第69話 ギルバート駐日米大使

 カージノ側の六名と日本側は島長官と外務省の二人、それにSPを伴い会食のためのホールへと向かう。


 メインのテーブルに着くのは、俺とザックとアインの三名で、リュシオル、フローラ、フラワーはそれぞれ後ろに立った状態である。


 リュシオルが俺の耳元で囁く。


「先輩……後で、寿司の出前頼みますよ? フローラとフラワーの分も」

「ああ、フローラたちって寿司食べれるのか?」


「大丈夫でしょ?」


 こちらが席に着いたタイミングでアメリカ大使が二人の人間を連れて入って来た。

 座ってから入って来るとか、意地が悪いな。

 一応、大人の対応をしなきゃな? と思いながら、立ち上がり握手をする。


「駐日アメリカ大使のマイケル・ギルバートです。一緒に居る二人は本国からカージノ王国との円滑なお付き合いをする為に派遣された職員です」

「ビリー・ブラウンです」

「サンドラ・スチュアートと申します」


「先日バーン大佐にお願いした件もブラウンさんやスチュアートさんとお話が出来るという認識でよろしいのでしょうか?」

「その認識で大丈夫です」


「先日は我が国の『ラン・フォア・ローゼス』の危機をエスト伯爵閣下がお助け下さっと伺っております。大統領からもしっかりとお礼を伝えるようにと伺って来ています」

「ああ、それに関してはモンスターの排除には積極的にお手伝いできればと思いますが、あくまでも手が空いていればの対応になりますので、この先、カージノ本国の冒険者ギルドとの橋渡しができればいいと思いますが」


「それは我がアメリカを、カージノ大陸に招待して頂けるという事でしょうか?」

「カージノ国内には大使館の設置などを置く予定は今の所考えておりません。理由としては、日本に設置させて頂いた大使館だけですべて事足りると考えているためです。カージノ大使館内部には【転移の扉】と呼ばれる魔道具が設置してあるために、必要な協議はすべて迅速に本国に持ち帰り検討できます」


「なるほど、先ほど日本の報道関係とのやり取りもテレビジョンで拝見させて頂きましたが、民間レベルでの交流は渡航も含めて行うという事でしたが、その辺りの取り扱いはどう違うのでしょう?」

「私の領地が大陸西側の海岸線部分に千六百キロメートルに渡って存在しているのですが、そこはカージノ国民は誰一人住んでない場所です。そのビーチ部分の一部に限って、これから民間レベルでの国交を行うために試しに開放してみようと思っている所です。正式な国の使者を受け入れれば、問題があったとしても締め出しも大変ですから、民間レベルでのみ許可をするというスタンスですね」


 いきなり話が長くなりそうだったけど、島長官が割って入って、とりあえずはディナーをいただいた。

 食事が終わり、コーヒーを飲みながら本題に入る。


「今日は、ポーラ王女が着任した際の晩餐会を行うにあたって、ホスト国と招待国の選定という事でしたよね」と俺が切り出した。


 それに対して島長官が日本側の体制を答えた。


「晩餐会は二週間後に行うということで、ホスト国は日米連名で、日本からは首相と皇室からのご参加をお願いしてあります」


 それに反応してギルバート大使もこれ以上無いメンバーを発表した。


「我が国と致しましてもホスト国としての名に恥じない様に、大統領がお見えになります。それを踏まえた上で各国にも国家元首クラス、もしくは名代となりうる役職の方の参加をお願いします」


 思った以上の豪華メンバーになりそうな気がするな。


「招待国はどう選定するんでしょうか?」

「一応事前に、私とギルバート大使で大筋を決定しております。国連加盟国に限定せずに主権を唱える国と地域のすべてに招待状は出します。それに対して返答期限は一週間後までに参加の可否と、誰が参加するのかで席次を決めさせていただくという事で纏めました。席次に関しては、不公平が無いように、優先すべきはその国での序列の順位が何番目の方が参加されるのか? と、同じ序列順位の参加者の場合は人口の多い国順に王女に対して挨拶する事になります」


「どうなんでしょう? 各国は日本大使でなく元首クラスが参加を表明するでしょうか?」

「それを含めて、カージノ王国と真剣に付き合う気があるのかの判断材料とされれば良いのではないでしょうか?」


「解りました」


 ここでギルバート大使が一つ面倒な提案をしてきた。


「エスト伯爵。一つ提案があるのですが?」

「何でしょうか?」


「アメリカと日本は少なくとも国家元首が礼を持ってカージノ王国の大使を迎えようと準備をしています。カージノ王国側もこの日一日だけでもシリウス陛下が顔を出していただく訳にはいきませんか?」

「予定はしておりませんでしたが、本国に持ち帰り陛下の判断を仰ぎましょう」


「よろしくお願いします」


 アメリカが大統領を出してくる以上は当然言い出して来るかも? とは思っていたが、陛下はどう返事するかな……

 俺としては、どちらでも構わないので、ここは陛下の判断に任そう。

 明日カージノに行った時に、一応聞いておこう。


 会食が終わり日本政府の車で大使館まで送ってもらった。

 

「ホタル腹減っただろ? ザック達もお疲れさん。JLJの事務所に移って、出前とろう」

「あの……エスト伯爵、私は以前日本政府の用意した食事で寿司はいただきましたが……生の魚が少し苦手で他の物でもいいでしょうか?」


「なんだザックは生魚苦手なんだ、アインもそうなのか?」

「はい……できれば他の物が」


「ホタルどうする?」

「私はもうすっかり気分はシースーですから、寿司の出前とピザの宅配を頼みましょう、チキンも一緒に!」


「解った。俺はもう腹いっぱいだから、出前の電話したら先に大使館の壁造っとくぞ、隠蔽もかけないといけないし」

「了解ですー」


 俺は出前の電話をして、ホタルに出前料金を渡すと転移で大使館に戻った。

 さて、近所のマンションからどうせ見られてそうだし、先に隠蔽かけるか。


 大使館の敷地全体を覆う隠蔽魔法を発動して、その後で土魔法によるセラミック製の壁を作り始めた。

 敷地全体を高さ五メートルの真っ白な壁で囲い終わるとすでに夜中の三時を回っていた。


 カージノは今はもう朝の七時か……

 今のうちに陛下に昨日の話を伝えておこうかな。


 そのまま転移で、カージノ王宮へと移動した。

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