第46話 空き巣

「ホタル、何食いたい?」

「そうですねー、焼き肉とかどうですか?」


「男と二人で焼き肉に行きたがる女子は、脈ありだって聞いた事あるぞ?」

「あら、私は別に先輩が嫌いじゃないですよ? ただ王女様の次の立場になるとかが嫌なだけだし」


「そ……それは、俺は王女と結婚するって決めた訳じゃないからな!」

「無理に決まってるじゃないですか。また何かの理由でカージノが元の星に戻っちゃった。とか無い限りは」


「……ま、まぁあれだ。誰かと結婚するなら王女を選択肢に入れないわけには行かないだろうけど、誰とも結婚しないという手もある」

「じゃぁ私は増々ないですね! ちゃんと結婚して子供産みたいですし! それに別に王女が嫌いって訳じゃないんでしょ?」


「それはまぁそうなんだが、愛してるのか? って聞かれると答えはNOだな」

「付き合った期間とかないですしね」


「だろ……当面は独身貴族だな」

「文字通りですね伯爵様!」


 六本木の有名焼き肉店で食事をしながら思った。


「魔獣肉の焼き肉店を出せば、きっとメチャ流行るだろうな」

「それは間違いないと思いますけど、カージノ大陸以外で魔獣が現れるようにでもならないと、日本では検疫とかで凄い時間が掛かると思いますよ?」


「それもそうだな。じゃぁカージノの俺の領地でアダムさんに魔獣肉の専門店をやってもらうのが一番現実的かな」

「それなら、超高級店でも絶対予約でいっぱいになりそうですね」


「ホタルは明日はどうする? 日本側の随員としてか、言語学者のリュシオルとして参加するか」

「そうですね、ザックとアインだけで王女の来日を決めるというのもおかしいですし、従者で来るフローラとフラワーも心配ですから、リュシオルで参加します」


「そっか、じゃぁ今のうちに向こうの屋敷に送っておこう」

「はーい」


 焼肉屋を出ると転移でギャンブリーの屋敷へと行き、フローラとフラワーに明日ホタルと一緒に、日本へ行く事になると伝えた。


「えっ! アズマ様やホタル様の故郷へ連れて行っていただけるのですか? 凄く嬉しいです」

「でも、王女の騎士のザックとアインの従者として行く事になるから、あまり、はしゃぎすぎるなよ?」


「かしこまりました」

「いつものメイド服で構いませんか?」


「ああ。それでいいけど、一応レースの時のユニフォームも持って来てて貰えるか?」

「えっ? 走れるんですか?」


「まだわからないけど、今後の事を考えてちょっとだけ走ってもらうかもしれないから」

「解りました。楽しみです」


「それじゃぁ明日の朝、迎えに来るからな今日は早く寝るんだぞ」


 それだけ伝えると俺は今度は王宮へと転移して、王女とザックとアインの三人と明日の予定の確認を行った。

 シリウス陛下からの書状はすでに、ザックが預かっていて、王女の公式訪問を伝える内容になっていた。


 その中で、日本において各国の大使との面談を行い、今後カージノが地球の各国と付き合っていく上での条件などが書き記してある。


①カージノ王国は地球の各国と友好的に共存していける事を願う。

②今回の大陸転移による、地球側の被害に関しては、カージノ王国としては不可抗力であったために、一切の賠償請求や責任に関してはこれを認めない。

③カージノから地球の各国に対して戦争その他、争いごとを仕掛けるつもりは一切ないが、もし攻撃をされた場合それに対しての防衛及び、報復は行う。

④以上三項目を認めた国に対しては、文化交流などを行う準備がある。


 との内容だ。

 はたして、他の国々がそれを認めるかどうかは俺も気になるところではあるな。


「エスト伯爵ぅ、ポーラはいつになったらまた日本に行けるんですの? 美味しいスイーツをお腹いっぱいに食べたいのです」

「王女……日本に行っても、公式に王女の立場として行ってしまえば、自由に出歩けたりは絶対ないからな?」


「なぜですの? この間は色々連れて行って下さったではないですか」

「いやいや……あれは誰も王女の容姿とか知らないことが前提だったし、今回は公式に訪問するので、世界中に王女やザック達の姿もテレビで放送されるから、勝手に出まわるのは困る」


「変装すればいいではないですか」

「ちょっと変装したくらいでは、一緒に居るのがザックやアインだとすぐばれますって」


「それなら、エスト伯爵が一緒なら大丈夫でしょ? 私をちゃんと守ってくださいますわよね?」

「そ、それは……そのうち機会を見て出かけることもあるので、勝手に出まわったりは絶対しないでくださいよ?」


「解りましたわ。ポーラは聞き分けのいい女ですので、旦那様に迷惑はかけませんので」

「……」


 一通りの打ち合わせも終えて、俺は日本へと戻った。

 まだ、新しい部屋にはベッドも無いので、ワンルームマンションの部屋の方だ。


 部屋に転移をすると、俺はかなり焦った。

 部屋中が荒らされていたのだ。


(これは一体……)


 無くなった物とかを調べると、俺のパソコンだけが消えていた。

 俺とカージノの関係を調べようとしている連中の犯行だろうな。

 でも、あのパソコンは、『ダービーキングダム』に乗る前に使った後は、全然電源も入れて無かったはずだし、持って行っても何もわからないだろう。


 だが……困るな。

 俺の性癖が全て暴露されちまうぞ……

 ハードディスクの中のあんな画像やこんな画像が暴露されたら、俺はホタルから完全に変態認定されそうだぜ……


 問題は犯人は誰なのかだな。

 これは、俺が調べるよりも警察に任せた方がいいのか?


 あ、適任っぽい人いたな、ちょっと頼んでみるか。

 俺は東雲さんのスマホの番号を呼び出して電話をかけた。


『夜分遅くにすいません小栗です』

『どうなさいましたか? こんな時間にデートのお誘いかしら?』


『いや、そんなんじゃないです。俺の自宅に、空き巣が入ったみたいで、ほら、ちょっと俺って事情が特殊だから、警察沙汰は面倒だし東雲さんに良い対処方法が無いか聞いてみようと思いまして』

『空き巣って事務所の二階のお宅ですか?』


「いや、もともと住んでた方です、事務所の二階はまだ何も家具を置いてないですから、部屋に戻って来てみたら派手に荒らされてたって感じです」

「心当たりは?」


「いやぁ……色々あり過ぎて、わからないです」

「でしょうね……」


「えーと、出来るだけそのまま何も触らないようにして待っていてください」

「場所解るんですか?」


「私も小栗さんを調べていたチームの一人でしたから」

「あー……そうなんですね。それでは待っています」


「十五分程で到着できますので」


 電話を切ると俺は転移で、マンションの一階に出た。

 郵便受けを確かめると鍵はいつも通りの場所にあった。

 斎藤社長が来た時に、元通りに戻したのだろう。


 近所のコンビニに缶コーヒーを買いに行って暇を潰していると、約束通りの十五分後に東雲さんが現れた。


「遅くにすいません」

「いえ、構いませんよ。私を当てにしてくれたことを嬉しく思います」


「そう言えば一人で大丈夫なんですか?」

「いろいろな教育は受けてますので、大抵のことは対処できます」


「それって……スパイ映画みたいな感じのですか?」

「概ね間違っていませんが、あんな華やかな感じではないです。実際はもっと厳しくてきつくて、映画にしたら気分が悪くなるような感じですね」


「そ、そうなんですね。なんかスイマセン」


 俺はコンビニの袋から缶コーヒーを取り出して渡した。


「コーヒー、ブラックと甘いのどちらが良かったですか?」

「甘いのでお願いします」


 微糖の缶コーヒーを渡して、二人で一緒に部屋へ戻って行った。

 

「ドアノブは触りましたか?」

「いえ」


「一度入られたんですよね?」

「あっ……はい、でも触って無いのは本当です」


「まぁいいです」


 そう言った東雲さんは、薄いゴムの手袋をはめて、指紋検出用のシールのような物をドアノブとその周辺にペタペタ貼り付けていた。


「相手がプロだと、ほとんど無意味ですけど念のためです」


 部屋に入ると散らかった部屋を見て「いつもこんな感じですか?」

 と失礼な質問をしてきた。


「いや……もう少し片付いていますね」

「そうですか……無くなった物は何かありましたか?」


「俺のノートパソコンが一台だけですね。金目の物は部屋には置いていなかったですし」

「家電品などはそのままみたいですので、単純な空き巣ではなく、小栗さんの持つカージノ大陸関連の情報を手に入れようとしたんでしょうね」


「やはりそうですか……」

「パソコンの中に重要な機密はありましたか?」


「いえ、カージノ関連の事は親父と斎藤社長から届いたメールが少しくらいですね、返信はパソコンからでなくスマホからしてますので」

「返信をしたのなら、パソコンからだろうとスマホからだろうと、関係ありませんよ。今どきデータはクラウド上に残りますので、パソコンを持っていた人物が、暗号解析をすればパスワードなど、意味がありませんので」


「そ、そうなんですね……困ったな」

「何か言えないような秘密でもあったんですか?」


「い、いえ……ちょっと趣味的な、画像とか見られたら嫌だなと思って」

「……そうですか。一応ご忠告までに、未成年者とかが対象だと所持するだけでもアウトですからね?」


「ご忠告痛み入ります……一応、大丈夫なはずです。でも……出演者の本当の年齢とか知らないので……」

「その話題から離れましょう……」


 それから、三十分程部屋の中をチェックして回った東雲さんは、部屋に落ちていた毛髪やパソコンが置いてあったテーブル周辺の、指紋採取をした。


「一応、情報部の方で調べてもらいますが、この部屋に外国の方がきた事とかありませんか?」

「何故ですか?」


「いえ、染髪したのとは明らかに違うブロンドの髪の毛も、今採取した中にありましたので、容疑者から差し引くために事前情報が必要なので」


 やばいな、前に王女とかを転移させたときのだ。

 隠すと余計ややこしくなると思ったので、俺は正直に伝えた。


「すいません……カージノのポーラ王女と、側近の騎士が二名一度この部屋を転移で訪れています」

「ほぼ、こちらで予想していた事実と反する事は無いので、そんなに驚きません」


「そうなんですね……」

「明日以降は、日本国内でなんらかの事故に遭う事が無いように細心の注意を払って行動してくださいね? 諸外国が必ず日本に対しても難癖をつけてきますので」


「わかりました」

「恐らくこの部屋に侵入したの国外勢力である事は、間違いないでしょう。いずれ何らかの形で接触して来ると思いますので、必ずそういう場合は私をそばに置いて下さい」


「東雲さん……なんか発言が男前ですね」

「女性として扱って頂いた方が嬉しいですけど?」


「実際問題として、考えられるような危機は俺には恐らく通じないと思いますので、安心してください」

「それは……異世界転生物で良くある話のような能力アップをされてるって事ですよね?」


「そう思っていただいて結構です」


 そう返事をすると、東雲さんがいきなり俺に向かって手刀を放って来た。

 俺はその手首をがっちりと掴む。


「いきなりは、危ないですから……」

「テロリストやアサシンは常に死角から隙を伺って襲って来るものです」


「それもそうですね。気を付けます」


 その後で結局部屋を片付ける気にもならなかったので、俺はまたビジネスホテルで泊まる事にした。

 ベッドに潜り込み、今日の出来事を考える。


(一体どこの国なのかな?)


 カージノに敵対してこなければいいけど……何か国かは行動に移したりしそうだよな。

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