第57話 エスト伯爵のカージノ王都邸

 王宮の中庭に転移で移動するとセバスチャンと屋敷の女中たちも、その場に来ていた。


「ポーラ王女、彼らは旧アンドロメダ公爵邸の執事だったセバスチャンと女中たちです。今後移築する大使館として使用する屋敷の管理をお願いいたしました」

「そうですか、セバスチャン。カージノ王国の在日本大使館として王国の品位を保てるよう、よろしくお願いいたします」


「ポーラ妃殿下、このセバスチャン最後のご奉公として妃殿下の居所として相応しい快適な空間をご用意させていただきます」

「ポーラ王女、とりあえずセバスチャンには大使館を運営するための人員を揃えるように頼んでいますがそれでよろしかったですか?」


「ええ。旧公爵邸には私も何度か足を運んだことがあり、セバスチャンの采配には何の不安もございません。すべてセバスチャンが采配を振るいやすい人員で揃えていただければ、それで結構です」

「と、言う事ですので出来るだけ早く人員を集めて下さい。その間はこの王宮に部屋を用意しますので事務所として使用するようにお願いします。女中の方々は本日中に移築を完了させますので、その後速やかに日本へと渡航して頂いて屋敷の管理をお願いします」


「「「「「かしこまりました」」」」」


 全員の快諾を得て、俺達は再び日本へと転移で戻った。

 勿論、出発点であった小学校の講堂へだ。

 到着した日本は、午後四時を過ぎていた。


 講堂から外へ出て周囲を見渡すと、流石の突貫工事ですでに八割がたの仮囲いの設置が済んでいた。

 俺達の姿を見て、大崎さんが近寄って来る。


「小栗君、随分長く校舎内にいたようじゃな。何をしていたんだね?」

「まぁ色々です。予定通り工事は終わりそうですね?」


「うむ十九時頃には完了予定じゃ。わしたちは朝の約束通り十八時には会食に向かう事になるがな」

「それでは俺達は事務所に戻って斎藤社長たちと打ち合わせを行っていますので」


 そう告げて一行はJLJの事務所へと移動した。


「そう言えばザックとアインは今後どうするんだい?」

「私達はこのままポーラ姫の護衛として、こちらで過ごします。この国風の言い方だと駐在武官ですね」


「そうか、それなら安全だな。でも姫が勝手に街中を出歩いたりしないようによろしく頼むぞ」

「はい……」


「自信無さげだな」

「姫は、自由に振舞われる事が多い方なので……」


「マジで頼むよ? 普通に誘拐とかされそうだからね?」

「頑張ります」


「東雲さん。この敷地の入り口は一か所しか用意しないから、姫が外出とかする時は日本の警護も付くんだよね?」

「はい、警備局のSPがチームでつく手筈になっています」


「まぁそれなら大丈夫なのかな?」

「小栗さん。私は予定通り捜査に行ってきますので、何かありましたら連絡をください」


「了解。気を付けてね」


 東雲さんを見送って事務所へと入って行く。

 ザックやフローラたちは俺の部屋で待機して貰うことにした。

 事務所にフローラたちを置いておくと夢幻さんがヤバイからね……


 ホタルは一度外付けの階段から自分の部屋へと戻り、リュシオルの姿からホタルの姿に着替えて事務所に下りてきた。


 社長室にホタルと二人で向かい、斎藤社長に今日あった色々な話を報告する。

 話が盛りだくさん過ぎて、さすがの斎藤社長もびっくりしていた。


「小栗さんって話に聞いていたよりも、ずっと仕事が好きなようですね」

「別に好きではないのですが、どう考えても俺が片付けなければどうにもならないような話ばかり次々に湧き出して来てどうにもならない感じです」


「先輩、でも働き者の先輩の姿は少し魅力的ですよ?」

「ホタル、他人事だと思ってるだろ? 実際問題として結構一杯一杯だ。前に一度話したスキルの件本気で考えてくれよな」


「えー、あれですか? 話を受けると馬車馬のように働く未来しか見えませんから、まだ保留でお願いします。て言うかポーラ王女で良くないですか?」

「うーん。俺なりに考えてみたんだけど、ポーラ王女にスキルを使わせるのは少し違うと思うんだよな。ホタル以外なら東雲さんや藤崎さんの方がありかも? と思ってるくらいだ」


 そんな話をしていると、斎藤社長が話しに加わった。


「小栗さん。話の方向がよく分からないんですが小栗さんが渡すことのできる特別なスキルが存在しているって事なんでしょうか?」

「あ、すいません。斎藤社長。まぁ社長には隠してもしょうがないですから、そうですね、俺が【勇者】のスキルをオグリーヌに授かった時にパートナー用にもう一つスキルを貰ってるんですよね。それをホタルに使ってくれって言ってるんですが、中々いい返事を貰えなくて」


「そんなに凄いスキルが存在するなら、私なら両手放しで欲しいと思うのにな」


 その言葉を聞いてホタルが突っ込みを入れる。


「じゃぁ斎藤社長が使いますか? 【聖女】スキル」

「えっ? 【聖女】なのか……それはこの中年オヤジじゃ世界中のファンタジーを夢見る人々を敵に回しそうだから辞めておこう」


「残念、男性の【聖女】って言う展開に少し興味があったんですけど」

「ホタル……俺もやっぱり【聖女】は女性の方がいいと思うぞ」


 時間的にも十七時を過ぎて、大崎さんが事務所へ戻って来たので、社長とホタルを連れて会食の場所へ向かうことにした。


 藤崎さんに俺の部屋に居るザック達四人の食事の世話は頼んでおいた。

 夢幻さんには内緒でね! とちゃんと伝えたよ。


 グランドハイアットのカフェコーナーに到着すると、既に財前さんと福山さんも見えていて、俺とホタルと社長が福山さんに挨拶をした。


「お久しぶりです福山さん。この度は大変なお仕事を引き受けてもらえるということでどうぞよろしくお願いします」

「何を言っておる、感謝をするのはこちらのほうだ。財前に聞いた事業規模が想像をはるかに超える物だったから、急追カージノとの交易に特化した別会社を立ち上げて私自らが現役復帰をして陣頭指揮を執る事になった。斎藤社長、小栗君これからよろしく頼むぞ」


 挨拶を終えると、懐石料理のお店へと移動して個室のお座敷で料理を堪能した。

 今は十月で秋の味覚をふんだんに使用した懐石料理は、そこまでグルメでない俺でさえ聞いた事のあるような高級食材をふんだんに使用した、とても美しい料理が並んでいた。


「財前さん。資金の調達の方は問題無く進行しそうですか?」


 斎藤社長が一番大事な部分を確認した。


「はい、電力各社との事前会議を行い各社ともにカージノ王国で展開する新型の発電装置を使う電力事業に多大な関心を示しています。それと勿論カージノ王国に建設する港湾と国際空港に関しては、日本政府を始めとして各国が非常に興味を示していて、予想工事費の一兆円をはるかに超える出資希望が集まっていますので、これはカージノ王国の大使が着任して日米の仕切りで行う晩餐会でのカージノ王国に対する態度を冷静に見極める事で出資額を募りたいと思っています」

「と、いうことは事業に掛かる費用以上の現金の調達が既に目途が立っているという事なんですか?」


「その通りですな。むしろ、各国に振り分ける額と、一般企業枠をどう調節して削るのが良いかを考える事の方が大変です。今後、日本政府の意向も取り入れながら斎藤社長にも会議に参加して頂く事になりますのでよろしくお願いしますよ」

「はい、了解しました。しかし流石ですね財前さん。兆単位の資金を僅か二日ほどの活動で目途を立てるなんて私には到底及びません」


「まぁ餅は餅屋っていうことですよ」


 俺とホタルはイマイチ話について行けてなかったが、ここで大崎さんにお願いしなければいけない事を思い出した。


「大崎さんお願いがあるんですけどいいですか?」

「なんじゃ小栗君」


「大崎建設は住宅部門も持ってらっしゃいますよね?」

「ああ、勿論だ今は戸建て住宅よりも、高層マンション建設の方が主力ではあるが」


「高層マンションですか?」


 そう聞いた時に俺は少し閃いた。

 そう言えば、カージノ王国には王宮以外は精々二階建て程度の建築物しか無かったな。

 これは、公爵邸の跡地に建設する建物は高層マンションの方が良さそうだ。

 パイロットショップ的な役割を果たすギャラリーなども作りやすいし、何よりも敷地面積も広大だから十分に建築は可能だしな。


「大崎さん。建物を丸ごと取得できるオール電化の高層マンションの物件なんて言うのは存在しませんか?」

「そうだな、建設中の物件であれば不可能ではないが、それでも建設着工時点でメインのテナントなどが決定しているので若干の違約金が発生しても良ければ三か月もあれば渡せるものは用意できそうじゃな」


「そうですか、必要なのは物件だけで土地はそのままお返しするので、同じ建物を建てていただいて、また販売して頂くのは構いませんよ?」

「なるほどのう。それであれば工期の遅延と言う事で違約金も圧縮できる可能性が高いな。上物だけであれば値段も半額近くまで下がる。試算をさせておこう」


 公爵邸の跡地には高層マンションを移築することに決定して、この日の会食を終えた。

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