第85話 『パーフェクトディフェンダーズ』社の提案②

「小栗君、わしの話は船団の輸送の件なんだが、カージノ側の入国管理はどういう風になっておるのかの確認なんだが」

「あー、それをどうするのかを確認していませんでした。大使館のエスト伯爵を通じて確認を取って置きます。一応解っている範囲ではエスト伯爵領の海岸線は住民も居ないし、建物も一切ありませんので経済特区として伯爵領内に関しては手続きを省く予定ではないかと思います」


「ふむ……カージノ王国の人達との交流は出来ないということかね? それは少し寂しいな」

「一応、別事業の準備を並行で行っていきますので、それに伴って一定数のカージノの国民を雇用する予定になっていますので、伯爵領内でもまったくカージノ人に会えないというわけではありません」


 その話をすると、タイラーさんが興味を示した。


「ミスターオグリ、その別事業というのはどんな内容か伺ってもよろしいでしょうか?」


 そう言えば、そんな話はアンドレ隊長たちとは全然してないから情報は入っていないだろうな。

 どうせ公表するし他の人や団体に権利を脅かされる事もないんだから公表しても問題は無いかな?


「カージノ王国の人達は多種多様な種族の方が生活しています。これまでの地球の人類よりはるかに優れた身体能力を持つ獣人や、魔法を使える方々です。その人々にスポーツ競技をして貰えばエンターテーメント性に優れた競技が行えると思うんです。それを宝くじにして販売する施設を作る予定ですね」

「それは随分楽しそうですね、施行はどこが行うのでしょうか?」


「発注元に関してはカージノ王国で、受注はJLJが受けて施工や運営に関してはそれぞれの案件ごとにジョイントベンチャーを立ち上げることになります」

「ふむ……それは将来的に考えてとてつもなく大きな商売になりそうだが、カージノ王国の取り分次第では、それほど旨味がない可能性もあるな。その辺りのバランスはどうなんだね?」


「まだ細かいところまでは協議していないのですが、心配されるようなカージノ側の搾取は無いと思っていただいて大丈夫です。根拠は今回の件に関してはエスト伯爵領に限定されると言うことで理解していただきたいと思います」

「なるほどな。私はアンドレを通じて状況はかなり正確に把握をしているので今の説明で十分だ。アンドレからもエスト伯爵領を活用した今後のわが社の事業展開を考えるように提案が上がっているが、それに関しても協力はしていただけるという認識でよいのかね?」


「もちろんです。アンドレ隊長は現在カージノ大陸以外の人類では唯一といってもいい、モンスターハンターとしてのスキルを高めていらっしゃいますので、今後の地球でのモンスターに対する即応部隊として大変重要なポジションにつかれると思いますし、それに対しての協力はおしみません」

「と言うことはだ……小栗君はこの先カージノ大陸以外にモンスターが発生すると思っているのかね?」


「それに関してはまだ確証では無いのですが、現在起こっているエネルギーや火薬類の減少問題から推察して、今までの地球に存在しなかった魔素に置き換わっているのでは? と考えています。そうなればその魔素を取り入れた地球上の動植物がモンスターに変異してしまう可能性は非常に高いのではないか? ということですね」

「なるほどな。わが『パーフェクトディフェンダーズ』社でモンスターの即応部隊を組織するべきだという十分な理由になる。それに対しての訓練を行える場所は提供してもらえるのかね?」


「そうですね、ご希望に添えるように考えておきます」


 タイラーさんは満足そうにうなずき握手を求めてきたので手を握り返し、今後の対応に関してはアンドレ隊長とも協議を重ねながら進めていく事を約束して別れた。


 この会談の間中、東雲さんはメモを取っていたが口をはさむことはなかったのが気になって帰りのタクシーの中で聞いてみた。


「東雲さん的に今日の会談は問題はなかったのですか?」

「線引きが難しい話ですけど、タイラー社長の会社に準備をしていただく事は非常に重要だと思います」


 タクシーの中では運転手さんの耳もあるのでそれ以上の込み入った話はせずに、JLJの事務所へと戻った。


 事務所に戻ると斎藤社長に今日のタイラー社長との会談で出てきたJLJ社の警備問題に関しての件で連絡をする。

 

『確かに必要だと思います。早速明日にでも私からタイラー社長へ連絡を入れ、早急に警備にあたってもらえるようにしましょう』


 そう返事をもらったので安心して、事務所の応接セットで東雲さんにコーヒーを淹れてもらってテレビ番組を眺めていた。


「先輩、もう帰ってたんですね」


 二階からホタルが下りてきた。


「ああ、ただいま。ホタルのほうは何か進展はあったのか?」

「進展っていうわけではないんですけど、母から連絡があってテレビ番組の出演依頼を受けてくれって言うんですよね。勝手に『あの子のマネージメントはすべて私が請け負います』なんて言ってしまってるようでちょっと困ってるんです」


「そっか……ホタルはどうしたいんだ? 前にも言ってたけど完全にマスコミを無視してると知らないうちに悪者にされる可能性もあるしな」

「ですよね。母は小金を稼ぎたいだけでしょうけど、ずっとマネージャー気取りをされると困るので各局一度きりの約束なら受けるということで伝えます」


「ふむ。俺も一緒に出なきゃダメな感じ?」

「先輩は都合がつけばでいいんじゃないですか? 色々忙しいし」


「わかった。でも必ず聞かれるだろう問題の答えのすり合わせは必要だろ?」

「なんですか? その質問」


「俺とホタルの関係だよ」

「あー、間違いなく聞かれそうですね。恋人関係かどうか。っていうか一緒に世界旅行行く関係で実際に何もないとか誰も信じてくれそうにないですよね」


 そんな会話をしてると東雲さんが突っ込んできた。


「でも蘭さんも小栗さんのことは嫌いじゃないんでしょ? それならはっきりと表明しておかないと、私やポーラ王女が奪っちゃいますよ?」

「うーん。絶対、先輩の性格からしてポーラ王女とか断れないでしょ? シリウス陛下公認なわけだし。そうなると私は二番目以下でしかないと思うとあり得ないんです」


「そうかなぁ私なら今の立場の通り小栗東とエスト伯爵は別でいいかな? とか思うんですけど」


 話の展開でやばそうな気配を感じたので包み隠さずに本当のことを言う! ということにした。


「俺とホタルの関係はホタルの語学能力に対して投資した関係ということで押し通そう。俺がWIN5で六億当てたことや、その時に偶然一緒にいたことなんかも話してしまえばネタ的にも盛り上がるしそれでいいんじゃないか?」

「まー本当のことだからそれでいいと思います。でもそれはそれで色々なところから寄付とか言ってきそうですよね?」


「ここまで騒がれる存在になってたら今更だよ。今までの電話とかすべて番号変えてしまえばそんなに問題はないだろ? この事務所も『パーフェクトディフェンダーズ』社の警備が入るし一般人じゃ近寄るのも簡単じゃないはずだから」

「そうですね。了解です」


 明日は朝からカージノ大使館の敷地に設置する日本側の税関の移築を行うので、早目に寝ることにして、それぞれの部屋へと別れた。

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