第78話 電力の確保
政府から派遣された職員の到着までは思ったより迅速だった。
「資源エネルギー庁の円谷と申します。本日はまず試作機の確認と、既存発電所の稼働方式の変更に信ぴょう性があるかどうかの意見を伺う為に取り急ぎ出てきました。まず、確認なのですがこの情報は電力会社などのアレク電機さんとJLJさん以外の第三者に漏れている可能性はありませんか?」
随分せっかちな人だな……と思いながら川越部長とのやり取りを聞いていた。
「お話を伺った時点からJLJさんとの間に守秘義務の締結などをしており、情報の漏洩には細心の注意を払ってきましたので大丈夫だと思っております」
「この情報は世界中でもっともタイムリーで重要な問題となります。日本国内である程度の形になるまでは、絶対に他に漏れる事無く進行して頂けるようお願いします。特に問題なのは国外勢力への情報漏洩となりますので日本政府からも警備局の人員を派遣することになると思いますが、ご了承ください」
「それは研究内容にまで査察が入るという事でしょうか?」
「いえ、その点はアレク電機さんとJLJさんの秘匿事項になるでしょうから、ご安心ください。ただし機密内容を現時点で把握している社員の方々に関しては海外勢力との関係性などが無いかは調査させて頂く事になります」
そういうやり取りがあった後で、発電機の試作品の確認と先程の発電所の動力に関する見解を伝えた。
その内容を噛みしめる様にした円谷さんが「早急に電力各社と日本政府の代表者が対応策を協議することになるので協力をお願いします」と俺と川越さんに頭を下げてきた。
せっかちだけど本当に今後起こる最悪の事態に対して真剣に取り組んでる感が伝わって来た。
「円谷さん。もし、この話が海外に漏れるような事があったとしても、一番大事な部分の魔道送風装置がカージノ以外では生産不可能ですので、そこまで心配しなくても大丈夫です」
「小栗さん。それは今後もずっとそうであると言い切れるような話なのでしょうか? 例えばカージノ王国側に取り入る国が現れたりの心配は無いのでしょうか?」
「そう言われると絶対とは言えないですけど……魔法技術も大掛かりなものはカージノ王国でさえ一般的ではありませんので言葉も通じない段階で他の国が抜け駆けできる可能性は少ないと思いますよ?」
俺の発言に少し安堵をしたようだった。
「本日は御忙しい中、時間を作っていただきありがとうございます。私は早急に本庁に戻り、関係各位との打ち合わせを行い対応策を協議いたします。警察庁の警備局からの人員は島長官から指示が出ると思いますので、受け入れをお願いいたします」
そう告げると足早に立ち去っていった。
その姿を見ながらホタルが呟く。
「なんだか嵐みたいに過ぎ去って行きましたね……早死にしそうな人ですね」
「ホタル……思っても言っちゃ駄目な言葉ってあると思うぞ?」
そんな話をしていると東雲さんの電話に着信があり、どうやら島長官からのようだ。
「小栗さん。先ほどのせっかちな人が早速、島長官に連絡を入れたそうで『少し詳しい話を聞きたいので、今日の晩御飯を一緒にどうですか?』と仰られてますが、どう返事をしましょう? 川越部長もご一緒していただきたいそうですが」
「あー。今日はこの後は予定も入って無いし大丈夫ですよ。でも俺に詳しい話を聞かれても解らないしなぁ。川越部長の都合が良ければお受けするということで」
川越部長もさすがに官房長官からのお誘いを断る事は無く、夕食の招待をお受けすることになった。
ホタルは「私が行ってもあまり意味無さそうですし、私はパスでお願いします!」と言い切った。
「なんか用事があるの?」
「ほら消えた化石エネルギー問題ってあるじゃないですか? その辺りのことを私なりに調べてみようと思ってですね」
「へー、心当たりの場所とかあるの?」
「うーん、これと言っては無いんですけど、実際ガソリンや灯油も目減りする形で減っているんだったら、なにか調べる手段があるかも知れないって思いませんか?」
「確かにな。なにか解ったら俺にも教えてよ」
「っていうか、解ったとしても対処できるのは先輩だけだと思いますし、丸投げしますよ」
「お、おう……」
その後で川越部長を加えた四人でJLJの事務所へと向かう事になった。
アレク電機さんの社用車で東京へと向かっている途中に川越部長が質問をしてきた。
「小栗さん。先ほど提案した魔導送風機の形状変更ですが、どの程度の時間があれば完成出来そうですか? 大崎さんが言われたように一刻も早く量産体制にまで持っていくには、最低限量産タイプに使用する魔導送風機が完成してからでないと、着手できませんので……」
「それは当然そうですよね。預かった設計図に寸法が細かく入っているようですが、寸法だけではカージノの魔道具職人も解りにくいかもしれません。原寸大のダミーを一台アレク電機さんで用意して頂く事は出来ますか?」
「はい、そういう話も出るかもしれないと思いまして中身のない外側だけの物でしたら、既に用意させています」
「流石ですね。それがあれば三日以内くらいには用意できると思いますよ」
「そんなに早くですか?」
「はい、大丈夫です。カージノの魔道具職人は優秀ですから!」
本当は俺が作るんだけど、そう言うわけにもいかないので、とりあえずはその張型の物をJLJの事務所へ運んでもらうように頼んだ。
事務所へと着すると、藤崎さんと夢幻さんも来ていた。
川越部長は、アレク電機の東京支社に用があるらしくて、会食の時間までそちらに行くそうだ。
「藤崎さん。妹さんの具合はどうですか?」
「はい、あれから病院でも検査をしていただいたんですが、病巣も綺麗に無くなり血液の数値も正常値でした。何よりも友里恵に食欲が戻っているので、間違いなく病気は完治していると思って間違いないと思います」
「それは良かったですね。病院から色々聞かれたでしょ?」
「はい……一応は打ち合わせ通りに女神オグリーヌ様に祈りを捧げて、祈りが届いたとお伝えしましたが、祈りの捧げ方などを詳しく教えてくれと言われて大変でした」
「それは……困った時の神頼みくらいは誰でもするから、偶然が重なったと思ってもらえないかなぁ?」
「結構、苦しいですね……あの、小栗さん。友里恵なんですけど、折角、助かった命で、夢幻さんや小栗さんのお手伝いをさせて欲しいと言っているのですが、どう返事したらいいですか?」
「そうですね、まだ体力も完全に戻った訳では無いでしょうから、それでも何かしたいと言われるなら、藤崎さんのアシスタントで使ったらどうですか? 他言されると困る内容もありますから、逆に近くに居てもらえた方が安心ですし」
「いいんですか?」
「事務員さんとかも居ないですし、雑用を手伝ってもらえればみんな助かると思います」
「ありがとうございます。きっと喜ぶと思います」
夢幻さんがやけに大きなトランクケースを持ち込んでいたので聞いてみた。
「夢幻さん、その重そうな荷物は何ですか?」
「ああ、これは金ですね。ほらカージノでは日本円やドルは使えないっていうから、十億円分程金を買ってきました。世界中で金が値上がりしていてグラム一万円に近い価格でしたから少しびっくりしましたよ」
「あーよく十億円分も在庫もってましたね? その業者」
「一応、金地金の取り扱いで国内最大手を謳ってるとこでしたから、カージノでの金の相場って日本と同じ感じですか?」
「そうですね、まだ日本よりも高いですから、日本円で十億円分なら二割増しくらいになると思います」
「それは凄い。今のうちに集めないといけませんね。ということで明日にでも時間のある時に一度向こうへ連れて行って貰えませんか?」
「解りました。明日は予定が入っていないので大丈夫です」
その後は会食の予定時間まで、夢幻さんのイメージするビーチ競馬の設備やコースの設定などの説明を聞いて過ごした。
ビーチバレーとビーチバドミントンのプロスポーツ化とスポーツくじの販売も予定に入っていて、とても盛り上がりそうだ。
なぜか選手が女性限定なのは気になるけど……
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