第55話 カージノ大使館の着工

 翌朝八時前には、階下の事務所が弱冠騒がしくなっていたので降りて行くと、大崎さんがカージノ大使館の仮囲い工事の責任者と一緒に既に打ち合わせをしていた。


「おはようございます。早くから頑張ってますね」

「おう、小栗君おはよう。今日中に仕上げてしまう予定じゃからな」


「よろしくお願いします。工事代金はゴールドでの支払いになると思いますが大丈夫でしょうか?」

「何も問題は無い。当面はカージノとの取引はゴールドの現物での決済という事でよいのかな?」


「そうですね、カージノでは紙幣も発行されていませんし、地球の基準で問題無く同じ価値観であるゴールドでの取引が一番妥当かと思います」

「そうじゃな。今後アレク電機の発電機が出来上がってきたりすれば、より価値の高いミスリルなども世界中が欲しがるとは思うが、現状ではゴールドの取引が一番問題無かろう」


「それでは、仮囲い工事の方はよろしくお願いしておきますね、俺はカージノ王国のメンバーと打ち合わせに行ってきますので」

「任せておきなさい。それと今日の夜は食事に付き合ってもらって構わぬか? 財前と運送屋の福山と一緒に港湾と空港の工事の件をざっと纏めておきたいから、小栗君の意見も聞いておきたい」


「了解しました。斎藤社長も同席で構いませんか?」

「勿論じゃ。十八時にこの間のグランドハイアットのカフェで待ち合わせでよいか?」


「はい。それではお願いしておきます」


 そんな会話をしていると、東雲さんが出勤してきた。


「おはようございます。もう出かけられるんですか?」

「おはよう東雲さん。まだ朝ご飯を食べて無いから、カフェで朝食を取ってから、カージノのメンバーと合流する予定です」


「了解です。ご一緒していいですか?」

「勿論、昨日の件の続きもありますので」


 俺は東雲さんと一緒に近所のカフェに出かけ朝食を取りながら、官房長官の公邸にいるホタルに連絡を取った。


『ホタルおはよう。今日の予定なんだが一度大使館の現地調査って言う名目で、みんなで小学校に来てもらっていいか?』

『了解です先輩。そこから一度カージノの王宮に戻るっていうことですか?』


『ああ、そうだが島長官以外の人に聞かれる事が無いように気を付けてくれよ?』

『大丈夫ですって、十時前には到着するように出ますのでよろしくです』


『了解だ』


 ホタルとの電話を終えると再び東雲さんと向かい合い、今日の予定の確認を行う。


「斎藤社長には、先ほどの大崎さんとの話を連絡しないといけませんね」

「ああ、そうですね」


 早速、斎藤社長に連絡を入れて今日の会食の件を伝えた。

 

 今日の行動予定としては

①カージノのメンバーと合流した後で、カージノに一時帰国

②シリウス国王と拿捕した潜水艦の乗員の処分を相談

③大使館用地に移設する元公爵邸の移設準備(収納)

④アメリカ海軍に原潜拿捕の報告及び、潜水艦技師を派遣する事が可能か確認を行う

⑤大崎さん達との会食


「これだけで大丈夫ですよね?」

「えーと、一応今日中に狩り囲いが完成するということでしたから、それの確認をしないといけませんね」


「あーそれは、大崎さんに任せたんですから、会食の時に報告を聞くだけでいいでしょう」

「解りました。私は今日はカージノから戻り次第、以前小栗さんのアパートに侵入者があった件の調査で別行動をさせていただきます」


「それもありましたね……やはりその辺りは中国とかが関係して来るんでしょうか?」

「はっきりとは断言できませんが、国家レベルでの干渉よりは裏社会絡みの可能性の方が高いと思っています」


「それってマフィア的な感じですか?」

「そうですね……国家絡みの場合だと直接日本に対しての圧力などで押し通す方が理に適ってると言うのが現時点での島長官のお考えですね」


「なる程……でもぶっちゃけて言えば今の俺の能力だと襲われてもあまり問題無いですけどね」

「小栗さん、相手に怪我を負わせるような撃退方法だと警察が出ざるを得ないという点も念頭に置いていただけないと、それに警察が動くとほぼマスコミも嗅ぎつけてきますので」


「ですよねぇ。日本って意外と不便ですね」

「普通に暮らす分には一番暮らしやすいのは確かなんですけど」


「東雲さんはそんな裏社会を相手にするような状況でも怖くは無いんですか?」

「小栗さんが守ってくれるって信じてますから」


「えっ?」

「冗談です。先日も言った通り映画なんかよりよっぽどハードな状況を想定した訓練を積んでいますので大丈夫です」


 そう返事をした東雲さんを少しだけ怖いと思った……


 カフェを出た後は一度事務所に戻ると、夢幻さんと藤崎さんも既に出勤して来ていて、それぞれパソコンと向かい合っていた。


「小栗さんおはようございます。ちょっと確認したい事があるんですがいいですか?」

「はい、大丈夫です夢幻さん。どんなことでしょうか?」


「今進めている、カージノ版地方競馬は当面カージノ国民を顧客として開催するということですよね? 日本や諸外国からの観光が一般化するには時間が掛かりそうですし」

「そうですね、ポーラ王女の来日と各国との晩餐会の結果によって若干の予定変更はありそうですけど、当面はカージノ王国の人々を顧客とするほうが、実現は早そうですね。カージノ国内の移動であれば転移系の魔道具を使っても問題なさそうですし」


「それであれば! 私が先にカージノ王国へ行き現地の方々の人となりを知る必要があると思います」

「夢幻さん……仰ることは間違いないですけど、一応正式に国交が出来て渡航許可が下りてからにして下さいね? ノリだけで行っちゃうと密出国扱いになるので」


 と夢幻さんと話していると藤崎さんも話し掛けてきた。


「私も勿論、渡航許可が出る状態になれば現地に行ってビーチを確かめたいと思いますので、その際はよろしくお願いします」


 と食いついて来た。


「まぁそんなに時間はかからないと思いますけど、くれぐれも事前に情報漏れが起こらないようにだけは気を付けて行動をお願いします」

「わかりました」


 実際カージノ王国のビーチを総延長千六百キロメートルに渡って自由にできる状況だから夢幻さんや藤崎さんの計画にほぼ問題は生じないだろうけどね。

 ビーチは緯度的にも亜熱帯地域だし、ほぼ一年中利用は可能だろうから後はモンスターの出現だけが気掛かりではあるけど、オグリーヌは海洋型のモンスターは連れて来ていないと言ってたし大丈夫だろう。

 

 でも『ダービーキングダム』と一緒に転移してきたクラーケンやシンガポールに現れたサメ型のモンスターは心配だな。

 逆に結界の外だからカージノのビーチは安全なのか?


 そんな事を考えていたら、ホタルとの約束の時間になったので隣の小学校の敷地の方へ移動した。

 ホタルたちは既に到着していて何故か上空を見上げていた。


「先輩、あれ見て下さい」


 ホタルの指さす方を見ると、カージノ大使館予定地上空をドローンが飛行していた。


「ありゃ、あれは困るな……東雲さん、法的にはどうなんですか?」

「えーと? 撮影が違法かどうかという事であれば、既に大使館用地として契約が終了していますから、撮影自体が違法ですね、それにこの辺りは住宅密集地ですからそもそもドローンの飛行許可が出ていません」


「じゃぁ撃ち落としたり捕獲したりしても良いということですか?」

「それは……駄目です。ドローンは無人航空機というくくりで、攻撃すればヘリや旅客機を攻撃したのと同じ罪に問われてしまいますよ」


「まじか……結構それって重大犯罪ですよね?」

「懲役二十年くらいは求刑されるレベルですね」


「どうすればいいんですか?」

「航空法の違反になりますから報道関係が飛ばしている訳ではないと思います。いわゆるパパラッチ的な感じでしょうから一応すぐに通報して対処をしてもらいます」


「なる程、まぁ今日の夜のうちに結界を張って覗きも出来ない様に認識阻害もかけておきます」

「そんなことできちゃうんですね……」


「先輩この後の行動予定はどうなってるんですか?」


 ホタルに聞かれたので、先ほど東雲さんと確認した内容を伝え、早速小学校の講堂に移動した後で、カージノへ転移で移動した。


 俺達がカージノの王宮中庭へ転移するとポーラ王女が安定のティータイムを楽しんでいた。


(そう言えば、日本の午前十時はカージノでは午後二時か、確かにティータイムに丁度いい時間だな)


「エスト伯爵! デザートはございますの?」

「王女、昨日もお持ちしたばかりではないですか」


「昨日は昨日今日は今日です」

「そんなにデザートばかり食べると太りますよ?」


 俺がポーラ王女に告げると横からホタルが口を出して来た。


「先輩……それが余分な一言ですって。どうせインベントリの中に用意してるんでしょ? 気持ちよくお出ししてあげた方が好感度アップですよ!」


 まぁ別に好感度アップは狙って無いんだが、この会話で貴重な時間を浪費するのも割に合わないので、プリンアラモードを出して渡して置いた。


「王女、シリウス王は執務室においでですか?」

「ええ、エスト伯爵の来るのを待っていたわよ。私の訪日の話もあるんですよね? 一緒に伺います」


 ふむ……デザートさえ渡しておけば、仕事熱心な所はあるんだよな、この王女様……

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