第50話 JLJへの公式訪問

 会見が終わった後で、一度事務所に下りて行くと、まだ斎藤社長と夢幻さんと藤崎さんが事務所の大画面テレビで、ニュース番組を視ていた。


「みなさん、まだいらっしゃったんですね」

「戻ってたんですね小栗さん。この会見も十分凄かったと思いますが、総理が日本単独でカージノを認め国交を深めると発言したじゃないですか?」


「ですね」

「これは野党なんかが、日本に先を越された諸外国と手を組んで、今の政権を追い落とそうと本気になるんじゃないですか?」


「どうなんでしょうね? 俺は政治に関しては余り学んでいなかったのでよく解りませんが、藤堂首相であればカージノ国は対等な付き合いを提案すると思いますが、他の政党が政権を握っても相手にされないで国交自体がなくなるだけじゃ無いんですか?」

「小栗さん的にはカージノから見て、諸外国と付き合う必要性は薄いと考えられてるって事ですか?」


「そうですね。先程のニュースでもありましたが、既に海ではモンスターも現れていますし、どんな原理なのかはまったく分かりませんが、新種のモンスターも出ています。逆にカージノ王国の力を借りずに、地球の海軍や各国がモンスターと戦えるとは到底思えないですね」

「それは、カージノの人達なら可能という事でしょうか?」


「誰でもとは言いませんが、ハンター達であればある程度の対処は出来るのではないでしょうか?」

「モンスターは世界中に広がるのでしょうか?」


「どうでしょうね? 今の結界をカージノ王国が維持する限りは、地上にモンスターが現れるのはあまり考えられないですね。それこそ、カージノ大陸内にあるようなダンジョンが出現するとかなら話は別ですが」

「ダンジョン……ですか……本当に夢幻さんの書く小説の世界のようなお話ですね」


 すると夢幻さんが発言をした。


「私としては、むしろダンジョンが世界中に現れるような展開になった方が筆も進みそうですけどね」

「いやいや、そんな事を公の場で発言しちゃうと絶対、炎上案件ですから」


「でも実際かなり可能性としては高いのではないでしょうか? カージノ王国と早期の交流を果たして、もしそういう状況になった時に対処ができるよう準備するべきだと思いますよ?」

「でも現状では、まだダンジョンも現れて無い訳ですし、予想で発言すると上げ足を取る人が湧き出るのは間違いないでしょうね」


「とりあえずJLJとしては、明日のザック達の訪問から、民間レベルの交流を実現に移すための、足掛かりにしたいとこですね」

「上手く話を纏めることを期待していますよ小栗さん」


「まぁそれに関しては、多分問題無いでしょう。問題は先程社長が言われたように、他国や野党からの横槍ですよね、認められた手段でカージノ王国への渡航が認められるようにするには、まず日本政府とは協力的に行動しないと、いけないでしょうし今の藤堂首相と島長官の体制が続いてくれるように願うだけです」


 深夜枠のニュース番組が始まると、先ほどの首相官邸での会見に関してコメンテーターを名乗る人たちが様々な意見を出していたが、みんなそれらしく発言はしているけど、何も今後の状況が見えていないので、どこか逃げ道のあるような発言ばかりで終始していた。


 ◇◆◇◆ 


 日が明けて、八時前にはホタル以外の全メンバーが事務所に揃っていた。

 一応それぞれのデスクも、斎藤社長用の部屋の隣に用意はしてある。


 今は、東雲さんと藤崎さんが全員にコーヒーを用意してくれて、新しくなった応接セットで、テレビを見ながら雑談している感じだ。


 財前さんが電力業界の重鎮と話した感触を伝えてくれている。


「まだアレク電機の作る試作機が出来上がってるわけでは無いから、話半分に聞いているような部分はあったが、かなり驚いておったぞ。いきなり日本や諸外国で稼働させるという話はでないだろうが、もし燃料の魔石の確保という事が可能であれば、世界のエネルギー事情は一変する可能性まであるからな」


 現状では、カージノ大陸での稼働のみを考えてのことであったが、それから一か月も立たないうちに状況が変化する事態を、ここにいるメンバー達ですら思い立っていなかった。


 ◇◆◇◆ 


 島長官から連絡がきた。


「小栗さん。ザック騎士爵たちの訪問なんですが、官邸の番記者たちが同行を求めているんですが、これを禁止しても勝手について来て余計に話がややこしくなると思うので、JLJの敷地に迎え入れて、小栗さんと騎士爵たちが握手を交わす所まで、撮影を許可しても構いませんか?」

「うわー、面倒ですね。俺がここにいる事が思いっきりバレるじゃないですか」


「そうですが、このまま秘匿できるようなことでもないので、所在を明らかにしたうえで、友好的に相手をして欲しいのなら過剰な騒ぎを控えてくれ! のスタンスの方がいいと思います」


 俺もちょっと考えた上で、斎藤社長にも聞いてみたが、概ね島長官の言う事の方が道理にかなってるとの返事だったので、許可をした。


 十時前に黒塗りの車の車列が、JLJの事務所へと到着した。

 同じような車種の報道社の車も、続いている。


 先に報道関係の車から記者やカメラマンが降りて、ザック達が車から降りる所を撮影していた。

 さすがに社内に記者を入れるつもりは無いので、社員全員で庭に出て一行を迎え入れる。


 先頭は島長官で斎藤社長と握手をしながら挨拶を交わした。

 ぞろぞろ付いて来ている報道の人間に対して何も言わないわけにもいかないので、斎藤社長が差し障りの無い言葉を述べる。


「本日は当社の社員である小栗が、カージノ大陸において友好を築いた、ザック騎士爵並びにアイン騎士爵に日本という国を紹介するということで、当社に来訪して頂きました。これ以降は政治的なお話はございませんので、取材は程々にお願いしたい所です」


 記者団の代表者のような人が質問をする。


「このJLJという会社に関してお伺いしても構いませんか?」

「どうぞ」


「まだ設立間もない会社のようですが、どういう事業を手掛けられるのでしょうか? お見受けしましたところ、建設界の重鎮であった大崎さんや、砂の国銀行の頭取をされていた財前さんの姿も見えますが、かなり大掛かりな事業を展開されるのではないでしょうか?」

「その辺りはまだ発表前ですので、詳しくは控えさせていただきますが、当社の小栗が築いたカージノ王国との人脈を活用して、カージノ王国と日本国の双方に文化的な発展を目指すことを目的にしているという事をお伝えしておきます」


 挨拶を終えると、東京観光に出かけるまでの間の時間は、記者団は駐車場で待機して、島長官とカージノ側の五人は室内に案内された。

 SP達は建物周辺の警備につく。


「島長官、結構大人数で驚きましたよ」

「申し訳ない。どうしても話題的に今世界中でカージノ関連の事に関してはトップニュースになってしまうし、昨日の総理の発言もあったので各国も非常に、気にしている部分だからね」


「大丈夫なんですか? 日本が、世界に足並みを揃えずにカージノを承認するなんて発言をしたことは?」

「そこはJLJさんが、日本だけでなく世界中にカージノ王国が有益な存在だと広めてくれることを期待します」


 藤崎さんと東雲さんが、全員分の飲み物を用意して、応接セットに全員で腰掛ける。

 二十名程は座れる大きな応接セットなので問題は無い。

 藤崎さんのチョイスは間違って無かったな。


「随分会社らしくなりましたね。ここにいるメンバーがJLJのフルメンバーでしょうか?」

「そうですね、あとは蘭が通訳のバイトに出かけているだけです」


 俺がそういうと、リュシオル姿のホタルがうつむいてた。

 夢幻さんは、フローラとフラワーをガン見している……

 その視線に、少し引いてるよ……


「今後なんですが、どういう風に動かれるのですか?」

「島長官、このフローラとフラワーなんですが、国交を認めていただけたのであれば、このまま日本でというかJLJで勤務させても構いませんか?」


「彼女たちはそれでいいのですか?」

「大丈夫なはずです」


 リュシオルが二人に確認を取ると「アズマ様のそばに居られるのであれば嬉しいです」と返事が返って来た。


「解りました。その件は私の方で認可が下りるように取り計らいましょう。東雲さんに連絡を入れますので必要な書類などを用意して貰う事になります。カージノ王国政府の発行するパスポートが必要になりますので、その辺りの用意はお願いしますね」

「了解しました」


「それと、隣の小学校の後地ですが、都から国が買い上げる事になりました。その上でカージノ王国には適切な賃貸料で貸し出すことになりますが、よろしいでしょうか?」

「それは、両騎士爵に対してのお言葉ですよね?」


「あ、ああ、そうですね。小栗さんに言っても意味がありませんでした」

「賃貸契約がOKという事であれば、大崎建設に依頼してすぐに囲いを作っていただきたいのですが、大崎さんお願いしてもいいですか?」


「任せなさい。工事用の仮囲い鋼板の設置で構わぬのじゃな?」

「はい、それで大丈夫です」


「島長官。明日着工させても大丈夫かな? 一日で完成させるが」

「そんなに早く設置できるのですか?」


「大崎建設の総力を挙げればわけの無い事じゃ」

「了解しました。関係各局の申請は通しておきますのでよろしくお願いします。それで小栗さん囲いを作った後はどうされるのですか?」


「エスト伯爵に連絡を入れて、こちらに来て頂き魔法建築でカージノの貴族邸を移築して貰うとかいかがでしょうか?」

「正式に国交を認めていただけるのであれば、カージノに連絡を取り王女とエスト伯爵の来日を取り計らいます。当然カージノに賃貸された大使館用地は、カージノ国内の扱いで転移での移動も認めていただけるという認識で構いませんよね?」


「ちょっとお待ちください。一応総理に確認を取ります。私個人としては他国の横槍などを防ぐ目的からも、既成事実にしてしまう事は反対ではありませんが、総理が知らなかったでは都合が悪いので」

「今建っている校舎などは講堂を除いてスクラップとして処分して構わないでしょうか?」


「それは敷地を賃貸した以上敷地内はご自由にされて構いませんが、簡単にできる事なのですか?」

「おそらく大丈夫だと思います。大使館として使用する建物の移築が終われば、改めて総理と島長官はご招待させて頂き、その時に各国を招待する招待状を出すべき国をピックアップしていただければと思います」


「解りました。早急に官邸に持ち帰り総理と調整を図りましょう」

「長官、昨日の会見の後で各国は何か言って来てますか?」


「ホットラインで直接連絡があったのはアメリカだけですね。バイソン大統領からアメリカが主導権を取れなかったのは非常に遺憾ではあると伝えられたそうです」

「アメリカはどう出るんですか?」


「様子を見るしか無いのではないでしょうか?」


 そんな会話をしている時にポーラ王女から念話で連絡が入った。

 

『エスト伯爵、南側の結界に何かが衝突して爆発が起こったみたいなの。原因を調べられるかしら? もし攻撃であればそれ相応の報復行動に出ないとならないので』

『爆発ですか? アメリカの第七艦隊の空母が修理のために現地を離れたから、他の国の船がウロチョロして結界に衝突でもしたのかもしれませんね』


『父上からは、悪意があったのかどうかの確認を頼まれていますのでよろしくお願いします』

『解りました。でも、爆発の内容にもよりますけど、安易に報復を行うとかの判断は控えるように伝えてください』


 念話を終了して、とりあえず島長官にだけは伝えなければならないと思った俺は、二階の俺の部屋に島長官に来てもらうことにした。


「リュシオルさん。少しだけ長官に用事が出来ましたので、JLJのメンバーと騎士爵たちの友好を深める会話でもしていてください。長官一人だけというわけのはダメですよね?」


 そう島長官に伝えると……


「東雲さんに同行して貰っても 構いませんか?」と、返事が戻って来たので了承して、二階の俺の部屋へと上がって行った。

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