第63話 大使館での記者会見
斎藤社長と大崎さんが報道陣たちの方へ向かって行くと、澤田さんと横井さんが改めて俺に挨拶をする。
「私たち二名に関しては職務の都合上、小栗さんと蘭さんの事は伺っておりますので、その辺りは気を遣わずに応対してください」
「あーそうなんですね。このJLJ内でも正社員の方々には、一応守秘義務を課した上で事実を伝えてはいますが、どこでどう話が漏れ出すかがわからないので、一応黒目、黒髪の時はあくまでも小栗東として扱って下さい」
「了解しました。それで実際はどうなんですか? 移設は小栗さんが行われたんですか?」
「ま、まぁそういう事ですね」
「あの施設を大使館として使う為には、実際問題として税関の設置を完了した後でないと使用を認める訳にはいきませんが、それは納得して頂けますか」
「はい」
「現在日本国内には公式訪問している五名以外のカージノ王国の人間は入国していませんか?」
「それも大丈夫です。ちなみに日本政府の設置する税関はいつ頃用意出来るんでしょうか?」
そう質問をした時に俺の島長官から渡されている方のスマホが鳴ったので電話に出た。
『小栗君。もう表に到着するのでよろしく頼むね』
『了解しました』
他の三名を見渡して「島長官がお着きになられたようです」と伝えた。
四人揃って事務所の外に出ると、斎藤社長と大崎さんもこっちに戻ってきていた。
島長官の乗った車がJLJの駐車場に入ると、先にSPが降りて、島長官を囲むようにしてこちらに向かって来た。
形として外の目があるので社長が挨拶を行う。
「島長官、朝早くからお騒がせしてすいません」
「この騒ぎは、あくまでもカージノ側の行動が問題と伺ってますので、斎藤社長はお気になさらずに」
俺は少しバツが悪くてうつむいた。
前の報道陣たちも島長官の姿に気づいた様だが、先ほど中を案内すると伝えたので、こちらに殺到する事は無かった。
とりあえず事務所へ入って、話の途中であった税関の設置の件を相談することにする。
島長官が提案する。
「小栗さん、税関の件ですがプレハブ小屋で設置するというわけにもいかないのでそれなりの建物を用意したいと思うのですが、カージノ大使館と同じ手法は取れないでしょうか?」
「と、言われますと?」
「実際に存在する公共建築物で使用に耐えるものを移築するのはどうでしょうか? それなら内部の改装程度ですぐに利用できるので大幅に工期の短縮を成し遂げる事が出来ると思いますが」
「それは……可能ですが、小栗東が行う訳にはいかないのでエスト伯爵の来日を認めてもらって、エスト伯爵が移築を行う手段がいいと思います」
「なる程、エスト伯爵一名の受け入れであれば、私が外交官を受け入れる形で手続きの簡略化も可能ですね。ご提案ですがエスト伯爵が行うのであれば移築の様子をマスコミに公開してもいいのではないですか?」
「そうですね。はっきりと魔法の存在を世界に知らしめるのも、必要かもしれませんね。すでに転移の門は大使館内部に設置してあるという前提でしたら、エスト伯爵の来日スケジュールは、島長官の都合に合わすことも可能です」
「了解しました。本日中に条件に合致した物件を選定しておきます。それでは、表がこれ以上騒がしくなる前に、カージノ大使館のお披露目会に行きましょうか」
「はい」
この部屋に居る全メンバーでJLJの事務所から大使館の仮囲いの門まで移動して、内部から門を開けてもらった。
報道の人達や中継を見て集まっていた人々から歓声が上がる。
一般の人々まで受け入れる訳にはいかないので、近場の警察署から警官が出動してきて、一般人へは締め出しを行う。
テレビ局と新聞社のカメラマンとリポーター、記者の入場に関しては不公平にならないように受け入れを行った。
内部に入ったメンバーに対して、ザックが挨拶をしリュシオルが通訳をして説明を行う。
「みなさま方には早朝からお騒がせしたことをお詫びします。見ての通りですが、カージノ王国が日本国より賃貸契約を結んだ敷地に、カージノ王国の伝統的な建築物を移設し、大使館として活用することになり早速移築を行わさせて頂きました。大使館内部に関しては本日エントランス部分だけ公開させて頂きますのでご了承ください。ご質問は後程まとめて伺いますので、案内中の質問はお控えください」
そう告げた後で、大使館へと案内を行った。
前部の庭園部分からエントランスへと入り、エントランスの奥に広がる中庭部分までの撮影を許可したが、部屋の内部に関しては公開を行わなかった。
一通りの撮影を十五分程で切り上げてもらい、この後は島長官とザック、アイン両騎士爵の会談を行うということで、退出して貰った。
当然JLJ側のメンバーも報道陣と一緒に退出する。
前庭に出ると、ザックとリュシオルのみが一緒に出て来て、十分間だけの質疑応答に入った。
ザックが喋った内容をリュシオルが日本人でも理解しやすいような言葉で伝える。
「この建築物をどうやって一日で移築されたのでしょうか?」
「今までのこの世界には存在しえなかった手法です」
「具体的には?」
「魔法の力ですね。今回の場合ですとマジックバックと呼ばれる魔道具にカージノ王国の旧公爵邸であった物件を庭園部分まで含めて収納し、こちら側の土地を掘り下げた上に出現させました」
「そのマジックバックと言うものの容量はどうなっているのでしょうか? これほどの建築物を収納できるなど、この地球の理ではあり得ない現象ですので」
「容量に関しては使う人間次第です。魔力と呼ばれる力が高い者が使えばもっと大きなものでも収納できますし、カージノ国民でも一般的な人々では精々、百キログラム程度のものしか収納できません」
「その魔力は地球の人間でも身につける事が出来るのでしょうか?」
「カージノ大陸の全国民が信じる女神オグリーヌの加護が与えられれば不可能では無いかもしれません」
「どうすれば加護を受けれるのでしょうか」
「心から女神を信じ、祈りを捧げることです」
「その祈りはどこでも捧げることはできるのでしょうか?」
「女神の神殿で捧げるのです」
そんな祈りなんて捧げなくても既にお告げカードを手にしてる斎藤社長が俺の方を見て、止めなくていいのか? 的な表情を見せていたが面白そうだから放置することにする。
報道記者たちにはそんな事解るはずも無いので、まじめに聞き入っているが、これが報道されたら一体どうなるんだろうな?
日本、いや世界中でオグリーヌ信仰が流行するかも?
質疑応答もさっさと切り上げて、俺達が事務所に戻ると、夢幻さんと藤崎さんが出勤して来ていて、テレビ中継に見入っていた。
「小栗君! 女神への信仰度合いで加護が変わるってホントなのか?」
「あー、あれはリュシオルの出まかせですから真面目に聞かないでいいです」
「何だそうだったのか。私は真剣に、女神聖教に入信しようと思ったよ」
「さすが夢幻さんですね。でも、オグリーヌは実在する神ですから信心深ければそれなりの効果はあるのかもしれませんね」
「そうか……」
夢幻さんが真剣な顔をして考え込んでいたのが気になるな……
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