第77話 試作機の完成

 今日は魔道発電機の試作品を見に、川崎まで出かける予定になっている。

 昼前には俺とホタル、斎藤社長、大崎さん、東雲さんのメンバーで車に乗り込み出発した。


「大崎さん。財前さんはどうされているんですか?」

「ああ、財前は財界関係の調整で忙しくしておるぞ。資金的には十分すぎるほどに集まっておるからの、逆に出資割合を少しでも増やしたい企業たちの要望を断るのに苦労しておる。この先を考えても繋がりを良好に保ったままで、断りを入れるのが大変じゃからな」


「信じられないような話ですね」

「まあJLJがこの先提案していく事案に関しては何をするにしても、注目と巨額の資金が動くからの。斎藤社長、わしから提案させて貰ってもよいかな?」


「なんでしょう? 大崎さん」

「この先JLJ本社は持ち株会社として存続することにして各プロジェクトに応じて別会社を設立していく方が良いと思うんだがどうだろう。一つのプロジェクトにしても責任者を小栗君やわしらがやっておったんではとても手が足らぬし、それぞれのプロジェクトに応じてヘッドハンティングで社長をスカウトしてきて、大筋だけ本社で決定して任せた方が、良いと思うんじゃがどうだろう?」


「間違いなく大崎さんが仰ることが正論ですね。その方向性で動いていって問題無いでしょう。小栗君と蘭さんは何か意見がありますか?」

「そういう問題は、それこそ俺達ではまったく解りませんので、斎藤社長が方針を決めていただければ、それに従います」


「解りました。早急に態勢を整えましょう。大崎さんとりあえずは規模が大きくなりますので、司法書士の私では扱えない金額になりますから、信用のおける弁護士団を監査役として据えましょう。私から一名、大崎さんから一名、財前さんから一名の推薦を行う形でどうでしょうか?」

「そうですな。そこは大事な部分です。了解しました」


 そんな話をしているうちに、車は川崎のアレク電機の研究室へと到着した。

 川越部長が出迎えてくれたが、結構な人数が出迎えの列になっている。


「川越部長お久しぶりです。やけに大人数ですね?」

「はい。今回の事業は我が社の社運をかけた一大プロジェクトになる事が決定いたしましたので、我が社の役員総勢二十名がすべて今この場に揃っているんですよ」


「また、随分大袈裟ですね」

「いやいや、全然大袈裟ではありませんよ。政府の正式発表はまだ各国もしておりませんが、エネルギー枯渇問題はこれから先の地球で一番大きな問題になる事は間違いありません。現状ではその危機を乗り切る唯一の手段が、今回のプロジェクトであると言えるのです。私の方でも後程少し提案させて頂きたい事が出来ましたので、よろしくお願いします」


 それから、こちらの全員がアレク電機の役員全員と挨拶を交わすという無駄な時間を経過して、やっと試作機を見せてもらえる事になった。


「こちらが試作機です。預かった魔導送風機から発生するパワーを、いかにロスを無くしてタービンを回すことが出来るかが一番苦労したポイントですが、望まれた性能は確保できています。こちらが問題点として考えていた、発熱、騒音、耐久性もすべてクリアできています。後はサイズの問題ですが、送風機の形状をこちらの設計図の様に仕上げて貰う事が出来れば、全体的に同じ性能であと二回りほどの小型化も可能でしょう」


 俺達は出来上がった発電機の性能に満足して、提案のあった魔導送風機の形状変更も受け入れた。


「それで、実際の生産の方ですが、どのくらいの規模で対応できそうでしょうか?」

「国内の全ての生産拠点をフル稼働させて月産一万台というところでしょうか?」


 その数を聞いた大崎さんがダメ出しをした。


「その数では話にならぬな。カージノだけでも最終的に五千万台の需要が予想できる上に、世界中で起こるエネルギー不足のフォローにも使われるじゃろう。最低月産十万台はラインを確保しなさい。出来上がったものはすべてJLJが買い上げるから、作れば作っただけ利益だ」


 大崎さんの言葉に、アレク電機の社長が力強く頷く。


「斎藤社長、大崎さん。この商品の発表をJLJとの共同開発との名前で発表することは許可して頂けますか?」

「勿論です」


「それであれば何も問題はありません。早急に態勢を整えてフル稼働で御期待に答えましょう」


 そう言って社長同士ががっちり握手していた。

 ホタルが俺の隣で囁いて来た。


「先輩、さっき川越部長さんが提案したい事があるって言ってたのは、どんな内容なんでしょうね?」

「送風機の形状の話だけじゃないの?」


「それだったら態々言わないと思いますよ?」

「そうか、まぁ聞いてみたらわかるさ」


 それから聞いた川越部長の提案は、俺の予想の半分は当りだったかな?


「と、いうことで実際に現在稼働している、火力、原子力の発電設備は恐らく一年もたずに稼働停止に追い込まれるでしょう」

「話は何となく分かりますが、世界中の需要を満たすような、新型発電機の生産はとても間に合わないですよね?」


「そこで、確認させて頂きたいのですが、現在稼働中の発電システムもようはこの発電機と規模が違うだけで、タービンを回して発電するという点では同じなのです」

「なるほど……それで提案の内容は?」


「発電所のタービンを回せる規模の魔導送風機の作成は可能なのでしょうか?」


 俺は少し考える素振りをみせたが、俺なら十分可能だと思う。

 それに加えて、化石燃料を使用するタイプの船舶や航空機のエンジンであっても、恐らくすべて魔導送風機に置き換えることは可能だろう。

 問題は動力になる魔石がその需要を満たすだけの量が確保できるかという点だけど……


「川越部長、やって見なければ解らない部分はあるのですが、恐らく可能だと思います。規模やサイズを確認したいのでどこか見せてもらえるような場所はあるのでしょうか?」

「それは、既存の電力会社が保有している現在稼働停止中の原子力発電所などであれば、政府を間に入れることで見学は可能だと思います」


「アレク電機さんとしては、利点はあるのですか?」

「魔導送風機と発電所のタービンを繋げる部分の部品製作を受注できるのであれば十分です」


 俺は東雲さんに確認を取った。


「東雲さん。島長官に連絡を取って今の話を報告して頂けますか」

「解りました」


「この件も川越部長が担当でいいのですか?」

「はい、今回の件で私も権限を少し増やさせて頂いて来月から、執行役員の常務として、JLJさんに専従させて頂く事になりますので、これからもよろしくお願いいたします」


「そうなんですね。おめでとうございます。政府からの返事がありしだい動き始めましょう。恐らく日本だけというわけには行かなくなるでしょうし、出来ればカージノ王国大使の歓迎晩餐会までに発表出来るようになれば、随分と今後のカージノを取り巻く環境が変わるでしょうから」

「小栗さんは随分とカージノ王国と親しくされてますよね? 我々も出来れば、今後最大の顧客となるカージノ王国と懇意にさせていただきたいのですが、面会の都合など取り付けてもらうことは可能でしょうか?」


「そうですね。ポーラ王女が着任されて以降であれば、一度機会を作っていただけるように頼んでおきましょう」

「よろしくお願いします」


 川越部長との話を終えると早速島長官から電話が入って来て、資源エネルギー庁の職員が早急に面談をしたいという話になり、俺とホタルと東雲さんだけがアレク電機に残り、川越部長と共にエネルギー庁の職員を待つ事になった。

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