第61話 結局【聖女】は誰の手に?
特別販売フロアを出た俺はホタルたちを探す。
深夜の神殿なので人自体は昼に比べれば少ないので、すぐに姿を見つけることはできた。
「先輩、用事はもう終わったんですか?」
「ああ、終わったよ。でも、こんな時間に神殿を訪れる人たちって何をしに来てるんだろうな?」
「私も気になったんで聞いてみました」
「お、どうだった?」
「この時間帯に神殿にいる人たちはほとんどが、使徒馬娘たちのファンクラブのような存在らしいです」
「そうなんだ……」
「競争が行われていない時間帯は、使徒馬娘たちの公式トレーディングカードが販売されているそうですよ」
「奥が深いな」
「馬娘のランクが上がった時や、特別競走で勝った時にニューカードが販売されて、結構活発に取引されてるんですって」
「なる程ね使徒馬娘たちはこの世界では本当にアイドルなんだな」
「みたいですね、後は推しの子のトレーディングカードを手に入れると投げ銭機能みたいなのが使えて、使徒馬娘がスキルを取得するための補助が出来るそうですよ」
「へーそんなシステムがあったんだな。とりあえず夜が明ける前に大使館の設置をしたいから一度戻ろうか。夢幻さん達も今日は少しだけでしたけど、明後日はビーチにも行きますから、楽しみにしててくださいね」
「そうだな、この時間帯では獣人の若い女子やエルフさんは余り居ないようだし、今度は昼に来てみたいな。冒険者ギルドとかも見たいし」
「そうですね、冒険者ギルドはお告げカードを手に入れてからの方がいいと思います。今の状態だとランクもありませんし」
「その、お告げカードはどうやって手に入れるんだ?」
「モンスターを倒して手に入れます。倒し方や過去の行動でその時に手に入るスキルは変わる感じだと思います。正確なシステムは理解していませんけど」
「そうなんだ、是非いいスキルを手に入れたいもんだな」
「夢幻さんならきっと大丈夫でしょう」
俺達は神殿を出ると再び手を繋ぎ事務所へと戻った。
今まで静かだった藤崎さんが話し掛けてきた。
「小栗さん。カージノ王国凄く素敵な場所ですね。もっと沢山の場所を見て回りたいです」
「ちゃんと国交が始まってからなら、色々見る事も出来ますよ。ただ、モンスターの居る世界だし治安だって現代日本なんかと比べると危険な世界ですから、くれぐれも無茶はしないでくださいね」
「はい。この後は小学校に先程のお屋敷を設置するんですよね?」
「そうだけど、もう時間も遅いし無理に付き合わなくてもいいですよ」
そう伝えるとホタルだけが「それじゃぁ私はお肌に悪いからお風呂に入って寝ますね~」と言ってさっさと二階の部屋へ上がって行こうとした。
俺はホタルを呼び止め「ホタル、ザック達四人を俺の部屋に放置したままだから、腹減って無いかとか確認しておいてくれ」と夢幻さんに聞こえないように伝えておいた。
「えー」と言いながらホタルは消えて行ったが藤崎さんと夢幻さんは「こんな興味深い事を見逃すなんてできるわけがない」と言って、大使館の設置に付き合ってくれることになった。
俺達は三人で真っ暗な小学校の校庭に入って行く。
税関の設置場所が島長官から指示があったので、今までの小学校では裏門に当たる場所が今回の表玄関になる。
丁度、JLJのある方向だ。
入り口はそこ一か所に集約するためにそこから見ると奥の方向に当たる今までの運動場に設置をする事になる。
小学校なのでトラックは二百メートルトラックだが、周りに設置された運動器具や砂場の敷地を合わせると公爵邸を庭園込みの状態で設置しても十分な余裕はある。
「それでは整地から始めて行きます」
公爵邸を地下五メートルまで掘り下げて収納しているので、運動場も横幅百五十メートル、奥行き百メートル、地下五メートルにわたり地属性魔法で掘り下げた。
周囲がちょっとした小山のようになったが、校舎を撤去した後を埋めるのに使うからとりあえずは放置だ。
「小栗君。インフラはどうやって繋ぐつもりなんだい?」
夢幻さんから当然と思えるような質問が投げかけられた。
「夢幻さん。思い出してください。カージノの公爵邸を収納したときにインフラの配管のような物はありましたか?」
「そう言えば見かけなかったな? インフラは必要としないということか?」
「ここは日本ですから今後、事務機器の導入をする為の電気工事などは必要になってきますが、カージノでは一般的なガス、水道、電気と言ったインフラは使用していなかったのです」
そう伝えると藤崎さんが聞いて来た。
「小栗さん。電気とガスは使っていなかったでわかりますけど、水道はどうなんですか? それにおトイレの問題もあると思いますが」
「俺も最初は不思議に思ったんですけど、カージノではトイレはスライム浄化槽が普通に使われています。完全に分解され庭園の水まきなどで利用されてますね。生活排水も同じです。給水に関しては水属性の魔石を使った給水の魔道具が使用されています」
「そうなんですね。考えようによってはこの世界の下水道システムより効率もよさそうですね。でも……疫病の蔓延などは心配ないのでしょうか?」
「それは当然心配ですよね。俺もその辺りははっきり理解していませんがカージノには治療魔法やポーションと呼ばれる薬が普通に存在していますので、現状治療できないような疫病が蔓延するような事は無いようですね。それどころかこの世界では治療不可能な病や体の部位欠損に関しても高位の聖属性魔法を使える人であれば治療は可能です」
「素敵ですね。あの……小栗さんは、まさかそんな魔法が使えたりするのですか?」
そう聞いてくる藤崎さんの目が凄く真剣な事に、俺は少し厄介事を抱えたような気がした。
その少し緊張したような空気を夢幻さんが華麗に打ち破った。
「小栗君。さっき話題に出た【聖女】スキルを私が身につければ、すべての病気や怪我を私が治療する事が出来るようになるのかい? 増々私は【聖女】スキルを身に付けたくなったぞ」
「いや……夢幻さん。気持ちはわかりますけど、【聖女】ですからやっぱり女性の方がいいとか思いませんか? 夢幻さんが身につけるなら、【賢者】とかの方が良くないですか?」
「なに? 【賢者】も持っているのかい? 小栗君」
「いえ、無いです」
そう答えると夢幻さんがずっこけた。
そのやり取りを見ながら、藤崎さんがもう一度話に食い込んでくる。
「あの、夢幻さん。私、少し真剣な話なので、少し静かにして貰えますか?」
藤崎さんの背中に青い氷のようなオーラが見えた気がする。
「はい!」
と、夢幻さんが気を付けの姿勢になった。
「あの……ですね……私には二つ下の妹がいるのですが四年ほど前に白血病を発症して今現在ステージ4で余命半年と宣告されているんです」
思った以上に話が重くて少しビビった。
「藤崎さんが確認したいのは、それを俺が治療することはできるのか? ということですよね」
「はい……」
「出来ますよ。ただしすぐには難しいです。外傷や骨折みたいに見て理解をする事ができないので、白血病と言う病気を理解して、正常な値がどうなのかを理解してからでないと、どうやって治すのかがイメージできないからです。逆に俺ではなく日本の先端医療を理解している人が聖魔法を身につければ俺が治療を行うよりも早く治療する事が出来るかもしれません」
そう答えると、藤崎さんは少し嬉しそうな表情をした。
「それじゃぁ私が明日から、小栗さんの時間が空いた時につきっきりで白血病の知識を教えてあげれば、治せるんですね」
確かにそうだけど……それちょっと今の忙しさの俺には無理すぎます……
だが、ここで、どこまでもシリアスを許さない何かが働く。
「小栗君。これでやはり私に【聖女】を使うべきだと決まったな」
「えっ? なんでですか夢幻さん」
「知らなかったかい、私の著書の自己紹介欄には書いてあったと思ったが、私はこれでも医学博士だからね」
「えっ? マジですか」
「ここで嘘をつく意味がないだろ? 一通りの人体に関する知識や最新医療に関しても私なら知識として持ち合わせている。【聖女】スキルを身につければ、藤崎さんの願いも叶えられるし、忙しい小栗君が睡眠時間を削って白血病の勉強をする手間も省ける。いい事しかないだろ」
「た、確かに」
こうして夢幻さんに次にカージノに行った時にお告げカードの取得と【聖女】スキルの習得をしてもらう事になった。
まだ明るくなるまでは時間があったので、小学校の校舎の撤去と、撤去後の穴埋め迄を終わらせておいた。
明日の夜に仮囲いの内側に俺が壁を作り上げれば大使館の工事は完了だな。
壁の高さはもう少し高い方が良さそうだ。
五メートルほどの高さで作り上げよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます