第91話 地球版ハンターギルドの設立準備

 斎藤社長がタイラー社長に連絡を入れると十五分ほどで来社が可能ということだった。

 その時間を事務所に設置されたテレビを眺めながら待つ。


 テレビではどこの局も本日行われたカージノ大使館の税関施設の移築関係の話題で盛り上がっている。

 話題の中心は【マジックバッグ】と呼ばれる魔道具の容量の話になっていた。


(実際にはアズマのインベントリ機能で行ったのだが、カージノ大使館の移築はザックがマジックバッグで行ったと発表していたために、今回もそうだと言っておいたためだ)


 番組内でコメンテイターを名乗る人物が知ったかぶりで解説をしているが所詮、今までの地球の理で説明できるわけでも無く、有名どこの異世界転移物のラノベを持ち出して、【マジックバッグ】とはどんな物であるかだとか、同じような能力を有する【アイテムボックス】と呼ばれるスキルの存在もあるのではないかという話をしている。


 その画面を見ていた藤崎さんが「あら? このコメンテイターの持っている本って無限さんの作品じゃないですか?」と言い出した。

 無限さんがその本の表紙を確認してつぶやく。


「確かに私の作品ですね。実際私にも今日はテレビ局から数社出演依頼が来ていたのですが都合が合わないと断っていましたから。まぁ無料で宣伝していただけていると思えば別に構いませんが」


 さらに番組を視ていると、実際に百五十メートル四方はあるカージノ大使館の敷地と建物の移築をしていることから、大型タンカーをはるかに超える容量であることは間違いないと発表した辺りでスタジオは大きく盛り上がっている。


『もしこの【マジックバッグ】が今後日本国内でも手に入るようになれば、既存の運送業などは壊滅的な状況になるでしょう。更にカージノ大使館内部に設置されているという【転移の扉】が実用レベルで導入されるのであれば移動手段としての航空機や船舶、鉄道の存在は意味がなくなります。これを敵対的に考えるようであれば日本に限らず世界中が時代の流れに取り残されて滅亡の道を歩むことになるのかもしれません』


 コメンテイターの発言を受けて総合司会のアナウンサーが〆に入る。


『現在カージノ王国からの帰還者である『小栗東』さん。『蘭蛍』さんの二名に出演交渉を行っております。実現すればカージノ王国での魔法の発展度合いや、先ほどから話題に上がっているような魔道具は果たして民間で使用できるレベルで存在するのかなど、あらゆる疑問点についての解明はされていくでしょう。今後の展開を楽しみにしていただきたいと思います』


◇◆◇◆


 番組の区切りがついたところで財前さんが聞いてきた。


「小栗君、実際のところどうなんだい? 一度どこかの局には出演してあげたりするのかね?」

「あーホタルとも話してたんですが、マスコミを敵に回すと色々面倒なのも間違いないですし、好意的な態度の番組に対してはある程度の出演は仕方がないかと思っています。もう顔写真や名前はネットなんかでも出回ってますし、俺たちが前に勤務していた会社の同僚などからも、事実とは程遠い作り話が出回っていますから」


「それに対しては何らかの手段は打つのかね?」

「まだ決めてはいませんが、先ほど言った同僚などには少なくとも会社を辞めて以降、連絡を取ったこともありませんし、さらに言えばホタルとも会社にいた当時は口を聞いたこともありませんでしたから、その辺りの話に真実は何一つないのだけは確かですね」


「そうなのかね……今は小栗君の存在はこの会社だけでなく、この国、いや世界中の国にとって極めて重要な存在なのだから、ストレスをためたりすることは無いようにしなさいよ」

「はい、ありがとうございます。JLJに来ていただいた皆さんのおかげで現状は俺もホタルも楽しく過ごさせていただいてますので大丈夫です」


 そこまで話したところでタイラー社長が到着したようで、玄関の『パーフェクトディフェンダーズ』のガードから連絡が入った。


 斎藤社長が出迎えに行き、俺たちはその場で立って出迎えた。


「タイラー社長、当社の小栗から『パーフェクトディフェンダーズ』社を含めての提案があるということでお呼び立ていたしました。一応話の概要だけでもお耳に入れておいていただければと思います」

「我が社にとってもアズマは特別な存在だと認識しています。アズマからの提案であれば是非話を伺わせていただきたいと思います」


 全員がソファーに腰を掛け俺からの提案を話始める。


「話の発端は先日から何度も話題に上がる化石燃料の枯渇問題からでした。中東の産油国においては他に主要産業と呼べるようなものはありません。これが何を意味するかということは当然お分かりいただけるかと思いますが、このままでは現状産油国として成り立っている国や地域はことごとく破綻を迎えます。当社の斎藤がこの事態を回避する術は無いのかという発言から考え及んだのですが、ほぼ間違いなく化石燃料や放射性物質などは今後、魔素へと変質し周辺の動植物を魔物へと変異させる可能性が非常に高いと予想されます。この現象は当然危険も訪れますが魔物が発生するということは魔道エネルギーの源である魔石の確保が出来るようになるというチャンスでもあります。そこでタイラーさんに提案したいのは優れた戦闘力を持つ『パーフェクトディフェンダーズ』社が主導して地球版のハンターギルドの創設とモンスターハンターの育成事業を立ち上げていただきたいのです。中東の産油国を拠点にした訓練場を組織し魔石の収集をすることを主目的に世界中に発生するであろう、モンスターの討伐を請け負う組織を作り上げればこの世界は、モンスター被害からも守られ、失われる化石燃料に替わって魔石を主原料とした発電事業を中核とする我が社が、安定した事業展開を行えるようになります。いかがでしょうか?」


「アズマ、素晴らしい提案だ。早速我が社としても本国の政府を通じて産油国へと働きかけ合意を得られるように行動を起こそう。この事業においてJLJ が求める条件はどういうものになるのかね?」

「はい、魔石の納入先をJLJ社にしていただければ十分です。新たなハンターギルドとしても、魔石が百パーセント買取される当てがあるという保証があれば行動を起こしやすいのでは無いでしょうか、我が社以外が魔石を手に入れても有効活用が出来るようになるまでは長い年月が必要になるでしょうから、すでに技術を開発済みのわが社に納入することでハンターギルドは安定して行動を続けることができます。それにモンスターハントに関してカージノ王国側には長い経験の蓄積があり、その情報をより高い精度で入手することができるのはJLJ社の情報網でしか不可能だと思います。それに、御社のアンドレ隊長にであれば、困難な状況が起こった時にカージノ王国のエスト伯爵も協力をしてくれると思いますよ?」


「願ってもない回答だ。これからもよろしくなアズマ」

「ハンターギルドの立ち上げが出来次第、様々な契約関係の書類を当社の斎藤が用意しますので、その辺りの調整は斎藤社長とタイラー社長で進めてくださるようにお願いします」


「了解した」


 斎藤社長とタイラー社長ががっちり握手をしてから帰られた。

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