第45話 島長官のJLJ訪問
大崎さんと財前さんが退出して行った後で夢幻さんが俺に声を掛けてきた。
「小栗さん。私が想像していた以上に、大きな事業計画を持たれているのですね」
「でも、夢幻さんの手掛けられる事業の方が、将来的には安定的に利益を生み出すと思いますよ?」
「そうなればいいですけどね。私は、どちらかと言えば、お金儲けよりも。ケモミミの女の子たちを愛でて暮らせる環境づくりにこそ、私の生きる価値を見出していますので」
「さすが夢幻さん。ブレないですね……」
夢幻さんと俺の会話を聞きながら、ホタルはちょっとだけ引いていた。
「それでは私も少し、大井競馬場の運営の方とお話をさせていただくアポイントが取れましたので、出かけてきます」
「行ってらっしゃーい」
斎藤社長とホタルと俺の三人だけになって、少し、みんなの居る時にはできない部分の話をしておくことにした。
「小栗さん。先ほどの魔道具は凄いですね。あれは実際どうやって数を確保するのですか?」
「機関部分には、ミスリルが使用してあるのですが、俺は錬金術も極めていますので、銀に魔力を馴染ませながら錬金を行う事で精製が可能です。ミスリルさえ用意出来れば、現物を一台準備すれば、これも俺のスキルの魔導具作成でいくらでもコピーが可能なんですが、それは川越さんのほうで使用する送風の魔道具の形状を決定してからになりますね」
「ふむ……小栗さんはその能力があるとして、カージノ王国の錬金術師や魔道具師という方々は、同じレベルで製作は可能なのですか?」
「いえ、実際問題として魔道具を作るためには、その魔道具師が自身で使える能力の物しか作成できませんので、カージノのスキルの入手の仕方から考えても、色々作るというのは無理があります。作成したい魔道具をイメージして。それに合わせたスキルの取得をする感じですね。簡単ではありません」
「なるほど……それなら、最悪真似をしようとした人物が現れても恐るるに足らない! という認識で大丈夫ですね」
「はい」
「安心しました。でも、魔道具も機械であるならミスリルを入手できれば同じものは作れるのではないのですか?」
「形は同じものを作る事が出来ても、動作させるためには、魔法陣を刻まなければなりません。その魔法陣を刻み込む事が魔道具師が一番苦労する事なのです。同じものをただ書き写しても効果がありませんから、魔力を込めながら刻み込むのです」
「それは、小栗さんでも大変では無いのですか?」
「私は意味を理解した上で複製で作り出すので一瞬で出来ますね。知能レベルを、かなり底上げしてありますし」
「凄いですね。ビジネス面では何も問題は起きないでしょうね……」
「ビジネス面では? と言われますと、心配事があるんですか?」
「モンスターやダンジョンがこのままカージノ大陸だけに存在するのならいいのですが、他の陸地に影響を与えないかが、気になっています」
「そうですね……その辺りは起こってみないと解らないですよね」
斎藤社長と話していると、俺の島長官から預かっている方のスマホが着信を告げた。
『小栗君。今から伺っても大丈夫ですか。先日お話ししていた、こちらから派遣させていただきたい人物と、昨日の小栗君からの提案について、総理と相談した結果、決定した回答を伝えに伺いたいので』
『了解しました。私が出向くのではなく、長官がみえられるのですか?』
『はい、そちらの社長にも顔を合わせて置きたくてね。今は在社かな?』
『大丈夫です』
電話を切ると斎藤社長に伝えた。
「今から島長官がこちらに見えられるそうです。JLJに出向させる人間も連れてくるそうなので、社長と会いたいみたいでしたよ」
「そうなんですか? まぁ、そういう面倒ごとを引き受けるための社長業ですから構いませんが」
三十分程で、島長官の乗車した車が到着した。
警護のSPぽい人と女性が一人の三名で車から降りてきた。
「いらっしゃいませ長官。結構普通の車なんですね?」
「あー、それはですね、式典以外では一目で解るような車はかえって危険だという判断で、ぱっと見では通常の車とは見分けがつかないような車種を選んでるんです。これでも窓なんかは一応防弾使用になってるんですよ」
「そうなんですね。俺はまた『大臣座乗』な感じが一目で解るような旗とかついたような車だとばかり思ってました」
「そういう感じの車は公的な行事、例えばこの間、小栗さんを迎えに行ったではないですか。あれはそういう場合に該当するので黒塗りの式典用の車でした。後は、総理が乗られる車は、座乗中は青いLEDライトが点灯して、座乗を告知する決まりになってますね。まぁ総理の公用車は一台で走行することはあり得ないですけど」
「そうなんですね、勉強になりました。どうぞ中にお入りください」
あの女性の人がJLJに出向になる人なのかな? ずいぶん綺麗な女性の人だったけど……
島長官たちが室内に入られると、斎藤社長が入り口まで出向いて、握手をして応接セットに腰かけて貰った。
インテリアが揃う前から来客が多いと結構困るな……
ホタルがお茶を用意して早速要件に入る。
男性のSPぽい人はそのままSPの方だったみたいで、部屋の隅で立ったままだ。
落ち着かないよな……
「JLJの社長をしております斎藤です。よろしくお願いします」
「官房長官の島です。それと、こちらに連れてきている女性が、JLJで出向勤務をしていただく予定の
「失礼ですが島長官、政府が彼女をここに置く理由というものをはっきりとさせておきたいのですが」
「JLJというか小栗さんと、蘭さんのお二方は通常では政府の監視下に置かれるのが、妥当な状況です。これは、もし外国勢力に協力された場合日本の国益が明らかに犯されるという判断からです。そのために東雲を配属させて頂くのですが、彼女はこれまで内閣情報調査室に勤務してきました。主に外国勢力との接触という問題において内閣への報告を義務付ける以外は国に対しての責務は与えておりません」
「我が社の特殊な立ち位置からして、その申し出を断る訳にはいかなさそうですね。政府としては我が社の運営自体に関わろうということは無いという事で構いませんか?」
「その点も総理と相談した結果、JLJさんには大いに商売を成功して頂いて、しっかりと国庫に税金を納めていただくのがよい、という判断となりました。カージノ王国以外の第三国が関わる事案に関しては、必ず東雲を参加させて下されば、それ以外は求めません」
「了解いたしました」
斎藤社長との話を終えると、島長官が俺に対して声を掛けてきた。
「小栗さん。斎藤社長は小栗さんの実情はどの程度理解されていますか?」
「そうですね、秘密の部分は無いということで構いません」
「解りました。それではこのまま話を進めさせていただきます。東雲は立場上、小栗さんと蘭さんの件については理解しておりますので」
「そうなんですね……了解しました」
「まず、昨日の小栗さんからの提案ですが、お受けします。早速明日午前中に那覇に向かい、そこからC2輸送機で『ラン・フォー・ザ・ローゼス』に向かえるよう、横須賀の第七艦隊司令部とも既に折衝済みです」
「解りました。先方に連絡を入れて、調整を付けておきます」
「ただし、ですが、日本へ到着してから、米国大使との会見の時間も取らされる条件を出されました。構いませんか?」
「えーと……本当に大使様が話されるんですか?」
「実務的な話は、側近でついているはずのCIAの人間が行うはずです。小栗さんや蘭さんはくれぐれも、その方たちとは東雲の前以外では話をされないようお願いしますね」
「了解しました。米国以外はまだ今の所は何も言ってこないのですか?」
「情報を流していませんので」
「解りました」
「東雲は明日から出社という事で構いませんか?」
「あ、えーと……明後日からでは駄目ですか?」
「何か理由が?」
「いえ、この事務所見ていただければわかるともいますが。まだ事務所になって無いので、作業机も無く、このソファーで一日寛ぐだけになってしまいますから……」
「ああ……なるほど。了解しました。東雲さんは、明後日からでよろしくお願いします」
「はい」
「明後日には、什器備品が一式納入されますので、片付けからよろしくお願いします」
「解りました」
「そういえば、斎藤社長。社員は増やされないのですか?」
「もう必要な方は、そろってますのでJLJでの採用は、東雲さんが最後になりそうですね」
「どのような方を採用されたのですか?」
「国外の関係を心配されてるのですよね?」
「はい、当然そうなります」
「大丈夫だとは思いますが、そういう観点での調査はしていませんので……」
「一応、東雲が調査をすることになりますが、ご協力をお願いいたします」
「解りました」
島長官は、東雲さんをおいて戻って行かれた。
俺は明日の朝九時に長官が公用車で迎えに来るそうだ。
島長官が帰られると、東雲さんが改めて俺達に挨拶をしてきた。
「東雲あずさ二十六歳です。防衛省にキャリア入省後、特殊教育を受けて内閣調査室へと出向になりました。よろしくお願いします」
「内閣調査室ってCIAみたいな物なの?」
「そうですね、私は外国への機密漏洩に特化した教育を受けています」
「それじゃ、言語関係は得意?」
「ある程度は……」
「カージノ語は、かなり特殊だから一生懸命覚えて下さいね」
「あの……小栗さんや蘭さんは、普通に理解できるのでしょうか?」
「そうですね、ですが、俺達と一緒にカージノに渡った五名は、本当にまだ挨拶程度しか理解できてないので結構難しいと思いますよ? ちなみにその五名は、みなさん最低三か国語は理解できる方々ばかりです」
「そうなのですね……小栗さんと、蘭さんに関しては直接調査に関わっていたのが私でしたからある程度は事情を把握させて頂いております」
「そうなんですね。一応うちには後四人の社員がいますが、彼らには詳しい話はしていないので、その辺りの話は控えて下さいね」
「わかりました」
「先輩、東雲さんも凄い綺麗な人で良かったですね。最近の先輩はすっかり女性運がついてないですか?」
「ホタル……確かに綺麗な人が多いのは間違いないけど、誤解を招くような発言は止めてくれよ?」
「わかりましたー」
斎藤社長が俺に話かけてきた。
「そういえば小栗さん」
「なんでしょう? 一応法人の会社の設立も終わって、言われていたFXの法人取引口座も準備できますが、どういうところがいいとかの希望はあるんですか?」
「あー俺はよく解んないので、ホタルに聞いてください」
それから、ホタルは斎藤社長と何やら話していたので、俺は東雲さんと話していた。
「あの、小栗さん……転移、使えるんですよね? それも、カージノと日本をまたげるようなのを……」
「そうですね、使えます。ですがくれぐれも他の社員の方の前では当面内緒ですよ? 秘密にしたいわけでも無いんですが、知ってしまうと余計な気を使わなくちゃいけなくなるでしょ」
「わかりました。カージノ語を早く覚えたいので、よろしくお願いしますね?」
「それは、頑張ればどうにかなりますよ。因みにカージノ語を習うのにはホタルからでは無理ですから」
「何故でしょうか?」
「彼女はスキルで言語理解を覚えてしまったので、本人は日本語を話しているつもりでも、カージノを含む世界中の言語の読み書きが理解できるので、教えようがないんです」
「羨ましいですね。小栗さんはどうやって覚えたのでしょうか?」
「俺は、基本ステータスが高いので、理解出来るようになりました」
「それも羨ましいです。それなら小栗さんからなら学べるということですね? 時間のある時は一緒に居ていただけるようにお願いしますね」
美しい女性に出来るだけ一緒に居てくれと言われるとなんか勘違いしそうだよ……
社長とホタルの話も終わり、今日はこのまま解散となった。
「そう言えば東雲さんは何処に住まわれるんですか?」
「職務上近い方がいいので、小栗さんと一緒に暮らすのが理想なんですが?」
「先輩! モテ期の到来ですよ!」
「いやいや、俺の部屋はちょっと問題あり過ぎだろ。ていうか無理です」
「しょうがありませんね。この近辺のマンションを調べてきます」
そう言って出かけて行った東雲さんを見送った後は、斎藤社長も一度司法書士事務所に戻るという事なので、俺はホタルと食事に出かけることにした。
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