第52話 潜水艦の持ち主は?

 王宮の中庭に転移をすると、相変わらずと言うかポーラ王女がティータイムを楽しんでいた。

 ザックとアインが日本に行っているので、侍女だけが付き従っている。


「ポーラ王女。ヴァルゴ地区の爆発の原因を突き止めてきました」

「さすがねエスト伯爵。それで敵対的な攻撃だったのかな?」


「まだ尋問はしていませんが、恐らくはそうだと思います」

「陛下に報告に行きましょう。一緒に居る女性は誰?」


「あーアズサ・シノノメと言う名前の日本での俺の従者のような者ですね。日本政府から派遣されています」

「ふーん。エスト伯爵の恋人とかじゃないのね?」


「ち、違いますよ」

「従者にしては随分態度が堂々としているから、私に宣戦布告でもしに来たのかと思ったわ」


「王女、俺はまだ別に王女と婚約をしたわけでも無いですからね? 先にシリウス陛下の元に報告に行きます」

「私も一緒に行くわ。シノノメさんはここで待っていなさい。侍女にお茶を淹れさせますので」


「解りました」


 ポーラ王女と二人でシリウス陛下の執務室へ向かうと、すぐに返事があり中へと通された。


「エスト伯爵。するとその潜水艦と言う攻撃艦で結界に衝突したのが爆発の原因と言うのか?」

「いえ、衝突しただけでは爆発はしないと思うので、何らかの攻撃を加えたことは間違いないでしょう」


「乗員たちは何と言っておる?」

「まだ直接の尋問は行っておりません」


「どちらにしてもカージノに対して明確な攻撃を行ったのであれば、全員死罪だ。勿論、命令を行った者が存在するのであれば、その国にも報復は行う事になる」

「陛下、現段階では特定の国家からの指示だとは思えない状況証拠の方が多いので、はっきりと事実関係が解るまでは、判断はお待ちください」


「ふむ、エスト伯爵が拘束したという百五十名に関しては、カージノ王国での処罰で構わぬな?」

「それは……私には判断がつきかねますが、それでいいのではないでしょうか」


「とりあえず、ヴァルゴ地区のギャラガ侯爵に命じて、逃走などする事が無いように、見張らせておく。エストかリュシオルが居なくては尋問も出来ないからな」

「解りました。とりあえず明日には一度ザックとアインも連れて戻ってきますので、それから尋問に行きます」


「解った。エスト伯爵よ、先程の話の内容では敵が乗って来たその潜水艦とやらは、エスト伯爵が所持しておるのだな?」

「はい」


「それを見てみたいな」

「陛下、この艦は原子力という非常に危険の多いエネルギーを使用しています。特に艦に損傷がある状態では、とても危険なのでお見せするのは無理です」


「ふむ、エスト伯爵であれば故障個所は修理も可能であろう?」

「確かに出来ますが、地球のテクノロジーでも最高クラスの技術が使われているはずの物なので私では理解はできないので、修理したからと言って運用ができるのかと聞かれたら、私には無理です」


「ふむ。それならだ、逆に捕虜として捕まえた連中を寝返らせるのはどうだ? それを運用していたんだからそれなりに詳しいのだろう?」

「それであれば、隷属魔法を使えば問題無いと思いますが、攻撃をしてきた連中を許すのですか?」


「単純に許すというのではなく、攻撃を命令した勢力を明らかにして報復を行いたいと思う」

「なるほど……こちらに被害が出ているわけでも無いので、それで構わないと思います。一度日本へ戻り、その辺りを調べた上で、明日捕虜たちの元へと行き、対処を行いましょう」


「ねぇエスト伯爵。今日はスイーツはありますの?」

「王女はこんな時でもそればっかりですね。あまり甘いものを食べ過ぎると太りますよ?」


「私は毎日、魔法や武術の稽古もちゃんと行っているから大丈夫です」

「それでは、とりあえず日本へ戻って、潜水艦がどこの所有であったのかを調べますので、失礼します」


「エスト伯爵? スイーツはスルーなのですか?」

「ちゃんと渡しますよ。陛下にも日本の美味しいお酒を差し上げますね」


「ほう、それは楽しみだな」

「あ、陛下。日本で大使館として利用する屋敷を一軒用意して頂きますか? 俺のインベントリで運んでそのまま移築しますので」


「解った。丁度跡取りが居なくて取り潰した公爵家の屋敷があるので、それを使いなさい。後地にはエスト伯爵の王都邸を建てさせよう」

「陛下、それでしたら日本の建築業者にオール電化の屋敷を建てさせても構いませんか? 電気の便利さを広めるために一軒作らせたいと思います。向こうで作らせて私が移築を行いますので、王都内に日本人が来るわけではありませんので」


「ほう、余も見てみたいと思っていた。エスト伯爵がそれでいいのであれば任せよう」

「ありがとうございます」


 ポーラ王女と一緒に中庭に戻ると、東雲さんが王宮の美しい庭園に感動していた。


「東雲さん。感動している所を悪いけど日本に戻って潜水艦の持ち主の勢力を調べたいから戻るよ?」

「あ、はい。了解しました」


「それではポーラ王女、明日また伺います。スイーツの食べ過ぎはダメですよ?」

「エスト、それは無理。明日もお土産を期待していますよ」


 東雲さんの手を取り、事務所の二階の俺の部屋へと転移を発動して日本へと戻った。


「本当に凄いですね。ここから一万キロメートル以上はあるのに簡単に転移が出来るなんて」

「まぁ、便利なのは間違いないですけど、この能力を使える人は、カージノでも何人もいない筈です」


「小栗さんは、なぜ二か月程度でそんな色々な能力を手にする事が出来たんですか?」

「それは、俺のユニークスキルのお陰ですね。他の人が同じようにスキルを覚えることは難しいと思いますよ」


「そうなんですね。私も魔法使えるようになりたいです」

「カージノでモンスターを狩っていれば、そのうち覚える事は出来ますよ」


「早く公に行けるようになればいいですね」

「島長官が頑張ってくれれば、そう難しくはないと思いますよ。すでに『ダービーキングダム』のジョンソン船長たちは、カージノへの航路を開く準備に入っていますし」


「でも。カージノは大型客船が寄港できるような港はあるんですか?」

「現状では無いですね。ただJLJには大崎さんが居るので、全部日本で大崎建設に作って貰って、俺が移設する方法で行えば、そう難しくは無い筈です」


「なんだか凄い話ですね。そう言えば……小栗さん。原潜を持ったままなのですよね?」

「まずいですか?」


「絶対、バレないようにお願いしますね。大騒ぎになってしまいますから」

「でしょうね……」


「とりあえず、島長官に連絡を入れて原潜の所持勢力が何処だったのかを調べてもらいましょう。連絡をお願いしてもいいですか?」

「解りました」


 そう東雲さんに頼んで、俺は壁に設置したテレビをつけた。

 丁度ニュース番組をやっていて、各国が日本とカージノが勝手に交流を始めると決定したことに対しての声明を纏めていた。


 おおまかには、カージノは各国の海岸線の減少に対しての保障をきちんと行うのか? という事が取りざたされている様だが、これはシリウス陛下ははっきりと一切の保障は行わないし、そういう発言をする国とは一切の交流を持つつもりはないと、言い切っているので、声明を出した国は逆にこれからの社会の流れに乗り遅れそうだな。


 テレビを見続けていると、海外の石油や天然ガスの生産が大きく落ち込んでいると言うニュースが流れていた。

 この状況が続いた場合、半年後には原油価格は倍以上に値上がりし、当然電気代の大幅な値上げなども避けられない状況になりそうだ。


(これは……カージノ大陸が転移したことによって起きた環境の変化なんだろうか?)


 もしそうだったら、この先の地球は大幅な方向転換を迫られるし、その代替エネルギーとなりうるのは……やはり魔素なのか?

 しかし、魔素が地球で確認されるようになると、当然モンスターが発生する危険性も高まる訳で、どちらにしてもカージノとの交流抜きに未来を語る事は難しい気がする。


 テレビを見ていた俺の電話に着信が入った。

 元サッカー選手であったカールさんからの電話だった。


『アズマ。元気にしてるか? 俺はブンデスリーガに現役復帰が決まったぞ』

『お久しぶりですカールさん。良かったですね。でも……いきなりバロンドールなんて獲得してしまうと、カージノでのスキル取得者はスポーツに参加できないとかなりませんか?』


『そうなったらそうなった時に考えればいいさ。現状ではドーピングしてるわけでも無いしルール違反ではないからな』

『そうですね、応援しています』


『ああ、ありがとう。カージノに正式に渡航できるようになったら一度アンドレ隊長たちと、酒でも飲みたいな』

『はい、楽しみにしておきます』


 応援はするけど、周りが大人しく認めてくれるのかどうかは微妙だよな。


 東雲さんが島長官へ連絡を付けると、ザック達の公式会談が終わった後で、官邸に来れるかを尋ねられた。

 俺も敵勢力の事を知りたかったので、東雲さんに「了解」と伝えた。

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