第54話 東雲さんってば…… 

 東雲さんと共に官房長官の公邸に到着するとリュシオル達も来ていた。


「リュシオル。アメリカ大使はどうだった?」

「そうですね。ザックとアインが正式な使者では無いので、腹の探り合いという感じでした。『アメリカとしては交渉の窓口が完全に日本だけになってしまう状況は好ましくない』って事でしょうね」


「そうだろうな。ポーラ王女がどんな風に立ち回るのかは俺でも予想がつかないからな」


 そんな話をしていると島長官がやって来た。


「小栗さん。アメリカの軍事衛星からの情報の解析と、東雲から聞いた潜水艦の特徴からして、該当の艦は十五年ほど前に退役して北極海の海中に遺棄されたことになっているタイフーン型で間違いなさそうですね」

「そうですか……それは、ロシアが今回のカージノへの攻撃に関与したという事でしょうか?」


「いえ、その辺りは少し複雑な事情がありそうです。現在のロシアは関係していないが回答になります」

「では? どこが」


「軍部の一部が勝手にテロ組織に横流ししていたようですね」

「それは……そんな事が可能なんですか? 原子力潜水艦を横流しだなんて」


「当然、潜水艦の退役によって職を失ってしまうはずだった、潜水艦のクルーたちを一緒に好待遇で引き受けることを条件に行われたようで、勿論ロシア政府は事実を把握していなかったのです」

「そんな事があるなんて、恐ろしいですね……ちなみにですが、配備されていたはずの核弾頭搭載型のミサイルなどは?」


「一応、書類上は武装解除されて核ミサイルは搭載されて無かったことになっていますが、これはロシア側の書類上というだけで、日本もアメリカも確認は取れていません」


 俺は、自分のインベントリの中に仕舞い込んである、潜水艦がどのような状態なのかが非常に気になったが、ここは隠してしまうと問題が絶対に大きくなってしまうと思って、島長官にタイフーン型の潜水艦を拿捕した事を伝えることにした。


 俺が伝える決定をしたことを東雲さんは少し安心したようだった。

 そりゃそうだろうな……


「島長官。実は問題の潜水艦は私が拿捕して持っています」

「えっ? まさかこの場に原子力潜水艦を持ち込んでるのですか?」


「あ、いえ、インベントリの中ですから異次元空間というか亜空間の中です、ここに出したりしませんから安心して下さい」

「……ですが、出そうと思えば出せるんですよね」


「まぁ……そうですけど」


「絶対、ここには出さないでくださいね。それでどうするのですか?」

「日本は原子力潜水艦の技師はいないですよね?」


「いえ、日本は保有こそしていませんが、導入に向けての研修を米軍で受けている者はそれなりの数が存在しています」

「なるほど……その人員を借りることはできますか?」


「それは私では判断がつきませんが、出来る事なら、その案件に関してはアメリカに花を持たせる形で頼って見せる方が、アメリカのメンツが立つというか、日本に対しての風当たりが弱くなるので……」

「そうなんですね。それでは、そのように対処する事にしましょう。肝心のポーラ王女の来日に関しては、話は纏まりましたか?」


「そうですね。一応日本がホスト国を務める形で赤坂の迎賓館で晩餐会を開く事に決定しましたが、招待状は日米連名の形で国連加盟国のすべてに送ります。そこで各国の出方を見ることになりますね」

「解りました。ポーラ王女の来日方法ですが……小学校の敷地の囲う工事が終了したら、そこに転移門を設置して来日して頂こうと思います。それが一番安全ですから」


「そうですか……それでは囲いが出来上がれば日本政府が入り口に税関を設置することになりますので、対応をよろしくお願いします」

「了解しました」


 潜水艦の乗員がどこの勢力なのかは、やはり直接尋問するしか答えははっきりしないようだ。

 国家が直接の攻撃を仕掛けてきたとかじゃ無かったことに少し安心した。


「カージノ大使館の敷地に関しては大崎建設が明日中に囲いを作ってくれますので、囲いの内部に関しては自由にさせていただきます」

「解りました。賃貸契約はザック騎士爵に持たされた委任状により、ザック騎士爵のサインで有効となりますので、すでに契約は終了していますから、敷地内部はカージノの国内と同じ扱いとなります。ただし大使館の敷地外での魔法の使用などは、生命の危険がある場合を除いて控えるようにお願いします」


「解りました」


 ◇◆◇◆ 


 俺は島長官との打ち合わせを終え東雲さんと二人で食事に出かけることにした。


「小栗さんは蘭さんとお付き合いされてるんですか?」

「ブホッ、ちょっ東雲さん、いきなりなんでそんな話なんですか?」


 不意打ちのような東雲さんの質問に生ビールを吹き出してしまった。


「ちょっと気になっただけです。それにポーラ姫との関係もとても気になりますね」

「現段階で俺は誰ともお付き合いはしてませんとだけ言っておきます」


「あら、それならまだ私にもチャンスがあるって事ですか?」

「いやいやいや東雲さんは、お付き合いする相手なんか困らないでしょ? そんなに綺麗なんだし」


「綺麗とか言ってもらえて嬉しいですね。私は結構本気ですよ。小栗さんとお付き合いすれば一生退屈とは縁遠い人生が送れそうですし」

「俺ですね。自分で言うのもなんですけど結構ヘタレですから、そんな発言に免疫無いんで勘弁してください。実際カージノのシリウス国王がポーラ姫との婚姻を望んでいるのも事実ですし、ホタルの事にしても気になっていないわけでは無いです。色々な事情を知っているホタルは、私は重婚なんて絶対嫌ですから! って言われてますけどね」


「そうなんですね。でも今はまだ正式にはフリーって事は間違いないんですよね! 今はそれでいいです」

「何がいいのかよくわからないですけど……」


「それは別として、明日の予定ですがどのように行動されるんですか?」

「いろいろ安請け合いしちゃって大忙しですよね……とりあえず午前中は大崎建設の仮設の壁の着工を確認した後で、ザック達と合流して一度カージノへ戻ります。その後でシリウス陛下と打ち合わせをして、ポーラ姫とエスト伯爵の来日日程を決定した後で、時間があれば潜水艦の乗組員たちの尋問を行うって感じですね。後はJLJ関連で他のメンバーからの要請次第で動こうと思います」


「了解しました。ではまた明日もよろしくお願いします」


 東雲さんとの食事も終り俺は事務所兼自宅へ戻った。


(しかし……東雲さんぐいぐい来るけど本気なのかなぁ?)


 少し悶々としながら眠りに就いた。

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