第64話 エスト伯爵の来日
俺は、二階の自室へと戻りそこから大使館内に転移で移動した。
エスト伯爵の姿になり、二階の部屋から降りていく。
島長官たちがいるエントランス横の応接室へと顔を出した。
「カージノ王国のエスト・ペティシャティです。よろしくお願いいたします」
一応形だけだが、そう挨拶を行う。
俺がエストの姿で現れたのでザック達も俺をたてる意味で立ち上がり警護のSP達と同じように部屋の隅に場所を移す。
カージノの貴族が立ち上がった事で、島長官以外の外務省の二人も立ち上がったが、それじゃぁ話も出来ないので座ってもらう。
リュシオルだけは俺のすぐ後ろに立ち、フローラとフラワーは俺のお茶を用意しに行った。
「エスト伯爵、改めてよろしくお願いいたします」
そう言って島長官が握手を求めてきた。
そういえばこの姿で島長官に会うのは初めてだな……
「一応確認ですが、この敷地内から出ない範囲であれば私がこの場所に存在することは可能という認識でよろしいでしょうか?」
「そうですね、この後私の方でマスコミ向けに会見を行いますので、転移の扉を使ってエスト伯爵が本日、来日されると伝えエスト伯爵に関しては特例で日本国内の移動を許可するようにしましょう。その後、先ほどの話題で出た税関となる建物の移築を公開の上で行うと発表するのはいかがでしょうか?」
「了解しました。ポーラ王女の来日は税関の移設後にします。後はこの大使館の維持を行う為のスタッフですが、これをカージノ国内から連れてくる事は許可して頂けますか?」
「そうですね。この敷地の外に出ないのであれば問題は無いと思いますが、今朝の報道の様に周辺の高層建築物から見える状態だと無用に騒ぐ連中が湧き出して来る事も考えられますので、その辺りを考慮していただけますか?」
「了解しました。本日から明日にかけての夜間のうちに魔法建築で外壁を仮囲いからセラミック製のものへ変更し、更に敷地全体に認識阻害の魔法をかけ、外側からは認識が出来ないようにしましょう」
「解りました。それでは早速移築する税関として使用する建物の選定と、エスト伯爵の来日を伝える会見を私の方でやっておきます。人員の移動は認識阻害の処置が終わってからでお願いします」
島長官との話が終わると、外務省の次官の澤田さんが訪ねてきた。
「エスト伯爵、確認ですが実際にこの大使館は既に転移の扉でカージノ王国と繋がっているのでしょうか」
「はい。確認されますか?」
俺がそう答えると、澤田さんは島長官に確認をする。
「法的には私達がカージノに渡るのはアウトですね。しかし私も大変興味深い。少しだけ見せていただく事は可能でしょうか?」
「誰にも言わなかったら解りませんので!」
そう伝えると、リュシオルが「それ、駄目な奴だと思います」と突っ込んだ。
「やっぱダメ? じゃぁ扉から向こう側を見るだけならOKということで」
そう言って三人と島長官のSPを連れて二階の奥の部屋へと案内をした。
扉を開け放つと王宮の中庭が広がっていた。
「これで、ここから直線距離で一万キロメートル以上ある、カージノの王宮へと移動できるんですか?」
「はい、そうです」
「ちなみに、この転移の扉と言うものは量産したりは可能な物なのでしょうか?」
「カージノ国内でも販売はされていませんし、今後も売り出す予定はありませんね。こんなものが出回ると世界の運輸関係が根本的に崩壊してしまうので、出回らない方がいいでしょう」
「そうですね……」
「カージノ側からも大使館に関わる人物以外が日本への転移の扉を使う事が無いように徹底しますので、ご安心ください。そもそも普通の人物はこの扉の向こう側である、王宮の中庭に立ち入りなど出来ませんので」
転移の扉の確認を終え、島長官たちは帰って行った。
ザック達は夕方の俺の会見までは自由にしておくように伝え、俺とホタルは自分の部屋へ戻った。
「先輩、私は夕方またリュシオルの姿になるのが面倒だからこのまま部屋に引き篭もってますね」
「だから【聖女】スキル覚えろって。二つに増えたんだし一つは夢幻さんに使わなきゃいけないから、もう一つはホタルでいいじゃん」
「うーん、そうですねー、でも先輩? 私もまだ結局Jランクから上げて無いのでどっちにしても使えませんから」
「あ、そう言えばそうだったな。言語理解を失うわけにもいかないから明日夢幻さん達と一緒にランク上げしてくれよ?」
「はーい」
アズマの姿に戻り、事務所へと降りていく。
斎藤社長と大崎さんは他の用事で出かけてるようだ。
俺が事務所へ顔を出すと東雲さんが「少しよろしいでしょうか?」と声を掛けてきた。
「どうしました?」と返事をすると「内密な話なので上でお話しさせて頂いてよろしですか?」と言われたので二人で俺の部屋へと上がった。
「昨日の調査結果の報告です」
「どうやら小栗さんの部屋を荒らしたのは、中国系のマフィアで間違いなさそうですね。国家は絡んでいないというのが現時点での調査結果です」
「そうなんだ。それは良かったのかな?」
「彼らは邪魔だと思う対象は容赦なく暗殺するような組織ですから、良かったかどうかは解りませんが……例えば小栗さんは意識の外から狙撃をされたりしても生き残れますか?」
「どうだろう? 試してないから分からないけど、常時結界を展開してる訳じゃないから当たり所によっては危険かも? 即死じゃ無ければ治療は出来ますが、よく見かけるラノベの勇者みたいな何万倍ものステータスじゃないですし銃弾や刃物が全く効果が無い訳ではありません」
「問題は彼らが小栗さんに対して何を求めているかなのです。恐らく接触はしてくると思いますので十分に気を付けてください。私も常に守れるようにやはりこの部屋に住んだ方がいいのですが?」
そう上目遣いで見られると少しドキッとしたが……
「それは却下で! この建物には俺が許可をした人間以外は突破できない結界を張るので大丈夫です」
「解りました。今日はこの後の時間の予定はどうなっているんですか?」
「うん。夕方のエスト伯爵としての会見までは、時間が空いてるから潜水艦関係の問題を片付けようと思う」
「解りました。カージノへ行かれるんですか?」
「そうだね。アメリカと連絡を取るにしても、日本からイリジウム電話を使うとよくない気がするから、向こうで処理しようと思う」
「私もご一緒します」
一度下の事務所に降りて藤崎さんに外出を伝えてから、カージノ王国へと渡った。
今日は王宮では無くギャンブリーの屋敷へと向かった。
アンドレ隊長にアメリカからの連絡が入っていないかの確認をする為だ。
「ようアズマ。バーン大佐からエスト伯爵に連絡を入れたいと電話が入っていたぞ」
「あー連絡あったんですね。電話を繋げて貰えますか? 俺の持ってる電話で連絡する訳にもいかないもんで」
「そうだな、エスト伯爵用の電話として一台用意しとかなきゃいけないな」
「それは今日、日本政府とエスト伯爵が会談の予定になっているので、その時に日本側に用意させましょう。恐らくその席にアメリカの駐日大使もCIAのメンバーを連れて顔を出してくると思いますので」
「そうか、一緒に居るお嬢さんは誰だ? ホタルに怒られないのか」
「そういう関係では無いですよ。日本政府から派遣されてる秘書兼お目付け役みたいな人です」
俺がアンドレ隊長に紹介すると東雲さんも達者な英語で自己紹介をした。
「アズサ・シノノメと言います。一応秘密の部分は無いという認識で扱って頂ければと思います」
「ふむ、だが俺達にもそれなりに所属先に対しての守秘義務とかあるのですべてをオープンにはできないという事を理解してくれよ」
「解りました」
「アズマ、少し頼みがあるんだが聞いて貰えるか?」
「なんでしょう隊長」
「スキルを手に入れたいが非常に高額だろ?」
「そうですね」
「俺の所属先がゴールドで資金を用意するから預かって来て欲しいんだ」
「了解です。でも通訳も必要ですよね?」
「ああ、そうだな文字はまださっぱりだからな」
「それじゃぁお金は俺が立て替えるから今から一緒に行きましょうか」
「助かる」
「東雲さんは神殿は初めてだよね? 見学しにおいでよ」
「はい、とても興味があります」
バーン大佐への連絡は神殿の後にする事にして、みんなでギャンブリーの神殿へと向かった。
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