第49話 会見

 転移で事務所二階の自分の部屋へと戻った。

 今日家具の搬入も終り、快適な空間が作り上げられている。


 65V型の4Kテレビが壁に固定されていて座り心地の良さそうなソファーが部屋の真ん中に存在感を主張している。


 俺はとりあえずソファーに腰掛けてテレビのスイッチを入れると、画面には島長官が映し出されていた。

 本日のカージノ王国からの使者を受け入れた件での公式記者会見のようだ。


『島長官。カージノ王国の特使が日本を最初の訪問国に選んだことに関しての理由をお聞かせいただけますか?』

『今回、特使に選ばれたザック騎士爵及びアイン騎士爵が、偶然の事故でカージノ王国を訪れた小栗さん、蘭さんの両名と現地で出会う事があり、その際に友好を築かれたと、うかがっております』


『今回の来訪は、どのような意味があるのでしょうか?』

『両騎士爵共に今回の来日において外交的な決定権はなんら持たされていないと伺っております。正式な外交官が来訪しても問題が無いのかの事前調査としての訪問です』


『日本は、カージノ王国を国として認め国交を開く方針なのでしょうか? 世界中がこの問題に関しては、正式な立場を表明しておりませんが、世界に先駆けて日本が独自の判断を下すのでしょうか?』

『その辺りの問題は非常にデリケートであり、いまだ与党内でも判断を調整中でありますが、日本はカージノ王国の良き友人になれると思っております』


 そんな感じで、当たり障りのない応答を行った後で、一度休憩に入り今度はイスとテーブルが用意されて、ザック達が会見場に登場するようだ。


 会見場の横の扉から、ザックを先頭に、アイン、リュシオル、フローラ、フラワーの順番で入場してきた。

 席に着席するのは、貴族であるザックとアインだけで、通訳のリュシオルと、従者のフローラとフラワーは後に控える様に立っている。


 会見場が大きなどよめきに包まれ、激しくフラッシュの灯が明滅している。

 勿論このどよめきは、フローラとフラワーのケモミミと尻尾に対してのどよめきが九十パーセント以上だろうと思われる。


 日本人を基準に見ても下手なアイドルよりも数段上の綺麗な顔つきをした馬娘がメイド服で後ろに控える姿など、とても現実とは思えない。

 しかし、流石に首相官邸に詰めている記者やカメラマンたちは、いきなり馬娘たちに質問をするようなことはせずに、島長官の紹介を待った。


『本日、来日されたザック騎士爵、およびアイン騎士爵をご紹介させていただきます』


 ホタルがリュシオルとして、ザックが喋る内容を日本語で伝える。


『カージノ王国のザックとアインです。後ろに控えているのは従者ですので、直接のご質問などはなさらないでください。ただし、カージノ王国には人族というのは一つの種族ではなく、多種多様な人種で構成されているという事を、わかりやすくお伝えするために同行させました』


 記者たちが質問をしてくる。

 それを、リュシオルがザックの耳元で囁き返事をもらう。


『ザック騎士爵は、日本に到着してどう思われましたか?』

『カージノには一般人が利用する高層建築物や、家電製品、それに私達がこの国に来るために搭乗した飛行機などは存在しませんので、驚きの連続でした』


『それはカージノ王国の文化は遅れているという事でしょうか?』

『必ずしもそうではありません。カージノでは土地は沢山ありますので、高層建築物を立てる意味があまりないのと、家電製品で行えるような事は少なくとも貴族になるような人物にとっては、魔法で代用できることがほとんどだから、そういう意味で発展させる必要が無かったともいえます』


『魔法は我々も覚えることは可能なのでしょうか?』

『今後交流が進む事があれば、明らかになる事でしょう。現時点ではわからないが答えですね。今回は先程、島長官が仰られた通りに、わが国の外交使節をこの国に派遣した場合、わが国にとっての利点はあるのかどうかを判断するために見に来たに過ぎません。今後友好的に付き合いたいと言うのであれば、そのような対応をお願いします。現状、カージノ王国においては食料自給率や、必要な資源などの生産性は十分に国内で賄えており、敵対的な発言や今回の大陸転移に関して賠償問題を口にするような国家と付き合わなければならない理由は存在しませんので』


『今回の訪問は馬獣人の女性のようですが、他にどんな種族がいるのでしょうか?』

『大きく分けて、人族、エルフ、ドワーフ、獣人族、魔族と五つの種族が共存しています。獣人族は様々な種族の獣人が存在するので、簡単には言い表す事が出来ません』


『我々が、カージノ王国に伺うことは出来るようになるのでしょうか?』

『友好的な国交が認められれば、そんな日が来るのかもしれません』


 スムーズすぎるな。

 おそらくホタルが上手く、問題が無いように調整した通訳をしてるんだろうな?


 それから十分程当り障りのない質疑応答を繰り返していると、島長官の下に原稿が届いた。

 一瞬島長官の表情が硬くなったが、その後、落ち着いた表情で話し始めた。


『本日、日本時間の十六時頃にカージノ大陸西の海域において展開する、米空母『ラン・フォア・ローゼス』がモンスターに襲われ、艦載機などに多大な被害をもたらされたという情報が入りました』


 その発言に会見場は大きなどよめきが起こる。


『人的被害は? なかったのですか?』


『カージノ王国の優秀な魔法使いによって、危機を脱し現在、修理可能なドックに向けて回航を始めたそうです』

『日本近海や、世界中の海にモンスターは現れるという事でしょうか? いや……海だけではなく陸地にも危険なモンスターが現れる可能性があるのですか?』


 島長官が一瞬考えるようなしぐさを見せたが、取材陣に向けて告げた。


『カージノ大陸の転移と共にこれまで地球に存在しえなかった、危険なモンスターが現れる可能性を否定はできません。私の立場では私見をこの場で口にすることはできませんので、これ以上は控えさせていただきます』


 そう島長官が口にすると、会見場に藤堂首相が姿を現した。


『私からお伝えしましょう。あくまでも現時点では私個人の私見だという事を念頭にお聞きください。これからの地球で、ともに暮らす仲間として、カージノ王国を認め危険なモンスターの対処なども、互いに協力し合う事で対処していきたいと考えます。ザック騎士爵、アイン騎士爵にお伝えします。わが日本国政府はカージノ王国を国家として認め友好的なお付き合いをしていきたいとシリウス陛下にお伝えして頂きたい』


 その言葉をリュシオルがザックに伝えると、ザックは藤堂首相に対して握手を求めた。

 リュシオルが、ザックの言葉を報道陣に対して話す。


『藤堂首相はこの国の最高責任者だと伺っています。私のような立場の下の者に対して自分の言葉で返答を貰えたことを嬉しく思います。この事実を我がカージノ王国のシリウス国王陛下に報告し、カージノ王国と日本国がよりよい関係を築けるように尽力させていただきます』


 その言葉を聞いた報道陣からも拍手が沸き起こり、合同記者会見は終了した。


 ◇◆◇◆ 


 記者会見を終えて、内閣総理大臣の執務室で藤堂と島が話していた。


「総理、ナイスタイミングでしたね」

「あー、今日はどこかで顔を出すつもりでいたからな。丁度いいタイミングがあって私も助かったよ」


「しかし……各国はどう出てきますかね」

「対カージノ外交においては、わが国が完全に抜きんでた。場合によっては各国の批判が集中するかも知れないが、その場合は既存各国との付き合いよりもカージノを優先してもいいと私は思っている。小栗君が提案していた電力の件だけでも、すでに小栗君のブレーンとして前の大崎建設の会長や砂の国銀行の頭取をされていた財前さんが、電力大手の重鎮に対して行動を起こしていてな、その重鎮たちが私の方にそんな事実はあるのか? と聞いて来たんだ」


「それはまた……小栗東という男は今まで派遣の倉庫管理しか経験が無いという事でしたが、どうやら軽く見ると大変なようですね」

「まさにカージノ王国のモンスターよりも危険な男なのかもしれない。『ラン・フォア・ローゼス』を危機から救った優秀な魔法使いというのも彼なのでは無いのかね」


「まだ確認はしておりませんが話の流れから考えて、可能性は高いと思っています」

「カージノの送って来る外交的な権限を持つ人物は誰になるか聞いているのですか?」


「それはこの後で、再び両騎士爵とリュシオルさんと会談を行う予定です」

「リュシオルさんは? やはり蘭さんですか」


「はい。それは間違いないですね」

「なるほど……カージノ王国の件は基本的に官房長官に任せます。私は国連を含め世界各国の対応を引き受けましょう」


「お手数をかけます」


 ◇◆◇◆ 


「リュシオルさん。この部屋は他に話を聞かれて困る様な方もいないし、盗聴も心配ありませんので、手短に話を進めて構いませんよ」

「はい、長官が聞きたいのはカージノの正式な親善大使は誰になるのかという事ですよね?」


「そうです」

「カージノ王国第一王女のポーラ姫が見えられる予定です」


「なっ……王女ですか、外交的な話など出来る方なのでしょうか?」

「私も王女の能力は詳しくは解りません。まだ十八歳のお嬢様ですし」


「大丈夫なのでしょうか?」

「それに関しては、大使館内部に転移の扉を設置する予定になっていまして、その都度問題は本国で協議するということではないでしょうか」


「えーと……転移の扉とは?」

「そのまま、カージノ王宮の中庭に繋がる門を在日本カージノ大使館の中に設置するということです」


「それは……カージノから日本へ無条件で攻め込まれる可能性があるということですよね」

「そんな心配をなされるくらいなら、カージノと交流をしようなど思われない方がいいのでは?」


「……それもそうですね。一つだけ、小栗東さんと蘭蛍さんはあくまでも日本人なのですよね?」

「そのつもりですが、日本政府の味方なのですね? という意味でお聞きになられたのなら、どちらの味方でもありません。自分の考えで正しいと思う行動を取りたいと思います」


「すでに東京都へはJLJ本社横の小学校跡地の譲渡を頼んであります。明日には正式に決定する事でしょう。周囲を囲む壁の工事や建物の建設などは、どうされるおつもりですか?」

「それは先輩……いや、まぁいいや。小栗先輩が魔法で片付けたら楽なんだけどなぁ? とか言ってましたけど、駄目ですか?」


「都内とはいえ夜間は人通りの多い場所ではありませんので、SNSとかで大きくさらされたりしないで出来るのであれば、お任せします」

「長官、随分物分かりが良いんですね」


「まぁ大使館の場合は、賃貸契約さえ済んでしまえばその場所は日本ではなくカージノの法律が適用される場所ですから、逆に何があっても『我が国は関与していません』で済みますからね。くれぐれも正規のルート以外での入国者が敷地外に出る事が無いように、という点だけはお願いしますよ」


 翌朝、ザック達の一行はJLJ本社を訪れることになった。

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