第62話 大使館出現で一騒動

 翌朝七時過ぎころに俺はフローラに声を掛けられ起こされた。


「ご主人様、誰かお見えになられたようです」

「う、うーん。こんな時間から誰だよ、四時過ぎまで起きてたからまだ眠いんだよな」


 そうは言っても、フローラやザック達に玄関から顔を出させるわけにもいかないので、渋々ながらベッドから起きだして玄関に向かった。


 玄関に出ると来客は東雲さんだった。


「おはようございます。小栗さん。ちょっと朝から騒動になってますので、すぐに着替えて下の事務所に下りて貰えますか?」

「ん? 騒動ってなんですか」


「いいから急いでください」


 俺は急いで着替えると、下の事務所へと降りて行った。

 事務所に降りると、ホタルも起こされていたようで、まだシャワーの後の髪の毛が濡れてる状態で事務所に来ていた。


 事務所の80V型の大型テレビが映し出しているのは他ならぬ、このJLJの事務所の真ん前にある、カージノ大使館の門だった。

 かなりの報道陣が集まってるようだが、当然他国の大使館の敷地に勝手に報道陣が入れる訳もなく、このJLJの事務所の前に当たる、仮囲いの唯一の出入り口である門の前に集合しているようだ。


「一体何ごとですか?」

「って……小栗さんでしょ? 犯人は」


「犯人って酷いですね。法律に触れるような事はしてない筈ですよ」

「先輩、仮囲いの上にかなりはみ出して大使館の建物が見えてるからじゃないですか? 昨日まで運動場だった場所に」


「あ、そういえば隠蔽駆けるの忘れてた。真っ暗だったから気にならなかったからなぁ」

「困りましたね。どう説明するんですか? 何も説明なしでは乗り切れませんよこんな大騒ぎになってたら」


「どうしよう?」

「しょうがないですね。ザック達と大使館に転移で移動して中から顔を出すしかありませんね。先輩が出るわけにもいかないですから、私がリュシオルになって一緒に顔を出します、着替えるまで少し待って下さい」


「ああ、わかった頼むな」


 俺は上に上がって行ってザックやフローラたちに着替えて貰った。

 

「東雲さん。島長官にすぐに連絡して貰って税関の設置に関わる人をこちらに派遣して貰えるように伝えて貰えますか?」

「解りました。すぐに指示を仰ぎます」


 こんなに明るくなってしまったら、周りの高層ビルから見ると一目瞭然だし、これはしょうがないな。

 どうしようエスト伯爵として顔を出した方がいいのか、それともまだ出さない方がいいのか?

 顔を出してしまえば、この後の土木魔法で行うセラミック壁の工事やその後にかける隠蔽魔法なども説明しやすいけど、いくら大使館の敷地と言えども自由に転移が使えて、日本に侵入したと騒がれるのも本意では無いな。


 それならば、ザックがやったことにした方が話しが穏便に済みそうだ。

 転移の扉を使って、大容量のマジックバッグを使用したことにするか。

 後で一つ作っておこう。


 そんな事を考えているうちにホタルがリュシオルの姿に着替えて来たので、ザック達と合流して大使館の中へと転移した。


 俺は一人で再び事務所へと戻ると東雲さんに声を掛ける。


「東雲さん連絡は付きましたか? こちらの準備は整いましたけど」

「はい、連絡は付きました。外務省の人間がこちらに見えられます。その後で島長官も顔を出してくれるそうです」


「長官も見えられるのですか? なんかすいません」

「今の国民の興味はカージノ関連の事に集約されていますので、くれぐれも行動は慎重にお願いしますね」


 今俺が外に顔を出しても騒ぎが大きくなるだけだと思ったので、事務所のテレビを眺めながら、どういう報道がされてるのかを確認する。

 報道リポーターが門の前でマイクを持ち喋っている。


『現在、都内のカージノ大使館となる敷地へ訪れています。この敷地は昨日、日本政府がカージノ王国へ対して大使館用地として賃貸契約を結んだ土地です。日本の建設会社により、昨日工事用の仮囲い鋼板の工事が行われていたのですが……わずか一日で完成されたようです。それだけでも十分に凄いのですが、本日の払暁の頃から一般の方からの連絡があり、「旧小学校の敷地に大きな見た事の無い建物が建ち、旧小学校の校舎が無くなっている」との報告が相次ぎました。実際に現地を訪れ、周辺の高層建築物から敷地を確認したところ、確かに通報通りの状況になっており、現在現地で事実確認を行うために訪れています』


 俺は東雲さんと顔を見合わせながら、「これってどうなんですか? 外国大使館の前にこんな報道陣が集まる状況って許される感じですか?」


 そう質問してみた。


「はっきりと大使館としての業務を開始しているのであれば警備がされているので、あり得ませんけど今の状況では一般的な認識だと、大使館用地として契約された程度の認識でカージノ側の業務開始が通達されたわけでも無いので微妙ですね」

「そうなんですね。どう説明するのがいいと思いますか?」


「そうですね。こうなってしまった以上はカージノには魔法という技術があるということを、はっきりと明言した上で魔法技術を用いて今回の移築を行ったと発表するべきでしょう。出来れば差し障りのない部分を報道陣向けに業務開始前の事前公開でもしてあげれば、悪意のある報道にはならないのではないでしょうか?」

「なるほど……ちょっと確認ですけど、大使館としての業務を始める前であれば、俺達がこの敷地に入る事に面倒な手続きは必要ないですよね?」


「大丈夫と思いますけど私だけの判断と言うわけには行きませんので島長官が見えられてから確認を取って行動して頂けますか?」

「解りました。報道陣に対してとかは今はこちらから何も言わない方がいいですよね?」


「はい、そうですね」


 それから三十分ほどで外務省の職員という方が二名JLJの事務所へ現れた。


 時間を置かずに大崎さんと斎藤社長も姿を現す。


 東雲さんがお茶を用意してくれて、事務所のソファーへと腰を掛け話が始まる。


「外務省の澤田と申します。カージノ大使館の税関設置に関して担当させていただきます」

「同じく外務省の横井です。カージノ王国との事務連絡係を担当する予定です」


 澤田さんは四十前後に見える男性の方でガッチリした頼りがいのある体型の方だ。

 横井さんは三十歳前後の女性で、黒縁の眼鏡をかけたザ・出来る女感を出した美しい女性だった。


 こちら側は斎藤社長が代表して挨拶をした。


「えーとまず確認ですが、カージノ大使館の仮囲い工事に関しては、昨日JLJさんが受注して、大崎建設さんが工事を行ったということで間違いないですね」

「はい、間違いありません。大崎建設の総力を挙げて一日で設置を終え、JLJ側でも工事終了の確認を取っております」


 と大崎さんが説明する。


「現在、報道で騒がれている大使館の設置に関してはJLJさんは関係してないという認識でよろしいのですね?」

「はい、話としてザック騎士爵から魔法を使った移設を行う件は伺っていましたが、それに関してJLJが関係したことはありません」


「解りました。それでは確認はカージノ王国のザック騎士爵に行う事になりますね。どちらにいらっしゃるのでしょうか?」

「カージノ一行は昨日から大使館敷地内の小学校校舎に行かれた状況でしたので、おそらくあの移築された建造物にいらっしゃるのではないでしょうか?」


「連絡は付きますか?」

「はい、通訳官のリュシオルさんにイリジウム電話を持たせてありますので可能です」


「あと三十分以内に島官房長官がお見えになりますので、到着され次第敷地内に案内して頂きましょう」

「表に集まっている報道関係はどうしたらいいですか?」


「できればカージノ王国側が見せて構わない部分を、簡単に取材させてあげれば満足して帰るでしょうが、何もなしだと無用に騒がれるかもしれませんね」

「やはりそうですよね。斎藤社長、少しお願いしてもいいですか?」


「了解しました。表の報道陣にこの後、敷地内の簡単な取材を許可するとカージノ側から連絡があったので大人しく待っているように伝えればいいのですね」

「はい、大崎さんも一緒に行っていただいていいですか? 俺が顔を出すと無駄に騒ぎが大きくなりそうですから」


「解った。しかし本当に一晩で移設を完了しているとは驚いたな」


 そう言いながら斎藤社長と大崎さんが表にいる報道陣たちの方に向かって行った。

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