります」


 藤崎さんの報告を終えて次は夢幻さんの発表だ。

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