第53話 ちょっとだけネタばらし

 島長官への連絡を入れた後で、東雲さんと一緒に一階の事務所へと降りて行くと、まだ大崎さんや財前さんも含めて全員が、事務所の大型テレビでニュース番組を眺めながら雑談をしていた。


「今戻りました」


「小栗君はどこに行ってたのかね?」

「少し島長官に頼まれたことがあったので、その対処に東雲さんと行動していました」


「と言うと?」

「あーザック達に持たせる日本のお土産ですよ。カージノのシリウス陛下やポーラ王女が好みそうなものなど、カージノの文化を知らないと見当もつかないので頼まれたんです」


「なるほどな。何を選んだんだね?」

「日本酒と和菓子にしました。美味しいは正義ですから」


「無難じゃな」

「あ、大崎さん。カージノのアンドレ隊長と連絡を取り合ってですね。米国空母が修理もかねて撤退してしまったので『ダービーキングダム』が着岸できるような港を整備したいという話になったんですが、大崎建設は港湾の工事は出来るのですか?」


「勿論だとも、滑走路も敷設した経験があるぞ」

「凄いですね。早急に港と国際航路のジェット旅客機が離着陸できる規模の滑走路を造りたいので設計と見積もりを上げていただけますか?」


「任せろ」


 俺と大崎さんが話していると、斎藤社長が確認してきた。


「小栗さん。今言われた港と空港設備の発注元はカージノ王国と言う事でよろしいのでしょうか? それと、その受注業者はJLJで下請けとして大崎建設に発注するという捉え方で構わないのでしょうか?」

「そうですね。その認識で問題無いです」


「これはとてつもない金額の受注になりそうですね」

「はい。空港と港湾の開通までに、アレク電機の発電機が形になってくれれば、いいんですが」


「魔導具型の発電機が出来るまでの間、既存の化石燃料仕様の発電機を使うとかの選択肢は考えられないのですか?」

「うーん。その辺りは開発の進捗次第ですね」


 斎藤社長と話していると大崎さんが会話に入って来た。


「小栗君。港湾や空港を設置するにしてもだ、日本から重機などを持ち込むことになるし、それは当然ディーゼル駆動だから、あまり難しく考えなくてもよいのではないか?」

「あー確かにそうですね。スピード優先でお願いした方がいいかもしれません。予定地は現状ではまだ街も出来ていませんし人口もゼロですから、環境問題も、いきなりは出て来ないでしょうし」


「大量の資材や建築機器のリースにかなりの資本投入が必要となる、財前、お前の出番だ。カージノ開発のベンチャーキャピタルを立ち上げるんじゃ」

「おう。まかせなさい。小栗君、少し確認じゃが各国の政府筋の資本参加は認めても構わないかね?」


「えーと……それによって各国の意向を受け入れなければならないと言うような条件が付くなら遠慮したいですが」

「いや、あくまでも金融商品としてだから、強い強制力はない。ただ若干の便宜を図れば、より多くの資金を集めやすくはなるだろうな」


「解りました。その辺りのさじ加減は、財前さんにお任せしてよろしいでしょうか?」

「勿論じゃ。カージノへの資材の搬入に関してだが、福山は覚えておるか?」


「あ、はい。流通大手のご隠居でしたよね?」

「そうそう、その糞ジジイだ。奴に頼んでも構わぬか? コンテナ船と、まだ港が無いから、陸揚げ用の船を引き連れての船団で向かう事になるから、輸送だけでも大事業だからな」


「なんだか凄いですね。福山さんは元の会社に影響力は持たれているんですか?」

「ああ。あやつも大崎と同じで、創業社長だったし今でも筆頭株主であるから問題無い」


「そうなんですね」

「それに、小栗君が言っておった家電製品のカージノへの輸出に関しても必要であろう?」


「そうですね。発電機だけでも最終的には五千万台程度の輸出をしたいと思いますので、手段の確保と言う事では助かります」

「あやつは、わしら二人だけで現役復帰と言うか、JLJへの参加をしたことでかなり拗ねておったからな。この話を持って行けば機嫌も治るじゃろう」


「ではその辺りも財前さんにお任せしていいですか?」

「任せなさい」


 その辺りの話を纏めていると、藤崎さんが不思議そうに聞いて来た。


「あの……小栗さん。カージノ王国の海岸線の利用に関しては、まるで小栗さんに決定権があるように感じたのですが、実際の所どうなのでしょう」


 そう聞かれた俺は、一瞬悩んだが斎藤社長が頷いて見せたのでJLJのメンバーに対してはネタばらしをしておく方がボロが出ないと思って、伝えることにした。


「今日この場にホタルが居ない事を不思議に思われませんでしたか?」

「そうですね。でも何となく解りました。カージノ王国の通訳官のリュシオルさんがホタルさんですよね」


「その通りです。そして今後実質のカージノ王国と日本の外交に関しての決定権を持つエスト・ペティシャティ伯爵が俺のカージノ王国での立場です」

「やはりな」


 さすがにJLJに参加を認めるほどの人達は、みんなそうでは無いかと思っていたらしい。

 夢幻さんが、俺に聞いて来た。


「あの、馬娘二人は?」

「彼女たちは、俺とホタルがカージノ王国で奴隷として買った子たちです」


「なんだって? すると小栗さんはあの少女たちと、あんなことやこんなことを、堂々としているのですか?」

「ちょっ待って下さいよ夢幻さん。来た時にも言ったでしょ? フローラたちの耳をモフったこともありませんから」


「そ、そうか。それなら許そう。奴隷として買う事が出来るのか……ちなみにだが私でも買えるのか?」

「あの……夢幻さん。今はその話題は優先順位低いですから……」


「そんな事は無い。私にとっては何よりも重要な事だ」

「いやいやいや……それよりもJLJの方向性として、カージノ王国との交易を行う上での問題点はほとんど無いということを前提条件として、提示できるので心配はしなくていいということです」


 話がグダグダになって来たので斎藤社長がまとめた。


「当然今、小栗君が言った事実は国内では秘密にして欲しい。とは言っても、島長官や総理は当然知っている事だ。一応採用の時の守秘義務契約も行ったようにこの会社内で知り得た事項に関しては秘密を守っていただきたいのでよろしくお願いします」


 全員が頷くと、とりあえずは散会となった。

 年長者組の財前さん、大崎さん、斎藤社長は帰宅したが、東雲さん、藤崎さん、夢幻さんの三人はまだ残っていた。


「帰らないのですか?」

「いや大前提が大きく変わったから、より具体的な計画を纏めたいと思ってな。もうちょっと頑張るよ」


「私もです」


夢幻さんと、藤崎さんがそれぞれ自分のデスクに向かって行き、パソコンと向かい合っていた。


「俺は今から、東雲さんと島長官の所に向かいますね。あと、一応政府との交渉関係は、俺の正体知ってても言えない事の方が多いですからその辺りはお願いしますね」

「了解だ。俺は一刻も早く獣人たちとの夢の生活を送れるように頑張るぞ」


「私は、マリンスポーツを諦めないで済む環境を整えて世界中のマリンスポーツ愛好者が気軽にカージノに行けるように尽力したいですね」

「藤崎さんって、めっちゃ真剣ですよね」


「ノーサーフィンノーライフですから! 小栗さんはサーフィンとかした事あるんですか?」

「いや、俺は全く経験ないですね」


「そうなんですか。カージノに行けるようになったら私が教えてあげますね。気持ちいいですよ」

「藤崎さん。なんか卑猥な発言ですね」


「いやだ、夢幻さん。波に乗るのが気持ちいいって意味ですよ」

「解ってはいるけど藤崎さんが言うと、なんか……ね」


「ま、まぁとりあえず島長官とのミーティングに行きます。明日の朝は事務所に顔をだします」


 東雲さんと共に俺は島長官の公邸へと向かった。

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