第58話 夢幻さんと藤崎さんの社会見学
会食を終えた後で、俺はホタルと大崎さんと一緒に事務所へと戻った。
現在時刻は二十一時半だ。
「小栗君。少し遅くなってしまったが今から少し仮囲い工事の完了チェックに付き合ってもらってもよいか」
「勿論です。ホタルも付き合ってくれ」
「了解です」
事務所には、現場監督さんが大崎さんの戻って来るのを待っていた。
他にも藤崎さんと夢幻さんがまだ事務所で仕事をしていた。
「夢幻さんと藤崎さんもあまり頑張り過ぎないようにしてくださいね」
「何を言ってるんだ小栗君。こんなに魅力的な仕事を後回しにするなんて出来る訳ないだろ。私には獣人達との夢の生活が待っているんだよ」
「はぁ……そうですか……そう言ってもらえれば心強いです」
「小栗さん。頼まれていた件は無事に終わっています」
「ああ、ありがとう藤崎さん。そう言えばお二人はこの後お時間はどうですか?」
そう聞くと夢幻さんも藤崎さんも別に予定は無いという事だった。
「それでは後一時間程待っていていただけませんか? 少し出かけたい所がありますので」
二人とも了解してくれたので、俺は大崎さん達と一緒に仮囲いのチェックに出かけた。
小学校の敷地をぐるっと一周するのは結構距離があり骨が折れたよ……
「問題無いですね。一日でこれだけの囲いを作ってしまうなんて凄いですね」
「ははは、大崎建設の技術力、機動力は世界中の建設会社でもトップクラスじゃからな。空港と港湾の図面も一週間以内にはプロジェクトチームが仕上げてくるぞ。ただ一点だけ問題がある」
「何でしょうか?」
「建設に関わる人夫たちだ。現場監督クラスは日本から派遣するにしても実際に作業する人員は日本国内で集めたのでは無駄に人件費がかかるし、そもそも必要な人数を集めるのが難しいじゃろう」
「なるほど……何かいい手段はありませんか?」
「そうじゃな。カージノ大陸の位置関係からして、タイ、ベトナム、インドネシアの三か国から集めるのが良いと思うが構わないか?」
「そうですね、工事現場以外のカージノ王国の土地に入らないように徹底すれば問題は無いと思います」
「その範囲の囲いのような物は必要か?」
「いえ、それはカージノ王国の方で準備させていただきます」
「了解した。それではこの仮囲いに関してはこれで大丈夫と言う事でいいな?」
「はい。ありがとうございます」
確認を終えて事務所へと戻る。
「先輩、これからどうするんですか? 夢幻さん達まで声を掛けていましたよね?」
「カージノの公爵邸をこっちに移築する。夢幻さん達は頑張ってくれてるから、少し社会見学に行ってもらおうと思ってね。それに俺がどの程度の事が出来るのかをざっと見て置いてもらうのは必要だろうし」
「なるほど、喜びそうですね。でも今だとカージノは夜中の二時過ぎですよね? 草木も眠る丑三つ時っていうやつですよ」
「見るだけだし、あまり関係ないだろ? 収納は時間かからないからオグリーヌの神殿とか寄ってみたいしな。ずっと顔を出してなかったから」
「解りました」
大崎さんと別れ、事務所に入ると夢幻さんと藤崎さんに声を掛けた。
「お待たせしました。では、早速出かけますけど準備は良いですか?」
「ああ大丈夫だ」
「はい」
「それでは俺の手に掴まっていただけますか?」
そう声をかけると不思議そうな顔をしながらも二人と手を繋ぎ、最後にホタルが腰のあたりに抱き着くと俺は転移を発動した。
行先は公爵邸だ。
「な、な、何だ今のは? それに、ここはどこだ??」
夢幻さんが騒ぐけど、藤崎さんは静かだ。
でもキョロキョロ見回しはしてる。
「ようこそカージノ王国へ!」
俺はエスト伯爵の姿へ変身して、二人に告げてみた。
ホタルは変身は出来ないので日本人のホタルのままだ。
「小栗君……なのか?」
「いえ、カージノ王国のエスト・ペティシャティ―伯爵です」
「って事は、ここはカージノ王国と言う事で間違いないんだな?」
「はい、お二人が凄く頑張ってくれているので、ちょっとカージノ王国の雰囲気を楽しんでいただこうと思ってお連れしました。ちょっと暗くて見えにくいと思いますので明るくしますね」
そう言って光魔法で直径一メートルほどの光の球を作って打ち上げ当たり一面を照らし出す。
「わぁ、綺麗」
「藤崎さん、中々素敵な邸宅でしょ? これが在日本カージノ大使館となる旧公爵邸です」
「大きな建物ですね。この建物を日本に移設するんですか?」
「はい、私の魔法で庭園ごと収納して、小学校の運動場に移設します。その後で小学校の校舎はこちらの海岸の領地に移設します」
「海岸と言われると、カージノの私達の利用する予定のビーチですよね?」
「そうです。明後日の昼に行う予定です」
「あの、その時は私達も、もう一度連れて来て頂けるんですか?」
「そうですね。ご希望でしたらご案内させていただきます。ただしヤドカリやカニ型のモンスターが居る可能性が高いので、気を抜かないでくださいよ?」
「はい」
「勿論俺も良いんだよな? 小栗君」
「いいですけど、ビーチの領地はまだ住人ゼロですから獣人はいませんよ?」
「それは……残念だがまぁしょうが無い。現地の確認をすることは重要だからな」
「先輩、睡眠時間が無くなっちゃいますからさっさと作業始めて下さい」
「お、解った。夢幻さん、藤崎さん。これが終わったら王都の中心部の方に少しだけ行きますけど、騒がないでくださいね?」
「う、うむ。でも王都の中心部だと獣人やエルフに遭えるのか?」
「今この辺りは午前三時頃なのでいくら中心部と言っても、歌舞伎町のような賑わいではないでしょうけど、亜人には会えると思います」
そう伝えた後で、俺は屋敷と庭園を基礎部分を含めて地下五メートルほどの深さで土ごと収納した。
「す、凄い。これが魔法の威力なのか?」
「まぁそうですね」
「この公爵邸の建物が横幅百メートル、奥行き五十メートルほどで、前部の庭園などを合わせて、百五十メートルかける百メートルの範囲を収納した感じです。このままじゃ少し困るので土魔法で跡地を均しますね」
そう言って土属性魔法を発動し広範囲に広がった穴を埋めて置いた。
「先輩、やる事が化け物じみてますね」
「だから、ホタルもスキルを身につければ出来るようになるって」
「私は人間でいたいですから」
その会話を聞いた夢幻さんが凄い食いつきをみせた。
「小栗君! 今の話の内容だとこの能力を身につけることは難しくないのかい?」
「いや……難しいですけど、一人分だけ俺の預かっている能力があってそれを使えば、難しく無いんです」
「なんだって!! それは私では駄目なのか? 頼む、お願いだ私に譲ってくれ」
「あ、あの夢幻さん。その能力のスキル名が【聖女】なんです……できれば女性に使って欲しいかな? って」
「くっ……スキル名が【聖女】ってだけで男性だと無理って言うわけではないんだろ? 検討して貰えないか」
「ちょっとすぐは決められませんので、少し考えさせてください」
そう返事をすると、ホタルが小声で話しかけてきた。
「先輩、さっきの話じゃないですけど私は男性の【聖女】って興味ありますよ?」
「ホタル……余計な事を言うな。相手が夢幻さんなだけに絶対本気だぞ」
「はーい」
とりあえずその話題は中断して、四人で王都の中心部へと転移で移動した。
転移したのは神殿の前の広場だ。
この時間に神殿が開いているのかどうかは確認していなかったが、明かりは点いていたので、四人で神殿の中に入る。
流石に競争は行っていないが、神殿の中には何人かの人もいて、スキル販売所にも馬獣人の使徒が立っていた。
「先輩、この時間でもやってるんですね?」
「俺も知らなかったけど、やってるんだな。ホタルちょっと夢幻さんと藤崎さんを案内していてくれ、俺はオグリーヌに会って来る」
「解りました」
夢幻さんと藤崎さんは、辺りをキョロキョロしながら、びっくりしたような表情をしているが、先に俺の用事を済ませよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます