第76話 各国の動き

(アメリカ大統領バイソン・メンデス)


「レイモンド大将、その報告は事実なのか」


 ホワイトハウス内でアメリカ大統領である、メンデスは統合参謀本部議長であるレイモンド大将からの報告を受けていた。


「はい、現在配備されている核爆弾や火薬を使用した銃やミサイルなどの威力が、すでに報告されている化石燃料やエネルギー資源と同様に三十パーセント程度の威力の減衰を起こしています。このままでは恐らくすべての火砲は一年後をめどに役に立たなくなる見通しです」

「ジーザス……それでは世界中の兵器と呼ばれる物は火薬の発明以前の状態に戻ってしまうと言うのか」


「その可能性は高いかと」

「もしそうなってしまえば、剣と弓でしか戦えないという事なのかね」


「それは……カージノ王国にあると言われる魔法文明はどうなのでしょうか?」

「魔法……それは、地球人類が覚えることは出来るのか?」


「今までの、という事であれば実現性は薄いと言わざるを得ませんが、すでにカージノ大陸及びカージノ王国の国民も地球に居る以上、地球人類と呼べるのでは無いでしょうか」

「それでは、地球上の八十億にも達する人類は、これから先カージノ王国に頭を下げ、魔法の力を借り暮らしていかなければならないという事なのか?」


「そうなる可能性は高いと言わざるを得ません。幸いにもアメリカは日本と共にカージノに対して友好的な対応を取っていますので、世界各国に先駆けて魔法文明の受け入れ態勢を模索するべきだと思います」

「駐日大使のギルバートから、カージノ王国のポーラ王女を歓迎する晩餐会にはシリウス国王も参列すると返事をもらっている。世界に先駆けてアメリカがシリウス国王とのトップ会談を行わなければならない。ここで日本に主導を取らせない事は重要だな」


 ◇◆◇◆ 


(中国国家主席モウ・チェン)


 腹立たしいな。

 アメリカと日本の連名でカージノ王国の大使を迎える晩餐会への招待状だと?

 しかもバイソンの奴が態々、直接の出席をするから国家元首クラスの参加を望むなど求めてきている。


 奴らはカージノをどう扱うつもりなのだ。

 これに参加しない事での不利益は何だ?


「モウ主席、エネルギー源の消失に関しての報告はお読みでしょうか?」

「うむ、目を通している。この問題は我が国にとっても大きくはあるが、世界中の化石燃料や弾薬、放射性物質が等しく失われるのであれば、残るのはなんだ?」


「と、言われますと?」

「人民だ。我が中国は世界最大の人民を抱えている。しかも同じく人民大国であるインドと比べても、我が政権の意思を実行させるだけの強制力が大きく違う。もし、本当に近代兵器が役に立たなくなるという状況が訪れるなら、この世界は数の力で我が中国の物になると考えられる」


「しかし……それはどうなのでしょう」

「何が不満なのだ?」


「カージノ大陸の存在です。あの国には魔法と呼ばれる力が存在していると言うでは無いですか? その力がもし近代兵器の無い世界で有効だとすれば、カージノによってこの世界が支配される可能性すらあるのではないでしょうか」

「奴らの言い分では、攻められない限り攻めて来ぬという事であったはずだ。その言葉を鵜呑みにも出来ぬが、一度かの国のシリウス国王と話す機会は作らねばなるまいな。魔法技術が存在するというのならば、それを我が国が取り入れる必要も出てくるであろう」


「では今回の日米連名の招待状はどう返事をなさいますか」

「行ってやろうではないか。まだ日米両国にしてもカージノと深いつながりを持ったとも思えぬ。数の力を有する我が国との付き合いの方が、利があると思わせる事も出来るだろう」


「ではその様に手配を致しましょう」


 ◇◆◇◆ 


(ロシア大統領セルゲイ・ラスキン)


「我が国の外貨収入の大半を担う石油と天然ガスが枯渇するだと?」

「はい……大統領。このままでは一年後には我国だけでなく、世界中の地下資源は枯渇します」


「現在考えうることのできる対抗手段を述べよ」

「現時点で減少や枯渇が心配されないエネルギー源としては、自然エネルギーがあげられます。太陽光や風力、水力などを使用した発電においては一切の減産を確認しておりません」


「早急に、現状使えるすべてのエネルギーの輸出を差し止め、国内の自然エネルギー開発にすべての資源を投入しろ。世界最大の国土を誇る我がロシアの地が、世界最大のエネルギー供給地であるバランスを保つ事こそが、この国を世界の覇者へと導く最良の手段である」

「はい、ですが懸念するべき点があります」


「なんだ?」

「カージノ大陸の存在です。彼の国では魔法と呼ばれる今までの地球の理では存在しえなかった、テクノロジーがあると諜報局からの報告で上がっています」


「それは? 枯渇した資源を補って余りあるような物なのか?」

「解りません。しかし、カージノの存在を無視しては今後の世界のバランスを語れなくなる状況下にあると思われます。我がロシアにおいては農業や漁業などの一次産業に重点産業をシフトする考えも出来ますが、中東の産油国などオイルマネーだけで成り立っていた国家においては、すでにカージノ国にすがる以外に存続すら危ぶまれる状況です。それらの国をカージノと友好的な付き合いを表明した日米などが取り込んでしまえば、大きく世界のバランス調和が崩れます。ロシアとしてもカージノとの付き合いは模索するべきでは? と進言させていただきます」


「日米の後塵を拝することだけは避けねばならん。カージノ大使の歓迎晩餐会には、ホスト国として日米の両首脳が参加するそうだな?」

「はい、それ以外にも現時点で半数以上の国と地域が国家元首クラスの参加を決めたようです」


「モウ・チェンはどうだ?」

「まだ情報が入っておりません」


「乗り遅れることは避けるべきか。参加はしよう。しかし自然エネルギーへのシフトと、現有する資源の輸出停止は即日発動するようにしろ」

「了解いたしました」


 ◇◆◇◆ 


(日本国首相『藤堂晃』)


「島長官。各国の反応はどうだね?」

「通達を出して五日を経過しましたが、世界中で日本が承認している百九十五か国と台湾を対象として、アメリカを除いた百九十五枚の招待状を出しています。現時点ですべての返事が戻っております。国家元首の参加を表明した国が百か国、駐日大使の参加を表明した国が五十か国、不参加が四十五か国です」


「中国、ロシアが元首の参加を伝えてくるとは思わなかったな」

「平常時であれば当然、不参加もしくは駐日大使での参加だったでしょうが、エネルギー問題が国家首脳レベルでは表面化している以上、出て来ざるを得なかったのでしょう」


「JLJの発電装置の開発次第では、日本においても、ほぼすべてのエネルギーが枯渇する事になる。最低限の文明的生活が保障されるようにするためには、カージノとの繋がりは絶対に壊してはならない。しかし……近代兵器までもがほぼ使用不能になる状況は全く予測がつかなったな」

「そうですね、これにより戦争などは日本の戦国時代以前の状況へと戻りますので、それでも戦争を行える国は人海戦術を使える中国くらいしか無くなるかもしれません」


「島長官は中国が動いて来ると思いますか?」

「どうでしょう? 予測がつきませんが、船や飛行機も動かない状況では、少なくとも日本はすぐに攻め込まれる心配は無いでしょう」


「魔法を使えばどうなんでしょう?」

「実際に現在開発中の魔力発電装置は、カージノ王国では船の運航に利用されているそうです。それを使用した新たな交通手段などは今後登場するでしょうが、とても一年後という期限の中では、実用化には及ばない可能性が高いでしょう。そしてカージノ王国としても軍事利用を念頭に置いた魔道具は外に出さないのではないでしょうか?」


「我が国の様に食料自給率が四十パーセントを切っている状況では、早急な対策が必要となります」

「はい。エスト伯爵が使えるレベルの移動や運搬に関しての魔法の習得が可能であれば問題は解決できるのかも知れませんが、楽観視はとてもできない状況です」


「国民が飢える事無く、震える事無く過ごせる様に最大限の手段を取らねばなりませんね」

「はい、日本だけでなく世界中が平和で豊かな暮らしを送るための重要な転換期だと思い、無駄な争いの無い世界をカージノ王国と共に構築できればと思います」


「私の政治家としての全てをかけて、この世界の危機を乗り切ります。協力をお願いします」

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