第89話 眷属化
ホタルと共に事務所に戻ると俺は自室に引きこもった。
発電機に使う魔導送風機の形状変更をした物を作成するためだ。
アレク電機の川越常務から預かった送風機の張型の形状に合わせて、ミスリルを使った魔道具作成で形を作る。
出来上がったものに送風の魔方陣を書き込んで出来上がりだ。
早速試運転をしてみると、既存の送風機よりもはるかに性能の高いものが出来上がっていた。
おそらく俺の風魔法のレベルが関係しているのだろう。
完成した送風機に上位錬金術である錬金複製を使用し、三台ほどコピーを作成した。
一応こちらも試運転をする。
(うん、問題ないな)
これで川越常務の要件を満たしたので早速連絡を入れた。
『川越常務、JLJの小栗です。先日預かった魔導送風機の形状変更を行ったものが用意できましたので連絡を差し上げました』
『小栗さん、ありがとうございます。早速引き取りに伺わせていただきますが今は会社にいらっしゃるのですか?』
『はい、今日は在社しています』
『了解いたしました。私も東京の事務所に居りますので今から伺わせていただきます。一時間後くらいで、ご都合はよろしいでしょうか?』
『大丈夫です。お待ちしていますね』
その連絡を入れたタイミングでホタルと東雲さんがやってきた。
「先輩、時間がある時にスキルの受け渡しをお願いします」
「ちょっホタル、東雲さんに思いっきり聞かれてるじゃん」
「少し可能性を考えてですね。東雲さんには知っておいてもらったほうが、いいんじゃないかなーとか思ったわけなんです」
そう言うと東雲さんも興味深そうに聞いてきた。
「あの? スキルの受け渡しって先日使った聖女スキルの所有者に貸出すのとは別にそんなことができるんでしょうか?」
「あー、出来ると言えば出来るんですけど、これは勇者スキルの眷属である聖女スキル所持者限定の機能みたいなんです」
そう伝えると東雲さんが少し残念そうな表情をした。
するとホタルが俺に聞いてきた。
「先輩って色々やばいチートスキルいっぱい持ってるじゃないですか。例えば隷属術なんかも当然ありますよね?」
「あ、ああ。確かにあるけど、それがどうかしたのか?」
「眷属という言葉に引っかかったんです。もしかして先輩に隷属してしまえば眷属と判断されて私と同じようにスキルの受け渡しとかできるんじゃないかな? って思ってですね。ほら、東雲さんだったら結構、先輩ラブな感じ出してるじゃないですか? それならこの実験に協力してもらえないかなーなんて思ったわけです」
「おいホタル、隷属なんて現代日本人に使っていいようなスキルじゃないだろ。東雲さんだって、さすがにそれは嫌ですよね?」
そう問いかけると東雲さんが少し妖艶な笑みを浮かべて返事をした。
「隷属で無理やり肉体関係を求められる、とかでなければ構いませんよ? 私が強くなれる可能性があるなら寧ろお願いしたいです」
「肉体関係って……そんな事するわけないじゃないですか」
「はっきり拒否られると少し腹が立ちます」
「先輩あれですよ、嫌よ嫌よもなんとやら的な」
「ホタル、昭和臭半端ない発言をするなよ。今のを俺が言ったら普通にセクハラで訴えられるレベルだぞ」
「と言うことで実験してみませんか? ほらモンスター発生問題なんかが待ったなしで近づいてますし、一昨日の夜のような襲撃の可能性を考えても、東雲さんがスキルを取得する事は重要だと思いますよ?」
ホタルの言うことも確かに一理あるとは思い東雲さんに確認をする。
「本当に構わないんですか? フローラたちと同じように奴隷紋が首筋に浮かび上がりますよ?」
「奴隷紋ですか……それは困りますけどスカーフやチョーカーで隠せる感じであれば問題ありません。それにホタルさんの予想が外れていたりしたら解除もできるんですよね?」
「それは大丈夫です。奴隷紋もスカーフで十分に隠せるはずです」
「では、お願いします」
俺が隷属術を東雲さんに発動しようとするする時に気づいた。
隷属術も俺は当然カンストしていて上位項目に【眷属化】という項目があったのだ。
「ちょっと待ってください。今、俺のスキルを確認したらもっと良さそうのがあったからそっちを発動します。俺も初めて使うスキルだったから少し調べるので待っててください」
そう伝えると【眷属化】を【鑑定】した。
【眷属化】
対象を自らの眷属とする。
眷属となった者にスキルの貸与や授与が可能となる。
眷属は命令に逆らえないが奴隷紋は現れない。
眷属に対しては念話での通話が可能となる。
これは……いいとこ取り過ぎるな。
さすが上位スキルだ。
早速スキルを発動した。
東雲さんが聞いてくる。
「小栗さん、頭の中に「小栗東の眷属化を受け入れますか』と表示されました。受け入れますね」
俺は確認のために東雲さんに念話で話しかけてみた。
『聞こえますか? 三べん回ってワンと言ってください』
すると東雲さんがその場で三回回って「ワン」と言うと犬のように前に手をついてしゃがんだ。
ホタルがびっくりして東雲さんに声をかける。
「ちょっとどうしちゃったんですか東雲さん?」
「あ、小栗さんから念話で話しかけられて命令されたんです。意志に関係なく逆らえませんでした」
「ちょっと先輩、命令するにしたって「三べん回ってワン」はあんまりでしょ。人権侵害です」
「ゴメンゴメン、他に命令って思い浮かばなかったから……でも、東雲さんと念話ができるようになったのは大きいな。次はスキルの受け渡しを行おう」
すでにカージノで東雲さんが取得していた【剣術】スキルも大量にバラで所持していた俺が東雲さんに一つ渡す。
「あ、剣術がレベル2に上がりました素敵です」
「後五百十個渡すと【剣豪】に進化【剣豪】が五百十二個たまれば【剣聖】、【剣聖】が五百十二個で【剣神】に至ります」
「先輩、改めて聞くとあり得ない条件ですね。【剣神】になるための数をざっと計算したら、六百八十億個を超えてるじゃないですか……しかもランク2のスキルだから一個五百万ゴルでしょ? 何桁ゴルになるのかすら想像つかないですね」
「いやいや桁数くらいは判るだろ十八桁だな
「先輩……なんかめちゃ計算早いっていうか賢くないですか?」
「それはほら俺のステータスってそれなりに高いから……」
その後はアレク電機の川越常務が訪れるまでの時間を使って必死でホタルと東雲さんにスキルの譲渡を行った。
一つづつだから精々百個くらいしか渡せなかったけどね……
「二人とも……一応だけど無限さんには内緒だぞ?」
「「了解です」」
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