第84話 『パーフェクトディフェンダーズ』社の提案

「東雲さん、具合は大丈夫?」

「はい。傷の痛みもありませんし輸血して貰ったので、意識なども問題ありません」


「でもさ、東雲さんいくら職務と言っても文字通りに体を盾になんかしないでね。俺は狙われたとしてもなんとかなると思うし、俺のせいで怪我をする人が出るとかは、嫌だから」

「すいません……でも、今、小栗さんを失うような事は日本として、いえ、この世界の為にも絶対に避けなければならない事ですので」


「ちょっ、それは大袈裟すぎでしょ?」

「いえ、大袈裟ではありません。それほど小栗さんの存在は大事なんです」


「まぁ……そうだとしても、俺も今まで以上に気を付けるし、東雲さんが怪我をしたりする事の方が俺には堪えるから、もっと自分を大事にして欲しいです」

「でも、そんなに心配していただけてちょっと嬉しいです」


 そんな会話をしていると、ホタルから突っ込みが入った。


「なんか、ラブコメみたいな会話してないですか?」

「なっ、そういうんじゃないぞ。俺は単純に、俺のせいで怪我をしたりする人が出て欲しくないんだ」


「ふーん、まーそういう事にしておいてあげます」


 それから約束したホテルへと向かう。

 約束した時間には少し早かったのでカフェで時間を潰しながら昨日の襲撃犯の事を聞いてみた。


「そうですね。私も病院から出ていないので、少し確認の連絡を入れてみた程度ですけど、とりあえず襲撃犯は中国国籍でした。大使館経由で確認した上での判断ですが、国家との関わり合いが無いのは間違いなさそうです」

「そうか……それは良かったのかな?」


「国家間でのトラブルといった事にはならないと思いますので、良かったとも言えますが、はっきりとした襲撃の狙いが見えてこないと何とも言えませんね」

「少なくともカージノ王国の出現に絡んだトラブルであることは間違いなさそうですし、背後関係や理由をはっきりと知りたいですね。俺の家を漁ったタイミングなんかは、色々と発表をする前だったし裏社会なんかが動いたと判断するのには早すぎるのが納得できないんですよね」


「先輩、斎藤社長も言ってましたけど地球の神様たちっていう可能性は考えられないですか」

「神様? それはまた突拍子もないな」


「斎藤社長は宗教と表現してましたけど、カージノにはオグリーヌ様がいるんですし、そのオグリーヌ様は地球にも神様は居るって断言したんでしょ?」

「た、確かに。でも、地球の神様が俺達を襲わせたのか?」


「理由なんかは解りませんけど、普通に反社会的な存在が私達に近づくなら、JLJの持つ莫大な利権に対しての利益誘導とかを先に持ちだすと思うんですよね。いきなり襲って来るとかいうのは、やっぱり少しおかしいです」

「そうだな、またオグリーヌの所へ行って詳しく聞いてみよう」


 俺のスマホが着信を告げて、タイラーさん達も到着した様だ。

 俺達は、最上階のレストランへと移動した。


 レストランの個室に案内されると、六十歳前後くらいの年齢ではあるが姿勢がよく、隙の無い感じの人が手を差し出して来た。


「初めまして『パーフェクトディフェンダーズ』社のタイラーです。これから色々とお世話になる事も多いと思いますので、よろしくお願いします」

「タイラー社長と商談しておったら、小栗君の名前が出て来たので一緒に着いて来たよ。私も少し小栗君と話したい事もあったからな」


 俺達も自己紹介をして着席した。

 最近は高級料理を食べることが増えてきたけど、今日のレストランの料理もとても美味しいコース料理だった。

 食事を終えてタイラーさんが話し掛けてきた。


「ミスターオグリ、出来ればJLJ社にも我が社からガードを派遣させて欲しいのですがいかがでしょうか?」

「えーと、それはどう言う意味でしょうか?」


「昨晩のような事件を未然に防げるようにです。少なくとも私はアンドレ少佐を通じて、ミスターオグリやミスアララギの存在がどれだけ大事なのかを理解しています。難しく考えずに警備会社に警備を依頼するようなスタンスで依頼をいただければと思います」


 東雲さんがタイラーさんに質問した。


「ミスタータイラー、昨晩の事件は報道もされていませんが、どこからその情報を?」

「ミスシノノメ、JLJ社は今世界中の政府が注視しています。当然、英国もですが主要国の諜報部であれば昨夜の事件は、どこも把握しているはずです。そして我が社は各国からの要請に応じて公的機関の動けない場所に対してセキュリティを提供していますので、ミスターオグリやミスアララギの様なVIPに対しての情報は出来る限り入手できるように伝手を作っています。勿論、ミスシノノメの本来の職務も理解しています」


 その言葉を聞いて東雲さんが少し考えた上で俺に助言してきた。


「小栗さん。表立ってJLJ社に対して本庁の警備局が人員を派遣するには確かに問題があります。ビジネスとしての警備依頼であれば『パーフェクトディフェンダーズ』社に依頼するのも一つの手段として有効なのではないでしょうか?」

「それって四六時中、俺やホタルが見張られちゃうってこと?」


「いえ『パーフェクトディフェンダーズ』社にはわざと目立つように玄関当たりの警備にあたって貰う事で、抑止力になってもらうで良いんじゃないでしょうか。少なくともそれによって昨日の様な連中は近づけないでしょうし、外国勢力から見ると日本の警備会社では少し舐められてしまう部分がありますから」

「なるほどな。じゃぁお願いした方がいいかもね。社長たちが狙われたりする可能性もあるかも知れないし、一応社長に確認を取ってから返事をさせて貰います」


「解りました。いい返事を期待しています。その件は終わりにして、本来の立て替えていただいたお金の支払いなのですが、三百万ドル分のゴールドを持って来ていますがここで引き渡して大丈夫でしょうか?」

「はい、問題ありません」


 俺はタイラーさんから三百万ドル分の純金を受け取りインベントリに収納する。


「ミスターオグリ、それはカージノで身につけた能力なのですか?」

「そうですね、便利ですよ」


「羨ましいですね。どれくらいの容量が運べるのでしょうか?」

「容量は一応秘密ですが、生き物以外であればほとんどの物は大丈夫でしょうね」


「なるほど、例えば明日、公開が予定されているような建物の移築も行えるほどの容量という事ですか」

「まぁそう言うことです。タイラーさんは当然カージノでの俺のことはアンドレ隊長から聞かれてるんですよね?」


「はい、ある程度は。船団の護衛の際には一時的にアンドレ少佐とミッシェル軍曹にも協力を要請する予定ですが、彼らをカージノ王国の外交ルートで移動させる事は可能でしょうか?」

「なるほど……大使館を利用しての移動ということですよね?」


「はい」

「隊長とミッシェルだけであれば引き受けましょう」


 タイラー社長との話を終えると、福山さんが話し掛けてきた。

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