第51話 原潜

「どうしたんですか? 小栗さん」


 二階の俺の部屋に島長官と東雲さんの三人で上がって行き、俺の部屋のソファーに腰掛けて貰った。


「長官。カージノの結界で爆発が起こったそうです」

「な……本当ですか? それはどこかの攻撃なのでしょうか?」


「解りません。アメリカの第七艦隊が退避したので、その隙を狙ってどこかの国が侵入しようとして、結界に衝突してしまったのか、それとも悪意のある攻撃だったのか……」

「総理に確認を取り、米国の衛星からの情報を至急集めましょう」


 それから、島長官が関係各所に連絡を取っている間に東雲さんが話し掛けてきた。


「小栗さん。素敵なお部屋ですね。本当に私もここに住まわせてほしいですよ」

「本気で言ってるんですか? そんなの駄目に決まってるじゃないですか。ホタルの部屋に住むというなら、まだ理解できますが俺の部屋は絶対ダメです」


「まぁしょうがないですね。今のうちに今日のこの後の予定を確認しておきますね。観光バスの貸し切り車輛が迎えに来ますので、それで都内の観光地を回って、十七時前に官邸に到着予定です。その後は、カージノ一行はまずアメリカ大使との会談を行って貰って、その後は藤堂首相、島長官とカージノ王国の正式な外交官を迎え入れるためのミーティングを行う事になります」

「了解しました。でも俺は、今報告した件を確認しに行かなくちゃならないので、東京観光にはいけないから、お願いしますね」


「あの……私も小栗さんについて行ってはダメですか?」

「カージノに飛ぶんだよ? 立場的にまずいだろ東雲さんは」


 そう返事をしたところで、島長官が報告と確認を終えたみたいで、会話に加わった。


「小栗さん。話は聞こえましたが、お邪魔じゃ無ければ東雲を連れて行っていただけませんか?」

「いいんですか?」


「誰にもバレやしませんし大丈夫です。それより現地を生で見た意見を東雲から聞けることの方が重要だと思いますので」

「攻撃だったかどうかは確認できたんでしょうか?」


「現場海域に潜水艦が浮上しているそうです。航行不能のようですが、艦影からの該当国の判別がまだ出来ていません」

「ということは、攻撃ではなく偵察を行っている際に起こった事故という事でしょうか?」


「それはどうでしょう? 結界がどういう物か解りませんが、接触しただけで爆発をするような物でしょうか? 潜水艦と言えども現代では対地、対空ミサイルは標準で搭載していますし、潜水艦のサイズ的には原子力潜水艦で間違いなさそうですので、何らかの攻撃を行った可能性が高いです」

「それは厄介ですね。既にカージノのシリウス国王は、悪意の攻撃であった場合は、理由の如何を問わず報復を行うと明言されています」


「そうですか……もし……報復を行うのであれば、国籍不明のまま消えて欲しいものですね」

「島長官……どこの国か予測は付いてるんですよね?」


「原潜だと保有国自体が世界で六か国に限定されます。アメリカ、ロシア、中国、イギリス、インド、フランスの六か国です。その中でアメリカ海軍の目を盗むようにカージノ王国に接触を行おうとする国になると、ほぼ二か国に絞られるのではないでしょうか」

「ロシアか中国という事ですか?」


「そうですね。小栗さんが対処をされるんですよね?」

「……はい」


「できれば、撃沈でなく拿捕に止めるように出来ないでしょうか?」

「拿捕をしたとしてカージノ国内に外国の軍を入れてしまう事には抵抗がありますが?」


「乗組員を全員下船させたうえで、潜水艦のみを撃沈なんていう対処はどうでしょう?」

「撃沈はしても大丈夫なんでしょうか?」


「一応……確認をしてから、攻撃を行った事実があった場合は、という事で……」

「なるほど……ロシアや中国の艦であった場合なんですが、英語って通じますかね?」


「それは、潜水艦の幹部クラスであれば必ず英語理解者は乗艦している筈です。それと、原潜には核ミサイルが装備されている場合が多いので、軍人でない政治局の人間も乗艦して居るはずです」

「なんでですか?」


「軍のクーデターで、軍だけの判断で核を使う事を防ぐ為です」

「そうなんですね。俺は中国語やロシア語だとまだ喋れないので英語が通じるなら何とかなるでしょう」


「それでは、よろしくお願いします」

「東雲さん。危険だけど本当にいいの?」


「小栗さんが守って下さると信じています」

「参ったな。俺出来るかどうかは別として、色々経験が足りな過ぎて自信ないんですよね」


「私も男性経験はありませんから大丈夫です」

「ちょっ……話が違うって、誰が異性経験の話してるんですか、戦闘経験ですよ」


「冗談です」


 くっ……最近俺の周りの女性陣は何でみんなこんなに手ごわいんだよ……


「長官、ザック達をよろしくお願いします」

「解りました。怪我の無いようによろしくお願いします」


 俺は東雲さんの手を取ると、ギャンブリーの屋敷の俺の部屋に転移をした。

 

「カージノ王国へようこそ。東雲さん」


 そう言った俺は、既にエスト伯爵の姿に変身していた。

 

「えーと……小栗さん? ですか」

「いえ、私はカージノ王国のエスト・ペティシャティ伯爵です」


「その目と髪の毛は本物? 見た目じゃほとんどわからないですね……」


「簡単に解ったら意味ないじゃないですか」

「そうですね……」


「現地に急ぎます。島長官にいただいた衛星写真によると、潜水艦の浮上してる場所は、大陸の南側になります。第六街区と呼ばれる地域の結界で爆発が起きたようですが、第六街区と一言で言っても、海岸線が千六百キロメートルはありますので、到着したら空から確認することになります」

「えっ? 空からですか? この国は飛行機は無いんですよね?」


「はい。無いですね」

「ではどうやって?」


「行って見れば分かります」


 そう告げると第六街区であるヴァルゴ地区の砂浜へと転移をした。

 この場所では、爆発の後も煙も確認できないので、予定通りに空から見ることにする。


【召喚】ペガサス


 俺は召喚魔法で真っ白で羽の生えた馬ペガサスを呼び出した。

 サイズ的には、地球のサラブレットなどよりは一回り大きく、体重一.五トン、全長で四メートル弱はある。


 騎乗には手綱も鞍も必要なく、背中に乗っていてもほとんど揺れを感じることも無い。


「美しいですね、それに……凄く大きいです……」

「東雲さん……なんかHな発言に聞こえるから、台詞考えようね……」


 俺は、軽くジャンプしてペガサスの背中に跨ると、東雲さんに手を出して貰って、俺の前に引っ張り上げた。

 横座りのような感じで、腰かけてもらい俺の腰に軽く手を回してもらう。


 俺が指示を出すとペガサスは二、三歩駆け、真っ白な翼を羽ばたかせて、空へと舞い上がった。

 恐らく重力魔法のような物でバランスを取っているのだろう。横座りしているだけの東雲さんも体勢を崩すこともない。


「素敵ですね。ペガサスで空を駆けるなんて、まさにファンタジー

です」

「まぁ今は空中散歩気分を味わう事より、浮上している潜水艦を見つける事の方が先決です」


 それから十五分程ペガサスで空を飛びながら、時計回りで大陸の海岸線を移動していると、視界に浮上した潜水艦が目に入って来た。


「あれに間違いなさそうだね」

「そうですね。でも……不思議です。あの潜水艦の形には私は資料で見覚えがあります。旧ソ連の保有していたタイフーン級と呼ばれる大型の原子力潜水艦なんですが、本国ではとっくに退役しているので、存在しないはずの艦です」


「それは……なんだかめんどくさそうな予感がするな」


 ある程度の距離まで近づくと、浮上した潜水艦は前部が大きく陥没していて、まだ沈没はしていないけど航行は不能なように見える。


 そして上部艦橋の部分から人影が確認できた。

 見る限り人種はバラバラだ。

 カージノに比べれば人間というだけでも、バラバラでは無いんだけど……


 五人程が艦橋の上に姿を現しているが、ヨーロッパ系、アラビア系、アフリカ系、アジア系の人物がいる。


「東雲さん。あいつらは何処の国の人間なんだ?」

「どうでしょう……国家である確率は低いかもしれません、むしろ宗教系のテロ組織とかの方が、納得いくかもしれませんね。それより彼らは武装してます。私にはこの距離からでは武器の正確な特定まではできませんが、自動小銃のような物をもってますよ」


「あー。こっちに気付いて銃口を向けてるね」

「大丈夫なんですか?」


「結界の向こう側から狙われても当たりやしないよ。でも、攻撃を受けたらそのまま逃がす事も出来ないね。カージノ王国が舐められてしまうし」

「どうするんですか?」


「拿捕?」


 俺はそう告げると、ペガサスで潜水艦から比較的近い砂浜に下りた。

 ペガサスから降りると、砂浜に土属性魔法で扉の無い四方を囲まれた一辺十メートル、高さ五メートルほどの壁で囲まれた空間を作り出して、転移の扉を一つ設置した。


 東雲さんは砂浜に待ってもらって俺だけが再びペガサスに乗ると潜水艦に向かう。

 潜水艦のブリッジの上に居た連中が俺に向けて自動小銃を乱射したが、結界に弾かれて当然届かない。


(間違いなく敵ではあるな……仕方がない)


 俺は当然お告げカードを所持しているので、結界は問題無くすり抜ける事が出来るので、結界を越えると潜水艦に触れた。


 【収納】


 インベントリには生物は収納できない。

 その場には、乗組員たちが海に投げ出される形で大量に現れた。

 その数は百五十人くらいだろうか。

 思ったより多かったことに俺は少し驚いたが、このまま彼らを見殺しにするのも少し違うと思ったので、転移の扉の片方を広げると、次々に海面に浮かんでいる乗員たちを放り込んで行った。


 やはり……国の軍では無いな。

 半数ほどは武器も所持しているが、揃いの軍服を着ているわけでは無く、格好はバラバラだ。


 三十分程で全員を放り込んで俺は砂浜の東雲さんの所に戻った。


「一体どうやったんですか?」

「俺のスキルで、潜水艦だけを収納したんだ。生き物は収納できないから乗組員だけが残ったってことだね。さっき作ったこの囲いの中に全員を放り込んであるから、どうするかシリウス陛下に確認するよ」


「でもあれだけの人数が居たのでは……五メートルの高さのこの壁は協力し合えば越えてきそうですね」

「えっ? マジで?」


 そう言って囲いの方を振り返った瞬間に銃声が響いた。


「クソッ……懲りない奴らだな」


 俺は風魔法を発動すると壁の上でこちらに向かって銃撃をしてきた男を打ち落とした。

 続けて壁の高さを更に十メートルほど高くして、協力したくらいでは越えれない高さにした。


「どんな組織なんでしょうね? 退役済みの原潜を手に入れられるような組織とか存在しただなんて」

「うーん。既存の国家が直接関係してない事を願うけどね」


 今はこちらの正体を明かす必要も無いし、このまま放置して置こう。


「えーと……東雲さん。今から王都に転移するけど、東雲さんは説明が面倒だから、日本での俺の従者って事で説明しておくね」

「従者……ですか? 婚約者とかじゃなくて」


「いやいや……それは色々問題が多いから勘弁してよマジで。秘書なんて言葉はこの国にないし、執事とか侍女になっちゃうので、従者が一番何でも使える言葉なんだよ」

「解りました。とりあえずそれでいいです」


 東雲さんと二人で王宮の中庭へと転移を発動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る