第70話 海だー
カージノ王宮の中庭に転移した俺は、まだ陛下に謁見を求めるには時間が早いので、中庭に置かれた白い大理石製のカフェテーブルの周りに置かれた籐のような木材で作られた椅子に腰かけた。
すると、王女のおつきの侍女が何処からともなく現れて、お茶の用意をしてくれた。
「朝早くからゴメンね」と声を掛けたら「いつも美味しいデザートを頂いておりますので」とにこやかに返事をしてくれた。
なんとなく気分が良かったので「王女に内緒で、みんなでわけて食べてね」と伝えて、インベントリからゴディバのクッキーとチョコの詰め合わせを出して渡した。
「ありがとうございます!」と深々と頭を下げて、王女が起きだしてくる前に控室へ持って行っていた。
「王女は朝は何時頃に現れるのかな?」
「八時前には朝食に向かわれて、朝食後はスケジュールのチェックと、仕事がある場合はそのまま片づけられます。この中庭に姿を現すのは十時前後です」
「へぇ、いつもここにいるイメージだったけど、ちゃんと仕事もしてるんだね」
「王女様は大変お仕事熱心ですよ。弟殿下達が学園を卒業されるまでは本来王太子がなされる仕事もそつなくこなされていらっしゃいます」
「そういえば聞いた事無かったけど王女に弟がいたんだ?」
「エスト伯爵? 恐らくこの国の貴族でそれを知らない方は他にいらっしゃらないかと思いますよ」
「そうか……ゴメンな。王室の事とか全然学んでないからな俺。弟殿下達って何人居るの?」
「第一王子のアンタレス様の一歳違いでポルックス様とカストル様の双子の王子様がいらっしゃいます。それぞれ今は王都のはずれにある国立学園で寮生活を送られています」
「そうなんだ。それならこの国の後継者はアンタレス様が王太子ってこと?」
「いえ……第一王妃様のお子様がポーラ様とポルックス様とカストル様の三名でアンタレス様は第二王妃のお子になりますので、まだはっきりと王太子様は決まっていない状況です。陛下の性格からしても実力主義を常日頃から謳われていますので、どうなるのかは私どもでは考えが及びません」
「そうなんだ。それってカージノ王国の内乱の火種とかなったりしないのかな?」
俺がそう聞くと指を唇に当てて「そういう勢力争いのような会話は王宮内では
「あ、そうなんだゴメンね」
もし、後継が上手くいかなくて他の国がちょっかいだしたりすると凄く面倒な気がするな……
ちょっとだけ不安要素が持ち上がった。
でも王宮の侍女から話を聞く機会なんて今までなかったから、少しは早く来た意味もあったかな?
ザック達は必要以外の事をあまり話さないからなぁ。
そうやってのんびりしてるうちに時間も九時になったので、陛下に念話をすると、すぐに会えるという事だったので執務室に向かった。
「という事で、アメリカと日本の要請で王女の大使としてのお披露目の晩餐会の席に陛下も顔を出していただけないかという要請があったのですが、いかがいたしましょうか?」
「ふむ、アメリカと日本は国の代表者が顔を出して、カージノ王国を承認するという事であれば、その要請は受けるべきだろうな。参加しよう」
「解りました。ではアメリカと日本にそのように返事をしておきます。当日はお迎えに伺いますのでよろしくお願いいたします」
「うむ、わかった」
陛下の返事をもらって俺は日本へと戻った。
日本では朝の五時半になっていた。
ほとんど寝てないので、少しだけのつもりで横になった。
(ドンドンドン)と扉を叩く音で目が覚めた。
「せんぱーい、朝ですよーもうみんな待ってます―」
ホタルの声が部屋の外で響いていた。
「あ、悪い悪い寝付いたのが五時半だったから寝坊しちゃったな」
「そんな遅くまで夜更かししてたんですね。ザック達に外を歩かせるわけにもいかないので私の部屋に連れてってますから、大使館に転移で連れてってください」
「了解だ」
ホタルの部屋からザックとアインを大使館へ連れて行き、一度王宮に戻ってセバスチャンと話して、こちらに連れて来れる屋敷の使用人を転移の扉で案内しておくように伝えた。
フローラとフラワーは俺達に付き合ってもらおうと思って残している。
「みなさん準備はOKですか?」
「「「はい」」」
俺とホタルと東雲さん、夢幻さん、藤崎さん、フローラ、フラワーの七人で、カージノ王国のエスト伯爵領であるサジタリウス地区のビーチへと転移を行った。
「海だー! 凄いです! こんな綺麗なビーチは始めて見ます」
転移してすぐに藤崎さんが大はしゃぎして声を上げた。
何処までも続く真っ白なビーチで大陸方向を見ればマングローブの林が見える。
この辺りでは丁度今がお昼の十二時頃になるのだろう。
太陽が真上に近い位置から燦々と降り注いでいた。
季節はもう十一月だけど亜熱帯地域に属するこのビーチでは気温も二十五度くらいまでは上がっていて、一年中ビーチを楽しめそうな気がする。
潜水艦の衝突したヴァルゴ地区なんかだと、赤道にほど近い位置だからもっと暑いだろう。
「小栗君、想像していた以上に綺麗で広いビーチだね。この目に見える範囲はすべて自由に使える土地なのかい?」
「そうですね、まだ境界になるラインをしっかりと引いてないですけどこの海岸から、奥行き五キロメートル、長さ千六百キロメートルがエスト伯爵領となります。開発は自由に行って良いとは言われていますが、自然環境に配慮した開発を行おうと思っています」
フローラとフラワーもビーチは初めて来たので、耳をピョコピョコさせながら綺麗な景色を楽しんでいた。
東雲さんだけは、ヴァルゴ地区の海岸を見ているので反応が薄い。
「先輩、この後はどうするんですか?」
「そうだな、ここでは今は何もできないから、とりあえずはギャンブリーの街に向かおう。通行証とか持って無いからとりあえずは屋敷の中に行きますけど、その後はすぐ狩りに向かいます」
そう言って、ギャンブリーの街の屋敷の俺の部屋へと転移をした。
「フローラとフラワーはここでゆっくりしておいで、俺達はお告げカードの取得に行って来るから」
「はい、かしこまりました。お気をつけて行って来てください」
再び転移を発動して、俺やホタルが最初にこの大陸に来た時に着陸した林の先へと降り立った。
「さぁ、みなさん実際にモンスターを狩ってもらいますから、気を引き締めてお願いしますね!」
さすがに緊張してるみたいで、こくりと頷くだけの反応だった。
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