第56話 結構忙しいよな
ポーラ王女を始めとして、ザック、アイン、ホタルを伴いシリウス王の執務室へと向かう。
フラワー、フローラ、東雲さんはポーラ王女の侍女と共に中庭で待機だ。
彼女たちにゴディバのチョコレートの詰め合わせを出して、お茶をしておくように伝えておいた。
ポーラ姫が「私の分は無いのでございますか?」と聞いて来たので「陛下とのお話が終われば差し上げますので早く行きましょう」とせかした。
ポーラ姫がノックをして声を掛ける。
「お父様、エスト伯爵とザック達が参りました」
「入れ」
その声に従って中に入る。
いつも思うけど、シリウス陛下って偉そうに玉座に座って俺達に声を掛けるって言うのが無いよな。
「どうした、エスト伯爵。なにか考え事か?」
「あ、いえ……陛下は我々に玉座から声を掛ける様な事はなさらないので少し不思議に思いまして」
「それはエスト伯爵がオグリーヌ様から直接遣わされた存在だからだ。他の者であれば公爵であろうと宰相であろうと、玉座での応対しかしておらぬ」
「やっぱりそうなんですね。早速ですが、まず日本への大使館の設置とポーラ姫の来日日程、および日本への渡航に使用するパスポートの発券に関する件を決定したいのですが」
「ふむパスポートと言うものがよく解らぬな。ポーラの訪日に関してはエスト伯爵の申しておった通りに公爵邸の移築並びに、転移の扉を設置するのであれば、それが完了次第いつでもよかろう」
「かしこまりました。パスポートに関しては私の日本での従者である東雲が詳しいので、リュシオルに通訳をしてもらいながら進めて構いませんか? 担当は誰と進めればよろしいでしょうか?」
「ふむ、宰相と相談しながら進めてもらおう」
陛下の返事をもらいリュシオルにアインを付けて、東雲さんを迎えに行ってもらい、この国の宰相と話をしてもらうことにした。
「もう一つの問題である、昨日捕らえた潜水艦の乗組員に関してはどう致しましょうか」
「この国に攻撃をした事実は
「解りました、私の手が空き次第という事で構いませんか?」
「それで構わぬ」
「それでは、お譲りいただける公爵邸を案内して欲しいのですが構いませんか?」
「場所はザックが知っておるので一緒に行けばよい。インベントリでの移設であれば、他の者は必要なかろう。昨日言っておった通りに跡地に建てるエスト伯爵の王都邸は任せてよいのであろう?」
「はい、それはこちらで用意して参ります」
陛下との謁見を終えた俺はザックとフローラ、フラワーを連れ、譲ってもらう公爵邸を見に行った。
「ご主人様、先ほどのチョコレート凄く美味しかったです」
フローラとフラワーが嬉しそうにお礼を言って来た。
「そうか、気に入ってくれたなら良かった。今ホタルが手続きしているパスポートや日本で働くためのビザが揃ったら、いつでも食べれるようになるさ」
「嬉しいです。ご主人様の国は凄く発展していますよね、でもどこへ行っても私とフラワーを見つめてくる殿方たちが凄く多いので、少し怖いです」
「あぁ、まーそれは日本というかこの地球という星では、カージノと違って獣人やエルフ達は物語の中でしか存在しなかったから、フローラたちの姿が目立つんだよ」
「そうなのですね、見つめられるのは少し苦手です」
「でも使徒として競争していた時は、大勢の人の声援を受けて走っていただろう?」
「それはそうなんですが、その時の視線と昨日受けた視線は少し違うと思いました」
そんな会話をしながらザックの用意した馬車で、公爵邸の敷地へと到着した。
「エスト伯爵こちらが陛下より
「凄い大きな屋敷だな……一体何部屋あるんだ」
「公爵家の執事をしていた者が管理人として若干の女中と共に残っておりますので、その者にご確認ください」
「解った。因みにその女中と執事は移設後も働いて貰えるのか?」
「それはエスト伯爵がお命じになれば嫌とは言わないと思いますが、本人達に聞いてみるのが一番よいと思います」
「そうだな」
ザックと共に屋敷に入って行くと、玄関前に元執事と五人の女中が並んで出迎えてくれた。
「王宮よりの命でこの旧アンドロメダ公爵邸を管理しております、セバスチャンと申します。こちらにいる女中たちは公爵邸の頃より仕えてる者どもで、お屋敷の維持管理には慣れております故、是非エスト伯爵が入居されるのであれば雇って頂きたいと思いますが」
「屋敷の管理をしてもらってありがとうございます。セバスチャンは残っていただけないのでしょうか?」
「私はすでに老骨故に、執事にはもっと若い者お勧めいたします」
「身体の具合が悪いとかでは無いのでしょう? この屋敷を主に活用されるのはポーラ王女になります。公爵家の執事として
「王女が? この屋敷は王宮からも遠くありませんしポーラ妃殿下がこの屋敷を使われるのは何か理由があるのでしょうか?」
「説明不足ですいません。この屋敷は、この星の他国の土地に移築します。ポーラ王女はその国に大使として伺われますので、その為の居所として利用させていただきます」
「そうでございましたか。この老骨を必要と仰っていただけるなら粉骨砕身頑張らせていただきます」
「それは助かります。セバスチャンそれでは早速ですが、ポーラ姫が大使を為されるカージノ王国在日本公邸として相応しいだけの人員を揃えて置いて頂けますか? この屋敷と庭園は本日のうちに移築作業に入りますので取り敢えずセバスチャンと女中たちは、ザック騎士爵の指示に従って王宮に移動してください」
なんとか大使館の人員も目途が立ったな。
この後は原潜の補修の件で米海軍と連絡をつけなければいけないのでギャンブリーの屋敷に居るはずのアンドレ隊長に電話をかけた。
『アンドレ隊長、アズマです』
『どうしたアズマ?』
『バーン大佐に連絡をつけたいのですが取り次いでいただけますか?』
『それはアズマとしてか? エスト伯爵としてか?』
『エストで、です』
『解った。すぐに連絡はするがこっちに来るのか?』
『はい、今から伺います』
フローラとフラワーの二人だけを連れ、ギャンブリーの街の屋敷へと転移を行った。
ギャンブリーの屋敷は相変わらず焼き立てのパンの香りに包まれていて、そんなに長く離れている訳でもないのに懐かしく感じた。
アダムさんとミッシェルも屋敷に居て、ベーアとニャルはハンバーガー用のバンズの仕込みをしていた。
「ベーアもバンズの仕込みを手伝うようになったんですね」
「今は色々忙しくて中々ハンティングに行ける時間が取れないからな。アンドレ隊長が手伝いに貸してくれてるんだ」
「そうなんですね。そう言えばそろそろ奴隷を増やしたりはしないんですか? ダニエルさんもいないし結構大変でしょ?」
「ああ、今度ホタルが顔を出した時にでも奴隷商に行こうと思ってるよ」
俺がアダムさんと話しているとミッシェルさんも話し掛けてきた。
「私達も斥候の出来る戦闘奴隷を買いたいと思ってるので、その時は一緒に連れて行ってね」
「解りました」
アンドレ隊長は電話で話しているが恐らくバーン大佐が相手なのであろう。
俺の方を向いて手招きをしているので、アンドレ隊長の元に移動した。
受話器から口を離して「今替わっても大丈夫か?」と聞いて来た。
俺は指でOK サインを出して電話を替わる。
『エスト閣下、先日はモンスターの襲撃から助けていただきありがとうございました。本国の大統領からもお礼を申し上げたいと伝言を預かっております』
『気にしないでもいいですよ。今日は少し頼みたい事が出来ましたので、アンドレ隊長に頼んで連絡をさせていただきました』
『頼み事ですか? どのような内容でしょうか』
『ふむ。バーン大佐の国では我がカージノ王国がこの地球のいずれかの勢力によって原子力潜水艦という船により攻撃を受けた事実を把握していますか?』
『はい……その事実は把握しております』
『よろしい。そこでだがその船は私が拿捕させて頂いたが、この国にはこの船を活用するための知識が不足しているのだ。国交を開く準備中の日本国も原子力潜水艦に関しては専門外だと返事をされてしまってな。そこでこの船を活用するための知識を習いたいと思っている。危険な兵器などが積んであった場合の武装解除方法などに関しても、レクチャーを頼みたいが可能か?』
『閣下、問題が大きいので私の判断ではお返事を差し上げる事が出来ません。本国の司令部に連絡を取り早急にお返事を差し上げたいと思います。連絡はアンドレ宛で構わないでしょうか?』
『それで構わない。出来れば襲撃してきた勢力に関しての情報などもあれば知りたいのだがそれも頼めるか?』
『尽力させていただきます。因みにですが、拿捕されたということは、乗員は拘束されたという事でしょうか?』
『そうだ。現地の領主による監視下に置かれている』
『了解いたしました』
電話をアンドレ隊長に戻し、お礼を伝えて今度はホタルに電話をする。
『ホタル、パスポートの発券は問題無さそうか?』
『はい先輩。東雲さんがテンプレート的な物を用意して下さっていたので、カージノ王国の認証印を押していただく形で作成することになりました。ビザに関しても職種によってのパターンを取り敢えず日本の形式に合わせて作成します』
『了解だ。それじゃぁ一度合流して日本へ戻ろう』
『わかりましたー』
隊長たちに挨拶をして王宮へと戻った。
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