第44話 JLJのお仕事

「大崎さん。お揃いで見えられましたね」

「おお、小栗君。随分立派な場所を用意したんだな」


「斎藤社長にお願いして探していただきました。財前さんもお久しぶりです」

「私より先に大崎のジジイに話を持っていたのだけが納得いかないが、無事で何よりです」


「財前。お前にジジイと言われたくないぞ。くそジジイ」

「なんだと」


「ちょっお二人とも勘弁してください……」

「ああ、これは挨拶代わりのようなもんだ。別に本気で喧嘩はしないから安心しろ」


「ほんとに頼みますよ……こんな所ではあれですから、中へお入りください」


 一階の事務所へと案内すると、既に斎藤社長も出勤していた。

 それぞれが、斎藤社長と挨拶を交わす。


「大崎建設の会長をしておった、大崎賢吾おおさきけんごです」

「砂の国銀行の頭取をしていた、財前康友ざいぜんやすともです」

「アレク電機工業の営業部長をしています川越晃かわごえあきらです」


「JLJの社長を任せられました、斎藤達也さいとうたつやです。これから色々とご協力お願いすることになるかと思いますが、よろしくお願いします」

「斎藤社長。私らはこの会社で雇ってもらおうと思った老いぼれだから、もっと堂々とされていいですよ」


「大丈夫です。私なりに年長者に対しての敬意を払っているだけですので、社内の決定事項などでは、きちんとリーダーシップを取りたいと思っていますから。川越さんと私以外はお互い顔見知りの方ばかりだろうとは思いますが、一応わが社の現状でのスタッフを紹介させていただきます」


 斎藤社長に話をふられて、俺から順に挨拶をした。


「小栗東です」

「蘭蛍です」

「ラノベ作家をしている夢幻です。このたびJLJで勤務させて頂く事になりました。カージノの文化を地球の国々に紹介する為に、頑張りたいと思います」


「あと一人、これまで空間コーディネーターの仕事をしてこられていた、藤崎という女性がいますが、出社は三日後からになっています。この事務所を見て、お判りの通り、この社内はまだこの応接セット以外はほとんど何もない状態ですので、その辺りの什器備品の調達に取り組んでもらっています」


 自己紹介が済んだ所で、まず、ビジネスの話を先に進めることになる。

 

「アレク電機の川越部長は、技術的な相談をしてもある程度理解していらっしゃるのでしょうか?」

「ご心配でしょうが大丈夫です。我が社の営業責任者はみんな研究職から抜擢されていますので、基本的な事が理解できていない者は課長職以上ではおりません」


「それは心強いです。ではお尋ねします。家庭用の発電機のサイズで百アンペアの交流電力を作り出せる発電機は実現可能でしょうか」

「作れるのかと言われれば、作る事は可能です。ただし、エンジンの排気量が大きくなる為にとても作動音が大きくなる上に、高温になりやすいため、耐久性も著しく低下しますので、我が社の製品として販売できるレベルの物は無理です」


「解りました。音と熱と耐久性の三点が問題であって、理論的には可能ということですね?」

「その通りです」


 それだけを確認すると、俺は話を次の段階に移す。

 

「ここから先の話は守秘義務を伴う内容になりますが、進めても構いませんか?」


 ここにいるメンバーが全員頷き、司法書士でもある斎藤社長が手際よくパソコンから書類を出力して、全員にサインをもらう。


 俺は、魔道具の送風機を取り出して、みんなに庭に出て貰った。


「この機械はカージノで使用されている、送風機と言われる魔道具です。羽無しタイプの扇風機のような物だとお考え下さい。ただし大きく違うのはその性能です。この送風機一台で、五十人程度が乗船した船を時速四十キロメートルほどの速度で川を逆行させるほどの力が出ます。今から試しに駆動させます」


 俺は、送風機に少し強めの魔力を流すと風速五十メートルほどの風が一直線に噴出した。

 駆動音もまったくない。

 ただ風が吹き荒れる音のみだ。

 そのまま一分程駆動させて、魔道具を停止させると、送風機を触ってみる。

 熱もまったく持っていない。


「どうですか? この動力を発電機の作動に使えば音と熱の問題は解決できませんか?」

「た、確かに……凄いですね、これはどんな原理で動作してるのでしょうか?」


「簡単に言うと風の魔法です。カージノ王国でモンスターから取れる魔石に魔力を込めたものを使って、風を吹き出せる装置ですね。船ではジェット推進のように、これを直接水中に吹き出すことで推進装置に使っていました。地球の優れた文明であれば、これをジェットエンジンの替りに使用することも可能なのではないかと思いますが、とりあえずはこの装置を利用することで、先ほど私の申し上げたスペックの小型発電機を完成させたいと思っています。アレク電機さんは、我が社と一緒にその発電機を完成させるつもりはありますか?」


「一つ伺わせて下さい。その発電機はどのように利用されるのでしょうか?」

「カージノ大陸では、魔法文明が発達したせいで、電力は使っていない状況です。しかし、魔法というものは、カージノでも誰でも使えるわけではありません。そこで我が社はカージノに家電品を流通させようと考えました。しかし、発電所があるわけでも無く、勿論電気のインフラもありませんから、それなら手っ取り早く家電品を流通させるのであれば、一台で住居一件分の発電を十分に賄える、この発電機を庶民に手の出せる範囲の値段で流通させる方が、早いと思ったのです。インフラ工事も必要ないので、浸透はかなり早いはずですし、何よりも、大規模停電のリスクなどを負う事がありません」


「それは……もしその方式が有効な事が認められれば、既存の地球における、電力需要も、とって替られる可能性がありますね。我が社の大躍進のチャンスでもあるのではと考えます。この形式、魔導発電機の特許関係は半分我が社の保有にしていただけるのでしょうか?」


 俺はその辺りは自分で判断が出来なかったので、斎藤社長に委ねた。


「大崎さん、財前さんのお二方は、冷静にどう思われますか?」

「斎藤社長。我々を試しておるのか?」


「いえいえ、純粋にご意見を伺いたいだけです」

「リスクは分散すべきだ。JLJが単独で特許を所有しても、生産能力も有しておらぬ。だから、良い事ばかりではない。『餅は餅屋』の言葉通りにアレク電機と権利を分かち合えば、面倒は押し付ける事も出来る」


 財前さんが、俺に質問してくる。


「小栗君。早速、物凄い大きな商売を提案してきたが、カージノ大陸の人口はどの程度だ?」

「人族、亜人族を含め、一億は超えています。魔法ありきですが、電力を広めた場合、の使用者は九割を超えてくると思いますね」


「ふむ。勝ちは確定か……私と大崎のジジイは二人でまず日本、そこから世界の電力も、この方式に、スムーズに移行できるように、電力各社と政府の調整を図ろうじゃないか。この方式の発電機の製造会社はアレク電機で構わぬが、販売会社はJLJが基幹企業でアレクと電力各社で合弁の別会社を立ち上げさせよう。それで構わぬな? 合弁会社に関わる費用は、わしに任せろ。いくらでも調達してやる」


「大崎さん。財前さん。まだストックオプションなどの話が済んでおりませんので、先にその辺りをお話しさせて頂きたいと思いますが……」

「おお、そうじゃったの。斎藤社長、どの程度の規模にするつもりだ」


「当初は、資金を我が社のオーナーである、小栗東が一億円の出資を行い一株千円で一万株の発行とします。このうち二十パーセントをストックオプションに当てる予定です」

「一株千円で、我が社の設立時の社員となる、私、大崎さん、財前さん、夢幻さん、藤崎さん、蘭さんの六名で私が五百株、他の五名が等しく三百株の取得権利を有するという形でいかがでしょうか? 取得金額は額面の千円とさせていただきます」


「よかろう、早速上限で取得させて貰いたいので、手続きを頼むぞ」


「勿論今後発足する発電機を扱う会社では、もっと大きな規模で用意することになるでしょう」

「それは楽しみじゃな」


「それでは、アレク電機の川越部長には、この送風の魔道具をお預けしますので、早急に発電機の試作に入っていただけますか?」

「あの……無条件に私に預けられて大丈夫なのですか?」


「魔道具は、この世界の理では製作できませんので、ある程度は安心しています」

「そうですか……発電機の形状に合わせての、この魔道具の形の調整などは、可能だと考えていいのでしょうか?」


「そうですね、ある程度は可能ですが出来るだけシンプルに大きくならない事と、最低でも百アンペアの供給が可能なだけの出力を確保してくださいね。二百ボルトと百ボルトの両方が供給できるようにお願いします。事業用だと二百ボルトの設備の方が多くなるので」

「送風の魔道具の供給は、JLJさんから必要量の納品が可能なのでしょうか? あと、魔道具の納品価格の目安を教えてください」


「数は確保できますが、納品価格は当面一台二十万円程度だと思って下さい。この価格には一月分の使用量に当たる、魔力充填済みの魔石も含まれています」

「魔石への魔力の充填は、どの程度の金額になりますか?」


「そうですね……一月分百アンペアでフルに使用した場合で、百USドル以内に収まるように、調整をしましょう」

「随分割安ですね」


「新しいものを流行らせるためには、初期投資だと思っての価格設定です」

「了解しました」


 アレク電機の川越さんは、送風の魔道具を抱えて、帰って行った。

 商品の出来上がるのが楽しみだ。


 一応、日本政府が人を派遣したいと言ってることも、大崎さん達にも伝えておいた。


「それでは、わしと大崎のジジイは、魔導発電機の販売に特化した、新会社を立ち上げる準備に入るが、小栗君や斎藤社長は、わしらに他にやらせたい事や紹介して欲しい人物などいないか?」


 すると、ホタルが手を挙げた。


「カージノ国内での家電量販店を当初は、JLJの独占で営業したいと思っていますので、その辺りの販社の立ち上げに必要な人脈が欲しいですね」

「なるほどな。それも結構な需要がありそうだな。流通などは問題無いのかね」


「品物さえ揃えば、そこは問題無いと思っています。私は小栗先輩と、カージノと日本国の正式な国交樹立に向けての行動に入りますので、それぞれのお仕事を頑張ってくださいね」

「任せておきなさい」

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