第74話 治療

 事務所に戻ると夢幻さんだけが居て話し掛けてきた。


「小栗君。【聖女】スキルを身につけて何ができるのかを試していたんだが困った状態なんだ」

「あ、やっぱり魔力不足で発動できないとかですか?」


「そうだな、基礎能力が低すぎて聖属性魔法のレベル3を一回発動するのがやっとみたいだね。恐らく白血病の治療だとレベル8程度の再生能力を使わないと難しいと思う」

「レベル8の能力だと魔力が80無いと発動できないですね。とりあえず藤崎さんの妹さんの治療の際には俺の魔力ステータスを貸与しますからそれでお願いします」


「そんな事が出来るのかい?」

「はい、【聖女】スキルは【勇者】の眷属のような一面があって勇者の所持するスキルが貸し出しできます」


「それならよろしく頼むな」


 夢幻さんと俺が話していると、ホタルが声を掛けてきた。


「私も、聖属性魔法のことを自分なりに考えてみたんですけど、攻撃的な魔法ってターンアンデッドくらいしか無いと思いましたが、人やモンスターの身体の構造を理解しているなら、脳の血管を詰まらせたり心臓を止めたり出来そうですよね」


 その発言を聞いて俺と夢幻さんは一瞬動きが止まった。


「出来そうなんですか夢幻さん?」

「あ、ああ。恐らくできるな」


「やらないでくださいよ?」

「大丈夫……なはずだ」


 即死系の魔法が聖属性に存在した事実は聖属性魔法所持者の三人で、秘匿しようと決めた。


 藤崎さんから連絡が入り、妹さんを病院へ迎えに行っているけど何処へ連れて行くのが良いか尋ねられたのでJLJの事務所へ連れてきてもらう事にする。

 三十分程で藤崎さんが到着し、妹さんを俺の部屋へ連れて行った。

 妹さんは、病のために痩せてこそいたがお姉さんに似て、とても美人さんだった。


「あの? みなさん初めまして、姉の会社の方達なんですよね? 今から何があるんですか?」


 藤崎さんは妹さんに詳しい説明はしてなかったようだ。

 俺が代表して答えた。


「えーと、名前を教えてもらっていいですか?」

「藤崎友里恵です」


「友里恵さんは今から魔法治療によって病気の治療をさせていただきます。ただしこれは公にはできない事ですので、治療の内容は秘匿して頂きます」

「あの……本当に、この病気が治るんですか?」


「はい、治りますよ。ここにいる夢幻先生によって元通りの健康な体になります」


 そう伝えると、まだ治っても無いのにお姉さんに抱き着いて泣き始めた。


「お姉ちゃん、私本当に助かるの?」

「うん、大丈夫だから。その替り約束はちゃんと守ってね。抱きついたままじゃ治療が出来ないから、大人しくそこに横になって」


 そう伝えるとベッドに横たわった。


「夢幻さん、お願いします」

「ああ、任せてくれ。白血病の原因は骨髄の中にある造血細胞が癌になる事によって発症される病気なんだ。だからまず骨髄の再生を行い、体を流れている血液の白血球を正常値に戻すという二つの治療を行う事で治療は行える筈だ」


 俺は夢幻さんに、三段階目の魔力レベル十を貸与した。

 これで夢幻さんの魔力は310だから、治療には十分だろう。


 夢幻さんが藤崎さんの妹さんの身体を探る様に、再生魔法を発動した。

 淡い光が全身を包み込む。

 その状態が五分ほど続き、夢幻さんが大きく息を吐いた。


「これで大丈夫なはずです」


 夢幻さんがそういうと、友里恵さんが目を開けた。


「お姉ちゃん、身体がきつくないよ。本当に治ったみたい」

「友里恵さん。病気の治療は行いましたが、失われた体力などはまだ戻っていませんので、一度病院に戻って検査をしてもらって、しっかりと食事をして体力を戻すことをして下さい」


 夢幻さんの言葉に無言でうなずき、再び藤崎さんに抱きついた。


 ホタルが夢幻さんの治療に感激したみたいで、宣言をした。


「私も聖属性魔法が使いこなせるように、医学や人体の勉強したいです!」

「ホタル、それならまず、知能のステータスを上げたらいいと思うぞ」


「解りました。百上げるのに必要な金額ってどれくらいでしたっけ?」

「十億ちょっとだな」


「結構かかりますね……魔力も上げなきゃいけないし、お金たまるまでは先輩の能力貸してくださいね」

「あ、ああ。わかった」


 友里恵さんは再び藤崎さんが病院に連れて帰って、本当に治っているのかを検査してもらうことにしたが、治っていたとして必ず何で治ったのかを聞かれるのは間違いない。

 そこで、どう答えるかを相談した。


「それは、あれですよ先輩」

「なんだ? ホタル」


「女神聖教のオグリーヌ様に祈りを捧げたら、聞き届けてもらえました! が一番よくないですか?」

「うーん……どうだろ? とりあえずはそれで誤魔化せそうだけど、他の宗教の恨みを買うって言うか、敵対視とかされないかな?」


「あー……ありそうですね。でも他にいい案あります?」

「無いな……とりあえずそれでいいか。ということで、友里恵さん、もしお医者さんに聞かれたら、そう答えるようにお願いします」


「はい、わかりました……でもこんな能力を持たれているなら、もう夢幻先生や小栗さん達が神様でもよくないですか?」


「「「よくないです」」」


 そこだけは三人声が揃った。


 藤崎さんも元気な友里恵さんの姿に涙ぐんで、俺達にお礼を告げる。


「小栗さん、夢幻さん、ホタルちゃん。本当にありがとうございます。この御恩が返せるように一生懸命がんばります」


 そう言って、友里恵さんを連れて戻って行った。


「さすがですね。夢幻さん。俺達じゃ白血病の原因とか解らないし、いくら魔法が使えても治療は出来なかったと思います」

「でもさっきホタルちゃんも言ってたけど勉強さえすれば理解は出来るからね。それよりも、この再生の能力で部位欠損なんかも治せるようにはなると思うけど、先ほどの友里恵さんの治療でもそうだったように、衰えた筋肉とかを増量させたりできないって事は、聖魔法だけでは駄目だと思うんだが、何か良さそうなアイデアは無いかい?」


「うーん、思いつかないですね。今度オグリーヌに聞いてみます」

「よろしく頼むよ。とりあえず今貸してもらった魔力のステータスは、戻せばいいのかな? 私の貯金が十億円くらいならならなんとかなるので、時間のある時に神殿に連れて行って貰えるかい?」


「あーはい、魔力のステータスは回収させて貰いますね。でも……凄いですね、そんなお金を持ってるとか」

「まぁある程度は本が売れてるからね」


 そんな話をしていると東雲さんが戻ってきた。


「小栗さん、今日はこの後のお時間は大丈夫ですか?」

「うん、今日は予定は無いはずだけど、何かあったの?」


「昨日の会食でアメリカ大使と一緒に居た二人は覚えていますか?」

「ああ、確かビリーとサンドラだったっけ」


「はい、その二人が小栗さんと蘭さんに会いたいそうです」

「えーと、エストとリュシオルじゃなくて、小栗と蘭なの?」


「そうですね。はっきり言ってCIAを相手に、その名前じゃ全然隠せてないと思いますよ?」


 今更ながらだが、とりあえずは面会は許可をする事にした。

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