第67話 エスト伯爵の国際舞台デビュー

 明日の予定を話しながらも事務所の大型テレビは、島長官が本日カージノ王国よりエスト伯爵が来日して来た事を伝えていた。


 その中で今までの世界での一般常識では存在しなかった、空間魔法による魔道具で一万キロメートルの距離を一瞬で移動できる【転移の門】の存在を告げ、カージノ王国と日本が繋がった事や、既に今朝の報道でも取り沙汰されている、カージノ大使館の移築に関する話をしていた。


 現状ではカージノの国民が無制限にカージノ大陸の外に出てくるような事は無い事、今後カージノ大使館の出入りには日本政府が設置する税関を通らないと出入りが出来ない事などが明言され、例外の場合は必ず日本政府の運行する車両を使う事などが発表されていた。

 突っ込みどころが満載過ぎて、報道陣も何をどう質問していいのかわからない様で、比較的穏やかな質疑応答であるが、この後、午後五時からカージノ王国の有力者であるエスト伯爵の会見を行うということで、いったん島長官の会見は終了した。


「それではそろそろ俺とホタルは政府の迎えが来ると思うので、大使館に移動しますね。明日は体力を使うので皆さんもゆっくり体を休めていてください」


 そう告げると二階のホタルの部屋に向かい、一緒にカージノ大使館の中に転移した。


「ホタルはゆっくりできたのか?」

「ええ、そりゃぁもうぐっすりさせていただきました! って言いたい所ですけど、色々調べてましたよ」


「何を調べてたんだい?」

「ほら、折角世界中の言語を理解できるようになったわけですから、各国のカージノ王国に対する反応を掲示板なんかから、探ってました」


「へー、何か面白い反応はあった?」

「そうですねぇ。ある程度は想像通りって言うか内陸国に至っては全く無関心ですね。モンゴルとかアフリカの中央部とか」


「まぁそりゃそうだろうな。問題は砂浜をたくさん抱えている様なとこだな」

「ロシアやカナダは海岸線は長いですが、あまり影響は無いようですね。あまり掲示板も盛り上がって無いです。逆に絶対賠償をもぎ取ろうっていう声が多いのは日本以外のアジア各国っていう感じですね。でもその中でもインドネシアと台湾は立地的にカージノ大陸に近い事もあるかも知れませんが、友好的に付き合えればいいな? 的な意見が多数派ですねー」


「なるほどな。大崎さんが港湾工事の人夫を東南アジアから集める方がいいと言ってたけど、今のホタルの情報から考えるとインドネシアと台湾に絞ってもいいかもな」

「親カージノ国は仲良くしてもらえるんだ? 的なイメージを植え付ければ世論も動きそうだし」


「そうですねぇ、バレない程度に各国のアカウント適当に作って工作活動でもしましょうか?」

「それだと発信元が日本だってバレない?」


「何を言ってるんですか! 勿論先輩の転移で各国のネカフェから書き込んじゃうんですよ」

「なるほどな!」


「官邸にはザックやフローラたちも一緒に行くんですよね?」

「ああ、勿論そうだな。そう言えばさアンドレ隊長がベーアにスキル購入してあげてたんだよな。折角だからフローラとフラワーにも有用なスキル買ってあげて、走らせてあげたいと思うんだがどう思う?」


「どうなんでしょうね? 後でフローラたちとお話してみますね。今更なんですけど神殿で走るよりも、夢幻さんのビーチ競馬で走る方が健康的で楽しそうな感じもするんですけど」

「そうだね、それにしてもスキルは合った方がいいし、欲しいスキルとかあるか聞いておいてよ」


「解りましたー」


 十六時前に大使館前に日本政府の迎えの車が到着し、全員で首相官邸へと向かった。


 今までは主役であったザックとアインの両騎士爵が、警護のSPの様に俺を護る体制で付き従う姿から、エスト伯爵の大物感は少し出せたのか?

 俺が首相官邸へと案内されると、出迎えには藤堂首相が姿を見せてきた。

 俺とがっちりと握手をして、応接室へと案内する。


 こちら側はソファーには俺だけが腰かけて、リュシオルが俺の後ろに立ち、ザックとアインは騎士としてSPの位置へとついた。

 フローラとフラワーは控室で待機して貰う事になる。

 日本政府側は、藤堂首相と、島長官の二人がソファーに着き、外務省の澤田さんと横井さんは壁際に置かれた椅子に腰かけている。

 後は警護のSPがザック達が二人だけであるので日本側も二人だけが立っていた。

 その体制で落ち着いた所を報道が一社だけざっと撮影して、すぐに退出して行った。

 これは当番的な報道局が各社に分け与える映像になるのかな?


 藤堂首相が話し始める。


「エスト伯爵、ようこそおいで下さいました。この後の会見は島が適当に話しますので、あいづちだけ打っていただければ結構ですので。話す内容は概ね朝のお話の通りですので、報道の質疑応答の時間になったら、差し障りのない感じでお願いします」

「了解しました。そう言えば移築する税関に使用する建物は決定しましたか?」


「はい、カージノ王国側が用意した建物が余りにも立派な物ですから、格が落ちないような建物を検討した結果、皇室が使用していた御所で現在使用していない物件がありましたので、その物件と皇宮警察の詰め所を合わせて移築して頂こうと思います。規模はそんなに大きなものでは無いので十分かと思います」

「解りました。朝の話では移築の様子を公開するとの話でしたが、それも変更は無しでいいですか?」


「はい。私もその現場は是非拝見させて頂きたいと思っていますので、よろしいでしょうか?」

「了解です。ただカージノの建築物はインフラの繋ぎこみが無いので置くだけで問題無かったのですが、日本の物件ですとインフラの繋ぎこみはお願いしなくてはなりませんのでそれだけはよろしくお願いします」


「了解しました。敷地内にはインフラは来ていますので繋ぐのにそんなに手間はかからない筈ですので、指定業者を待機させておきます」

「では手短に済ませたいので、会見の方をよろしくお願いします」


 藤堂首相が話しを終えると、島長官が一言だけ告げてきた。


「あ、エスト伯爵。会見の後はアメリカの駐日大使と時間を取っていただけますか? ポーラ王女を迎えての晩餐会の招待国の確認作業をしたいので」

「解りました。夜間は色々しなければいけない事もありますので、出来るだけ早く終わる様にお願いします」


 俺がそう告げると島長官は苦笑いしていた。

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