第79話 この世界の予測
「夢幻さん。選手が女性に限定されているのって後々、人権団体とかに上げ足取られたりしませんか?」
「私は大丈夫だと思いますよ? 一番の問題はガチムチのスポーツなんか私は見たくないからなんですけど、少しカージノに行った時にリサーチした感じでは、あの国では中世ヨーロッパと同じように、平民における女性の地位や立場が余りよく無いのではないか? と感じたんです」
「なるほど、さすがによく見てらっしゃいますね」
「そういった前提条件があるならば、逆に私が提案するようなスポーツ競技で女性の地位を確立してあげることも出来るのではないでしょうか? トップアスリート達にはアイドル的な要素も持ってもらってもいいと思います。それこそゲームであるような成績優秀者によるライブだってあってもいいんじゃないでしょうか?」
「凄い話が飛躍してますね。でも、それなら選手たちを育成するような学園も必要かもしれませんね? ダンスや歌なんかもカリキュラムに組み込んで」
「まさに、その通りですよ。競技種目なんかはある程度、色々な人種が活躍できるように増やしていけばいいですし、日本の公営競技などでも選手はみんな専門の養成施設を卒業して、八百長問題や利害関係のある人たちとの付き合い方を厳しく指導していますので、倫理観の教育はプロスポーツでは必須になります」
夢幻さんの本気度合いが突き抜けてる感があるけど、取り組み方としては全然ありだと思う。
「解りました。実際問題として夢幻さんには、この事業の方向性を決めていただけたら別会社を立ち上げますので、この部門の社長を決めていただいて任せる形になります。夢幻さんが社長でも良いんですけどもっと他にもやる事は出てくるでしょうし」
「そうですね、これに掛かりきりだと私自身が獣人の子たちとの夢の生活を送る時間が取れなくなっても困りますから、私の影響力の残せる形で人選をしましょう。私の読者に対して提案すれば有能な人材はすぐに集まるでしょう」
夢幻さんの読者さんって結構夢幻さん並みに突き抜けたような人が集まりそうかも? と思ったけど俺や斎藤社長も読者だったし意外にいけるのかもな。
俺と夢幻さんの話を聞いていた東雲さんが質問をしてきた。
「夢幻さんは獣人の子たちの事ばかり言われてますが、エルフはどうなんですか?」
「エルフですか? エルフにも大いなる夢がありますよね。ただビーチスポーツと思うと、まだいい案が浮かばなくて、弓の競技などだとビーチである必要性は少ないですし」
「魔法を使っての競技とかに魅力を感じるんですけど」
「なるほど、確かに面白そうですね。それもいい形で実現できるように考えておきましょう」
意外に東雲さんもファンタジーな世界に興味があるんだな。
そんな話をしていると時間も丁度良くなって来たので、俺は東雲さんと二人でタクシーに乗って指定のあった高級レストランへと向かった。
今日は官邸ではなく、有名ガイドブックの三ツ星を貰っているフレンチの名店へと招かれた。
川越部長は現地合流だ。
「東雲さん。こんな有名店って当日でも何とかなるもんなの?」
「普通はダメですけど、ここはホテルのテナントですからホテルの超VIPなお客様が時々当日予約で入って来るので、満席にならないようにしか予約を取っていないらしいです」
おそらく島長官のような国内でも超一流の地位の人でないと受けることのできない待遇なんだろうな? と思いながらレストランの個室に案内された。
さすがにSPは個室の中までは入らないで、島長官の他には今日の昼に会ったエネルギー庁の円谷さんと外務省の澤田さんと横井さんが来ていた。
個室でフルコースの料理を提供して貰った後で発電所の動力関係の話を川越部長の説明でして貰い、円谷さんが茨城県の稼働休止中の原子力発電所の見学を薦めてきた。
川越部長の話ではやはり原子力発電所のタービンを通常発電量の百万キロワットを確保できるような動力となると相当な量である事が解る。
単純に現在進行中の発電機では最大十二キロワットが限界だそうだ。
俺が指定した性能が百アンペアの発電機だったので、二割程度の余裕をもってその限界発電量に決めたそうだけど、単純にその十万倍の出力が必要な魔導送風機だと、強度的にミスリルでなくオリハルコンの物が必要になるだろう。
それに加えてサイズ的にもどんなに小型化をしても既存の発電所のタービンを回すとなると、かなりのサイズが必要になる。
それをオリハルコンで作るとなると一体いくらかかるんだろ?
円谷さんに、実際の水蒸気の噴出口のサイズや出力がわかるような書類を頼み、三日後に現地を訪れる約束をして食事会はお開きになった。
今日のメンバーの中では外務省の二人はエストと俺が同じ人間である事を知っているが、円谷さんと川越部長には教えて無いので失言に気を付けるようにしていたから、俺はあまりしゃべれなかった。
食事が終わった後で、川越部長と円谷さんの二人が帰ると、残ったメンバーで場所を移してもう少し飲む事になった。
「小栗さん。今日は静かでしたね?」
島長官に話をふられると「いやぁ実際に規模が大きすぎてピンとこないというか、的外れな事言ってしまいそうだったから、喋れませんでした」
「そうですね、私でもどれ程の規模の物なのかはよく解りませんでしたから……で、どうなんですか? 実際可能と思っても大丈夫でしょうか?」
「恐らくと言うか、送風機の巨大な物は可能だと思います。ただ出力が大きすぎるので、ミスリルでは対応できないでしょう。オリハルコンを使った巨大な魔道具になりますから、値段も結構な額になりますよ?」
「そうですか、可能であるなら金額は問題になりません。原子力発電所を一か所作るのにかかる金額でも規模による大小はありますが一千億円から五千億円の規模で安全性の問題にかかる費用が非常に大きな割合をしめます。魔道具による発電ですと放射性物質の心配が無くなるので、今後を考えれば必要な初期投資と言えるでしょう」
「あ、そう言えば燃料問題の中で放射性物質や火薬武器も同じように消失しているそうですね?」
「まだ公式には発表出来ていませんが、その通りです。後一年もすれば世界を脅かすような長距離弾道ミサイルやピストルのような物まで殺傷能力の高い武器は消えてしまうでしょう。それと同様に現在の核処理施設や原子力発電所の放射能までもが消失する予測です。これは廃炉を考えれば処理がしやすくなるので良い事でもあるのですが」
「そうなんですね、少しだけ俺達の予想を聞いていただけますか?」
「はい、なんでしょう」
「カージノ大陸において化石燃料や放射性物質は発見できませんでした。その替りに存在するのが魔力、魔素と呼ばれる存在です。そして魔素を吸い込んだ生物はモンスターとなり人々の生活を脅かすのがカージノ大陸です。もしかしたら消失した、それらの化石燃料や放射性物質が魔素に変異していたとすれば、世界中でモンスターの発生する可能性も高いと思っています。火薬を使用した武器も無くなって行く中でそれらのモンスターと戦う術を持たなくては、世界中が混乱に陥る可能性も高いですね」
この場に居たメンバーが俺のその言葉で言葉を失う。
「小栗さん……その場合カージノ王国の様に、その環境でも人々が生活をしていくにはどうしたら良いのでしょうか?」
「まだ俺自身も、答えは解りませんが対モンスターでも役に立つような戦闘術を身につけなければならないでしょうね。実際にカージノでは俺と一緒に転移した傭兵会社のアンドレ隊長やミッシェルがハンターとして、対モンスターの戦闘術を学んでいますし、もし世界中でモンスターが発生するような事があれば、カージノのハンター達から教えを乞う必要もでてくるかもしれません」
「なるほど……既にエネルギーの消失が起きている以上、可能性は高いとみなして準備は必要でしょうね。対モンスターの専門の組織のような物は存在するのですか?」
「はい冒険者ギルドはハンターを取りまとめ、強いモンスターが現れたりした時には対応しています。そこから学べることも多いと思います」
「解りました。ポーラ王女の歓迎晩餐会が終わった後は、その辺りの実務的な話も聞いてもらわねばならないでしょうね」
「一応ですが船や飛行機、自動車などの動力はすべて今回の発電に使用する送風の魔道具で代用できると思いますが、その魔道具を動かすためには先程話題に出たモンスターから獲得できる魔石が必要になるのでモンスターの発生は悪い事ばかりではないですけど……」
「どちらにしても文明的な生活を失う事はできません。日本だけの問題でなく世界中に等しく降りかかる問題ですから、これを乗り切るために日本が世界のリーダーとしてカージノと手を取り合い、対処していくつもりで取り組まねばならないのです」
「でも……アメリカや中国はそれを大人しく受け入れますか?」
「核や圧倒的な軍事力による脅しが効かなくなるので、日本に協力する以外に生き残る道も無いはずです」
その話の後で、夢幻さんによる魔法治療の話も話題にでたが、これは発表すればそれこそ夢幻さんが身動き取れなくなるので、今の所は秘匿情報とする事になった。
今日も話題が多くて忙しすぎるな。
ホタルと夢幻さんに基礎能力を上げて貰って仕事を分担しないとマジで過労死しそうだ……
競馬で稼いだ六億で悠々自適な生活なはずだったのに参るぜ。
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