第75話 ビリーとサンドラの来訪

 東雲さんが電話で連絡を入れると十分もせずに、ビリーとサンドラの二人が現れた。


「初めまして、JLJの小栗です」

「同じく蘭です」


 一応そう挨拶をする。

 事務所には夢幻さんもいたので、俺の部屋へと移動した。


 ビリーが話し掛けてくる。


「小栗さんや蘭さんの変装はどうやって行っているのですか?」

「えーと……どういうことでしょう」


「もういいじゃないですか、私達は小栗さんと蘭さんがエスト伯爵と、通訳官のリュシオルさんだと認識しています。一応先日の会食の後で食器の指紋によって確認もさせていただいておりますので」

「あ、そういう事なんですね。でも、まだ対外的には色々問題点が多いので、このまま小栗と蘭、エストとリュシオルは別人という事でお願いします」


「それは今後の、お話し次第ですね」


 なんだか微妙にマウントを取ろうとしているのか?


「先日のエストが発言したことの繰り返しになりますが、カージノ王国では、元々が自給率百パーセントの国家ですから、カージノが不利な取引などは一切聞き入れることはありませんし、もし地球上の国家が武力によって攻めてきたとしても、それを跳ね返すだけの力があります。お互いが良い関係を築きたいのであれば、強制力のある発言は避けた方が良いと思いますよ?」


 いきなり俺もちょっと強めに発言したので、その場が静寂に包まれた。


「すいません小栗さん。アメリカはカージノ王国と友好的なお付き合いをしたいと願っております。ご協力をお願いいたします」


「解っていただければいいです」


 ビリーとサンドラがこの場は折れてくれたようなので話を進める。

 東雲さんが改めて俺達に現状の報告をする。


「小栗さん。現状では島長官も多忙なので何かあるたびに直接、小栗さん達と話をすることも出来ない状況である事はご理解ください。それと同じように親カージノ国の国家として、日本だけが矢面やおもてに立って世界中の国々との調整を行うことは容易ではありません。その為に基本的には日本とアメリカが情報を共有しながら、カージノ王国とのより良い関係を築き上げたいという方針になります」

「話としては分かりますが、ぶっちゃけカージノとの付き合いによってアメリカも利益が欲しいと言うことですよね?」


「そうです」

「東雲さんはその辺りの答えは島長官からもらっているんですか?」


「はい。日本政府は当然法人としてのJLJ社からの税収も期待しています。海外に関してはJLJ社の株式の保有割合という事で納得して頂く方針だと伺っています」

「なるほど、まぁその条件であれば問題は無いですね」


 とりあえずの応酬が終わって、ここからが本題だった。


「小栗さん、すでに化石燃料の枯渇化については耳に入れられてますよね」

「ざっとですが……」


「アメリカの試算によると、一年後には化石燃料の採掘もウラン鉱石などの採掘も出来なくなるとの見解が出てます。それどころか現在採掘済みの化石燃料や放射性物質もどんどん目減りしているのです」

「えっ? それは貯蔵庫から消失しているという事なんですか?」


「はい、その通りです」

「アメリカの原子力発電所内でもウラン235や238を固めたペレットを使用しているのですが、カージノ大陸の出現以降これらがほぼ三十パーセントに及び消失しています。このままでは一年後には世界中で発電事業の継続が難しい状況に陥ります」


「それをどうしろと?」

「JLJ社が提唱している発電に関する新技術があると伺っております。これをオープンにしていただきたいと思っています。電力の今後の安定供給が保障されなければ、世界中の産業が衰退し、それこそカージノ王国のような魔法技術の活用が出来なければ近代的な生活は維持できないでしょう」


「うーん……別に発表は構わないですけど、どうやって作るんですか?」

「簡単では無いのでしょうか?」


「ビリーさんはミスリルを大量に用意できる手段はお持ちですか? オリハルコンでもいいですが」

「いえ……」


「新しい発電方法は確かに存在しますけど、それには今まで地球上に存在しなかった、それらの金属が必要となります。それを安定的に手に入れる方法が出来るまでは軽々しく請け負うことはできません」

「解りました。前向きにご検討ください。来るべき事態に向けて我々が用意出来ることはありますか?」


「そうですね、金と銀を可能な限り集めておいた方がいいと思います」

「金と銀ですか?」


「先ほど言ったミスリルとオリハルコンはそれぞれ銀と金に魔力を練りこみ錬金をした物になります。言うのは簡単ですがカージノでも安定的に生産が出来る物ではありませんので、量は多ければ多いほどいいとしか今は言えませんね」

「解りました」


 話を終えてビリーとサンドラの二人が帰った後で東雲さんに確認を取る。


「基本的に日本政府からの要望は東雲さんから聞けばいいということですか?」

「そうですね、ビリーとサンドラの立ち位置になるのは、外務省のお二人になりますが、情報は私が共有させて頂いていますので、確認や調印の段階になれば島長官や澤田さん、横井さんが適宜参加されます」


 ホタルが質問をしてくる。


「あの、先ほどの話だと燃料が消失しているって事ですよね? それってガソリンスタンドのガソリンとか車の中に入っているガソリンも減っているんですか?」

「はい、その通りです。まだ正式な発表はされていませんが、各国の政府レベルでは認識されている問題です」


 事態は思ったより深刻だった。


「ホタルはこの現象ってどう思う?」

「そうですね、カージノ大陸って化石燃料とかまったく使って無かったじゃないですか?」


「あーそうだな、木炭や薪は存在してたけど、石油や石炭は見たことが無いな」

「その替りにある物って言えば?」


「魔力?」

「そうです。もしかしたら無くなった化石燃料や放射性物質が魔力って言うか魔素に変換されてるんじゃ無いでしょうか?」


「ありえるな、だとしたらその魔素を吸い込んだ生物がモンスターに変質する可能性もあるっていう事だな」

「十分に考えられますね」


 その会話を聞いた東雲さんが質問してくる。


「小栗さん? もしですよ、それで本当にモンスターが地球上に発生したとして、倒したらカージノと同じようにお告げカードは現れるんでしょうか?」

「それは解らないですけどオグリーヌはこの地球にも神様は存在していると言ってましたし、信仰する神様の加護のこもったカードを手にする可能性はあるかもしれませんね」


 仮定の話ではあったけど、可能性としては十分ありそうだな。

 謎の深まる一日となった。

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