第48話 『ラン・フォア・ローゼス』襲撃
自衛隊の輸送機により『ラン・フォア・ローゼス』から那覇基地を経由して乗り換え、羽田へと到着した。
途中ザックが俺に話し掛けてくる。
勿論カージノ語だ。
「エスト伯爵、こんなに時間をかけずとも前と同じように、伯爵の魔法で行くことははできないのですか?」
「おい……ザック、俺はアズマだ、エスト伯爵と呼ぶんじゃない。それに魔法の存在は地球では、まだ明らかにするのは問題が多いから、ちゃんと使える状況を作るまではダメだ」
その様子を見ていた島長官が、何かを察して突っ込んで来た。
「小栗さん。日本の一般国民の小栗さんに、カージノの貴族であるザック騎士爵が、かなり丁寧に接しているように見えるのは、どうかと思いますが? マスコミや勘の鋭い他国の政府筋の情報部が、エスト伯爵の正体を判断する基準になりそうですよ?」
「……そうですよね。カージノでは今までも大陸の外の国との国交をしてなかったから、外交的な駆け引きという概念など持って無いので、その辺りが甘いようです。迂闊な発言にならないように、言語学者のリュシオルにくぎを刺しておきます」
「小栗さん。ここだけの話、ホタルさんと私の方で喋っていい事と、駄目な事を打合せしておいた方が良さそうですね……」
「ですね……くれぐれも、リュシオルとホタルが同一人物とばれないようにお願いします」
「まぁ出来るだけ配慮しますが、各国の情報部は変装くらいは見破ってしまう物だと思いますよ? 今後エスト伯爵が表舞台に立つようになった時にも同じことが言えますので、公然の秘密と認識させた方が良いかもしれませんね」
「俺にも政治的な駆け引きなどは無理な話なので、その辺りは島長官にお任せします」
「東雲を通じて、ある程度、表立った発言は内容を制御していただく事になりますが、ご協力をお願いします」
「解りました。首相官邸での話が終わった後は、一度ザック達をJLJの事務所に招きたいのですが大丈夫ですか」
「護衛は付く事になりますが、友人を訪問するという形でなんとかしましょう。ただし一晩は官邸に滞在していただいて、明日の訪問でお願いします」
「了解しました。俺は今日は、官邸では一緒じゃない方がいいですよね? 民間人がカージノ王国の使者との会談に同席も変ですし」
「そうですね、ホタルさんだけで大丈夫でしょう」
首相官邸へと到着したところで俺は一行と別れ、事務所へと戻った。
まぁ俺よりホタルの方が、よっぽどしっかりしてるし大丈夫だろう。
「東雲さんは、向こう側じゃないんですか?」
「いえ、今の私の担当はJLJというより、小栗さんですから」
「東雲さんみたいな綺麗な人に、そんな事言われると嬉しいですね」
事務所に戻ると斎藤社長と夢幻さんが居て、それぞれ俺に話しかけてきた。
斎藤社長は、藤崎さんが納品準備が整ったので、よければ今日この後に設置してもいいかという内容だった。
「ホタルの部屋にもまだ私物は無い筈だから、OKと伝えて下さい」
そう返事をした後で、気になったのでホタルには一応メールしておいた。
五分後くらいに返事が戻っていたが、『替えの下着とか入ったスーツケースが置いてあるので先輩は触らないでください! もし触ったら全部新品に買い替えてもらいますからね』と返事が戻っていた。
東雲さんにメールを見せて、移動をお願いした……
続いて夢幻さんだ。
「小栗さん!! 馬娘が来日したそうですね! 私も会う事は出来るのですか!!!」
なんか……凄い食いつきだ。
「あー……えーと、一応明日、この事務所にザック騎士爵とアイン騎士爵の従者として一緒に訪れる事になっています」
「夢が一つ叶います! 本物のケモミミですよ。いやぁこの会社にお世話になって本当に良かった」
「くれぐれもいきなり耳をモフったりしないでくださいね? 俺でさえまだ、そんなことしてないんですから……」
「くっ……それは、耐え抜いて見せます」
随分心配な発言だが大丈夫だよな?
十六時頃になって藤崎さんが業者さんと一緒に、四トントラック二台で納品に訪れた。
藤崎さんの事前に描いた図面に従って、二時間程ですべての設置を終えた。
夢幻さんや斎藤社長も手伝ってくれたので、助かったよ。
「小栗さん。どうですか? 図面で見ていただいたのとは、また違った感じがするでしょう?」
「いやぁ想像以上です。藤崎さんにお願いして本当によかったと思います」
「そう言っていただけたら私もやりがいがあります。でも明日からはこちらで仲間として一緒にお仕事をさせていただきますね」
「はい。仕事内容は自分で決めていただく事になりますので頑張ってくださいね」
「はい。マリンスポーツの振興事業を中心に取り組みます。旅行代理店との提唱でかなりの需要を見込めると思いますので」
「企画書が出来上がれば、カージノ王国側の人間と協議が出来るように、連絡は付けますので」
その後で俺は今日の島長官との話で、カージノ王国の大使館予定地として隣接地にある、廃校になった小学校の敷地を借り受けることになる予定であることなどを話した。
「小栗さん大使館としては随分広い敷地になりますが、なにかその場所で行う予定などあるのでしょうか?」
「そうですね、カージノの文化を紹介するような施設を常設で設置出来るようになればいいと思いますが、まだその辺りはカージノ側との折衝も必要だと思います」
「ふむ、それはJLJが積極的に関わる予定があるのですか?」
「その予定ではあります。ただそれに合わせて人材の問題とか出てくるでしょうし、当然諸外国の介入も予想されますから、東雲さんを中心に取り組んでもらおうかと思います」
「適任でしょうね。先ほど大崎さんと財前さんからも連絡がありまして、明日は朝からこちらに出社されるそうです」
「それじゃぁ明日はホタル以外は全員揃いますね」
そんな話をしていた時だった。
俺のイリジウム電話が着信を告げ、表示を見るとアンドレ隊長だった。
『アズマです。どうしましたか? アンドレ隊長』
『アズマ、すぐこちらに来てくれ。『ラン・フォア・ローゼス』が襲われている』
『何ですって? わかりました。とりあえず詳しい話はそちらで』
俺は斎藤社長にだけ一言告げると、ギャンブリーの屋敷へと転移を発動した。
その場には、アンドレ隊長とミッシェル、ベーアが居た。
「一体何が起こったんです?」
「『ダービーキングダム』の時と同じ状況だ、魔物が船に絡みついているそうだ」
「タコのモンスターですか?」
「俺も電話で連絡を貰っただけで、現場を見たわけでは無いからな」
「みんな一緒に行きましょう。怪我人がいるかもしれませんので手助けをお願いします。転移で『ラン・フォア・ローゼス』に飛びます」
「いいのか? 正体がばれちまうぞ」
「大丈夫です。こんな場合のために、エスト伯爵の姿に変身できるように練習しましたから」
そう言って俺は幻影魔法を使ってその姿を、先日ホタルとショッピングモールで整えた金髪、ブルーアイのエスト伯爵の姿へと変えた。
魔法で変身してるので、カラコンも毛染めも使ってはいない。
変身を行うとアンドレ隊長の手を握り、『ラン・フォア・ローゼス』の甲板に転移した。
そこでは激しい銃撃が繰り広げられている。
「一体どういうことだ」
タコ型のモンスターは四体もいた。
一匹は飛行デッキの上で戦闘機を掴み振り回している。
他の三匹は艦を横転させようと、激しくゆすぶっていた。
全長三百四十メートル近い艦体が左右に激しく揺さぶられ、とてもまともに立てる状態ではない。
その中で銃撃を行ってはいるが、効果は出ていないようだった。
「とりあえずモンスターの排除を行います」
「できるのか? アズマ」
「エストです」
そう返事をして、俺は雷魔法のサンダーランスを放った。
俺の魔力量で放つ雷魔法は一撃でタコ型モンスターを感電させて、三十メートル以上もその巨体の全体から水蒸気が沸き上がった。
「よし、十分効果がある。アンドレ隊長たちは治療が必要な人が居ないか確認して来て下さい。俺は残りの三匹を駆除します」
「あ、ああ解った」
俺は甲板上を大きくジャンプして、残りのタコを狙える位置に移動しながら次々と倒した。
とりついたモンスターを排除すると、揺れも収まったのでアンドレ隊長の元へと戻った。
「エスト伯爵、怪我人は今手分けをして集めているが人数が多すぎる。この艦には四千五百人以上の乗員が居て、その半数以上が負傷している」
「解りました。ある程度で構いません。艦長たちは大丈夫ですか?」
「連絡してみる」
アンドレ隊長がバーン大佐に電話をすると、ブリッジの方から手を振りながらバーン大佐が現れるのを確認できた。
「ご協力感謝します。えーと? この方は誰だ? アンドレ」
「カージノ王国のエスト伯爵です。優れた魔法の使い手でこの一帯の海岸地域の領主でもあります」
「エスト伯爵、改めて、お礼を言わせていただきます。助かりました。この艦にどうやって搭乗されたのですか? 恐らく魔法なのでしょうが、一応確認のために……」
俺はボロを出さないように、カージノ語でアンドレ隊長に話しかける。
アンドレ隊長が、通訳をしながら伝えた。
「転移で乗船しました。どうやらこの近海は危険な魔物がいるようなので、自力で排除できないのであれば、安全な場所へと移動した方が良さそうですね。いつでもエスト伯爵が来れるとは限りませんので、治療の必要な方を一か所に集めて下さい、魔法で治療してくださると言われてます」
怪我人の数は二千五百名以上におよんだ。
全員を手分けして、甲板上に集めて貰うとエリアヒールを使って、怪我人の治療を行う。
さすがに一度では無理だったので百人ずつ二十五回ほどの回数で治療を行った。
「凄い……これが魔法の力なのか……」
バーン大佐が二千人以上の怪我人が一瞬で治って行く様子を見ながらため息を漏らす。
その後で俺に質問をしてきた。
「カージノ王国では怪我や病気は、みんな魔法で、こんな風に治療をして貰えるのでしょうか?」
アンドレ隊長を介して返事をする。
「このレベルでの魔法を使えるのは、エスト伯爵くらいしか存在しませんが、通常は教会の聖職者や魔法薬による治療になります」
「そうですか、ありがとうございます」
「エスト伯爵はこれから、この事態を王宮に報告に行かれるそうですので、私達はこれで失礼します。後でまた電話で連絡をして下さい」
「了解した。アンドレやミッシェルたちもありがとう。助かったよ」
俺達は再度手を繋ぎ、屋敷へと戻った。
「アズマ、本当に助かったありがとうな。それにしても、アズマが戦う姿を始めて見たが、めちゃくちゃだな」
「俺のはスキル頼みですから」
「魔法スキルをあのレベルで使えるようになるのは、いったいいくらかかるんだ?」
「購入をして、という事ならランク六の雷魔法をレベル五まで上げて、魔力と知能も二段階目をカンストさせたくらいじゃないと、同じようには使えませんので、一千億ドル単位での金額が必要になりますね……」
「そいつは……無理だな」
「ですね、例えばアメリカなどがお金を出すと言っても、カージノではUSドルなど必要としませんので、対価になりうるのは金、銀、プラチナなどに限定されてきますから、各国が用意できても、たかがしれているでしょう」
「なるほどな……それはいい情報だ。会社に連絡して金を買い集めて置くように伝えよう」
「俺は明日の朝が早いので、一度戻りますね」
「ああ、わかった。『ラン・フォア・ローゼス』は艦載機などがかなりダメージを受けているので、一度この海域を離れることになるだろうな」
「そうでしょうね。でも第七艦隊が離れると他の国がちょっかいをかけてきそうで心配ですね」
「あるだろうな……何か動きを察知すればまた連絡をする」
「解りました」
俺自身、初めて実戦で強敵クラスのモンスターを退治して、少し気分が高揚した状況で日本へと帰還した。
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