第90話 魔道送風機の受け渡し

 その頃、駐日カージノ大使館では今日の午前中に設置した税関の建物のインフラの繋ぎ込みも終わり早速外務省の職員である澤田と横井が陣頭指揮を執る形で、カージノ王国との入国管理業務を行える体制を整えていた。


 アズマのスマホに連絡が入る。

 当然、島長官から預かっているほうのスマホだ。


『小栗さん、外務省の横井です。入管業務を行える体制が整いましたので現在大使館で勤務されている方々の登録をして頂きたいのですがリュシオルさんに来ていただく事は可能でしょうか? 私共だけでは言葉が通じないのでお願いします』

『解りました。今から税関に向かわせますので後の業務はリュシオルと進めてください』


『ありがとうございます』


 電話を切ってホタルに話しかけた。


「ホタル、ご指名だよ。カージノ大使館員の登録を済ませたいんだって。全員カージノ発行のパスポートは用意できてるんだよね?」

「はい、東雲さんの用意した雛型で国際的に通用する規格でのパスポートを作成して、大使館で働く人員には全員持たせてあります。フローラとフラワーのも持たせてあります」


「了解。それじゃぁホタルはこの後は大使館へ行って横井さんの手伝いをしてあげてくれ」

「リュシオルの姿に変身するのに三十分はかかりますよ?」


「変身スキルを早く身につけなくちゃいけないな。今日の夜にでも、変身スキルを発動できるようにスキルの受け渡しをしよう」

「了解です」


 その会話を終えたころにアレク電機の川越常務が訪ねてきた。

 俺は東雲さんと事務所に降りていった。


 事務所の玄関前で、『パーフェクトディフェンダーズ』社のガードから来社目的を聞かれてガードから社内に連絡をしてからの案内となる。

 少なくともこれで押し売りは来ないな……


「ずいぶん物々しいですね」

「一昨日に実際に外国人の襲撃を受けて負傷者も出ましたのでしょうがないんです」


「確かに今回の発電機などは世界中が今一番欲しがるアイテムでしょうし、我が社のほうもセキュリティの強化は必須項目ですね」

「それなんですけど魔道具を使うのだから我が社が提供する魔道具無しでは、アレク電機さん側の技術を盗み出しても魔導発電機の再現性は無いということを公開してしまったほうが御社の安全性は高まるのでは無いでしょうか?」


「それも一案ではありますが、それだと我が社の重要性が低く見られてしまいそうで対外的にバツが悪いというか……」

「あー確かにそれはあるかも……解りました。その辺りはアレク電機さんの匙加減で行ってください。ただ外国勢力は実弾とか平気で使うので身の危険には注意を払ってくださいね?」


「はい……」

「今日は新型の送風機を三台渡しますから、それで発電機の完成品を作成してください。出力が少し上がっていますけど、前回の試作品以上の性能は求めていませんので、その辺りの調整はお任せします。事業所用の高出力タイプなんかは作れば売れるかもしれませんけどね?」


「送風機の出力が上がったのであれば、その辺りは検討の余地がありますね。早速企画書を出してみましょう」

「それと、先日の発電所用の送風機ですが規格やサイズが解ればデータをよろしくお願いします。その辺りは私たちが発電所を見たとしても、それでイメージをすることは出来ないと思うので、アレク電機さんから必要な仕様書を貰ったほうがいいと判断しましたので」


「そうでしょうね……しかし今までの常識で考えた場合原子力発電所を新たに建設した場合の費用は百万キロワットの発電量で計算した場合二千七百億円ほどになります。ガス火力発電所の場合で一千億円程度です。その後の発電コストによりますが、三千億円以内の工費であれば許容範囲と判断されるのではないかと試算しています」

「電力会社ってお金持ちなんですね……」


「しかも発電所仕様の魔道送風機の技術が独占できると考えれば顧客は世界中になります。早く実現させたいものです」

「恐らく技術の発表を行えばアレク電機さんの株価なんて時価総額で世界一になるかもしれませんね」


「それはJLJさんでしょう。上場される前に安定株主として参加させていただきたいです」

「その辺りの話は私では判りませんから斎藤社長としてください。 WINWINになるような回答が出てくると思います。魔道送風機は川越常務が直接運ばれるのでしょうか?」


「いえ、現時点ではとても貴重な物になりますので警備会社の現金輸送車をチャーターして来ています。勿論警備員も能力の高い方を指名させていただいています」

「それなら安心ですね」


 三台の送風機を渡すと川越常務は戻って行かれた。

 車に積み込むまでは『パーフェクトディフェンダーズ』のガードも付いていたので心配はなかった。


 川越常務が帰られた後で大崎さんと財前さんが俺に話しかけてきた。


「小栗君、発電機の発表は一週間以内に行えそうだな」

「はい、大丈夫だと思います」


「発表は国内の電力会社とJLJ、アレク電機の連名で資源エネルギー庁の円谷君が会場を用意してマスコミを招待して行うことになる」

「めちゃ大がかりですね」


「そりゃあそうであろう。まだ一般市民には秘匿されているが各国政府間では一年以内の化石燃料や放射性物質の枯渇は認識されている。ここで魔道エネルギーの活用を打ち出せばカージノ王国と付き合いを友好的に行うことに各国は積極的にならざるを得ないからな」

「確かにそうですね。俺としてもカージノ王国に友好的な国が増えることはありがたいと思います」


 斎藤社長も話に加わってきた。


「藤堂総理と島長官の判断にもよりますが、先ほど小栗君が川越常務と話していた発電所向けのシステムが完成すれば、その発表の時に化石燃料枯渇の事実も発表することになるでしょう。問題は現在の産油国などは国の運営が立ちいかなくなるということですね。その辺りの救済案を何か用意できないものでしょうか?」


 斎藤社長の発言を受けて俺も少し考えてみた。


「それは日本としての支援になるのでしょうか? それともJLJ?」

「日本やアメリカ主導での支援でありたいと政府は思うでしょうが内容によりますね」


「なるほど、JLJ主導ということであれば手は無いことはないですね」

「興味深い話ですね。聞かせていただけますか?」


「斎藤社長、タイラー社長はまだこの辺りにいらっしゃるのでしょうか? これからする話にはタイラー社長の協力も必要となりますのでできればお招きして意見を伺いたいと思います」

「わかりました連絡を入れてみます」


 斎藤社長がタイラー社長に連絡を入れている間に無限さんと藤崎さんも自分の作業を片付けて俺たちがいたソファー席に移動してきた。

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