第43話 ラノベ作家の発想って……

『大崎さん。明日の昼過ぎはご都合はいかがですか?』

『おお。小栗君か、大丈夫だ。今日、発電機メーカーの大手、アレク電機社の人間と話していたんだが、明日、一緒に連れて行っても構わないかね』


『はい、仕事が早いですね』

『おだてても何も出んぞ。それとな、小栗君と食事に行った事を話したら、財前の奴がなぜ自分を誘わなかったと、言いだしてな、財前も連れて行って構わぬか?』


『はい、大丈夫です。十三時に、こちらも斎藤社長と共にお待ちしていますね。あ、それとですね。夢幻さんも、うちで働く事になりました』

『ほう。そうか。彼も同僚ということだな。なかなか楽しそうだ。それでは明日の十三時に伺わせてもらおう』


『お待ちしてます』


「先輩、順調に話は進みそうですね」


「でも……一つ気がかりは残ってるんだよな」

「どんなですか?」


「ほら、島長官が言ってたじゃん。政府側の人間を混ぜて欲しいって」

「あー確かにそんな事言ってましたね」


「どんな人が来るんだろ?」

「税務署のマルサみたいな人とか?」


「それは、嫌だな」

「でも、公安系の方だとは思いますよ。一番心配されるのは日本以外の外国との関係でしょうから」


「なるほどな」

「藤崎さんは、この事務所と私と先輩のインテリアの納品が終わってから参加されるそうですが、夢幻さんは、明日の朝から出社されると言われてましたが何をしてもらいましょう? まさかトイレ掃除を頼む訳にもいかないでしょうし」


「あーそういう雑用的な仕事をしてくれる人は、別に雇った方がいいのかな?」

「それですね、国交が結ばれて以降ならフローラとフラワーを連れて来てもいいんじゃないですか?」


「まさか……奴隷としてか?」

「いえ、それは流石にまずいですから、奴隷契約は解除してからです」


「悪くはないけど……ケモナーが大挙して来たりしないかな」

「可能性はありますね……」


「でも、カージノの人間を連れてくるのは悪い案では無いな。シリウス陛下と話して、国外に連れ出しても問題の無い人を紹介して貰おう」

「ポーラ王女になったりしないですよね?」


「さすがにそれは……無いよな?」

「どうでしょうね?」


「もしポーラ王女なら、大使館のような場所になるだろうし、それは俺には面倒がみれない」

「でも……もしかして大使が、エスト伯爵になるという可能性は?」


「いやいやいや、それは時間的な自由が無さすぎになるから、ザックとアインくらいにして欲しいな」

「それじゃぁ会話が成り立たないから、今度は私の自由がなくなりそうです」


「そうだな……」

「話は戻りますが、夢幻さんに頼むとすれば何がいいですかね」


「あ、斎藤社長がJRAと地方競馬の例えで話してたじゃん」

「はい」


「その件を投げてみたらどうだろ? 馬券の話とかも出てたし実現すればいきなり大事業だぞ」

「凄そうですね。夢幻さんがどんな意見を出すのか楽しみです。でも……国交問題が先に片付いて無いと駄目じゃないですか?」


「それもそうだな……でも、準備をしておく程度はいいんじゃないかな?」

「ですね」


 ◇◆◇◆ 


 JLJの勤務時間は、コアタイムの十時から十五時の間だけは会社からの連絡が間違いなく付くようにして置けば、後は自由裁量勤務と決めて伝えたので、まぁ出社をしてもしなくてもいいという事だ。

 毎月、何の仕事に取り組んだのかと、それによって成し得た部分を報告して貰えばそれで構わないと決めた。


 だって、俺も自由にしたいしね……

 そもそも、それで何もできそうにない人は雇わないし……

 朝の九時過ぎに俺とホタルは一応事務所に到着した。


 九時半に夢幻さんがやって来たので、神殿のレースとそこであぶれた馬娘たちの話をしてみた。

 するといきなり凄い食いつきをみせた。


「そいつは素晴らしい、一つ確認ですが広大な面積の海岸線でJLJが使用させてもらえそうな敷地を確保できるあては、あるのでしょうか?」と、言い出した。


「そ、そうですね。海岸線の土地でしたら、結構自由に使用させていただける土地は確保できると思います」

「それでしたら私はすでに良いアイデアが浮かびましたよ。間違いなく成功します」


「どんなアイデアでしょうか?」

「まず、馬娘たちのクオリティですが、先日見せてもらった写真のようにかわいい女の子たちで間違いないのですね?」


「はい、それは、どの子も凄くかわいいと思います」

「それなら問題無いです。ビーチを水着で走り回るケモミミ美少女! 想像してみてください。失敗する要素なんて何一つありません」


「た、確かに……絶対人が集まりそうですね」

「馬娘限定じゃなくても、獣人の女の子達に限定したビーチバレーのような競技もきちんと体系づければ、失敗する要素なんて何一つ無いですよ」


「でも……ビーチで水着で獣人が前程なんですか?」

「はい! そこは譲れません。最初からそれがスタンダードに設定してしまえば、誰も違和感をもちませんって」


「確かにスポーツであれば、基礎体力の高い獣人というのは、間違いのない選択かもしれないですね……」

「そうでしょう! 私は早速、実現に向けての資料を調べます。日本の地方競馬のシステムなどを調査して、参考資料としますが構いませんか?」


「あ、はい。それではその件はよろしくお願いします」


 夢幻さんは、凄いハイテンションで仕事にとりかかった。

 その間に、昼から発電機メーカーの方が訪れるので、大体欲しいスペックなどを纏めておくことにする。


 でも……現物が無いとちょっと説明しにくいな。


「ホタル、ちょっと出かけてくるな」

「先輩、どちらへ行かれるんですか」


 俺は、ホタルの耳元で囁いた。


「カージノで、ちょっと魔石エンジンが入手できないか陛下に聞いてくる。昼過ぎには戻ってくるよ」

「解りました。いきなり耳元で囁くからびっくりしましたよ」


 俺は、一度自分の部屋へと戻るとそこからカージノの王宮へと転移した。

 

「あ、エスト伯爵! スイーツは持って来たんですの?」


 転移場所の城の中庭では王女が、ザックとアインを従えてティータイムを楽しんでいた。

 俺はホタルに言われて、こんな時のために、インベントリの中にある程度のスイーツを在庫しておいたので、適当に出して王女に渡した。


「素敵ですわ。早速いただきましょう」

「王女、陛下に謁見したいので先に連絡を付けて貰えますか?」


「まぁ、せっかちですわね。わかりました。念話で連絡をしておきますので、そのまま執務室に向かわれて大丈夫です」


 ザックだけを連れて、陛下の執務室へと向かう。


「陛下、魔石動力のエンジンを手に入れたいのですが、どうにかなりませんか?」

「ん? エンジンというとどんな物だ」


「あ、ああ、あの川を運行する船に取り付けてあったような。魔石で推進力を出す装置ですね」

「おお、あれの事か。あれはただの風魔法の送風機だぞ?」


「えっ……そうなんですか? 送風機であんな高出力が出せるなんて凄いですね」

「魔道具屋で十万ゴルほどで販売しておる」


「了解しました。お手間をとらせて申し訳ございません」

「エスト伯爵よ、どうだ? 国に戻ってみての反応は? 我が国の事をどういう風に言っておるのだ」


「そうですね……私の出身国の日本では、元々が平和主義的な国なので、敵対的な意見はまだほとんど耳に入っていません。最初に国交を行う国としても、適当なのではないかと思います」

「ふむ、しかし、自由に入国させるわけにもいかぬし、どうしたものかな」


「ザックとアインにでも使者として正式な日本への訪問でもさせて見るのはいかがでしょうか? 従者は出来れば人間以外の種族の者がよろしいかと」

「ふむ、誰を訪ねさせるのだ?」


「俺でいいでしょう。友人の小栗東をたずねるという建前で、俺は日本政府の人とも今回の件で繋がりは出来ていますので、総理官邸という場所での面会をするという事であれば、問題無いのではないでしょうか?」

「従者は、リュシオルは付けるとして、獣人は俺の奴隷でも構いませんし」


「ふむ、そこで何の話をするのだ?」

「ポーラ王女の外交を纏めるというのはどうですか? 話がまとまれば、次は正式に俺もエスト伯爵としてポーラ王女と共に、日本に出向き、そこで、主だった国の大使を招いた晩餐会でも行えば、各国の出方も見えると思いますが」


「よかろう、早急に話を纏めてきてもらおう」

「了解しました」


 王宮を出た俺は、街の魔道具屋へと行き、風魔法の魔道具、送風機を買い求めた。

 この魔道具は、初動時に流す魔力の量によって出力が決定して後は出力に応じて魔石からエネルギーを吸い上げて駆動するものだ。


 ゴブリンの魔石に風属性の魔力を充填した物でも扇風機程度の使い方なら一週間は、持つとの事だった。

 船に使うような出力だと、一時間程で魔石が空になるので、補充が大変という事だ。


 そもそもゴブリンの魔石は一個五百ゴルで売っているし、それに魔力を込めてもらって、満タンで二千ゴル程になるのだが、俺は自分で好きな属性をチャージできるし全く問題無い。


 送風機を手に入れた俺は、東京へと戻った。

 早速、先程陛下と話した件を島長官へと連絡する。


『世界に先駆けて、日本にカージノ王国の騎士が訪ねてくるという事ですね』

『はい、そうなんですが、日本へはどうやって連れて来ましょう? 現状アメリカ第七艦隊の空母が近海に停泊していますが、日本はカージノ近海には何も展開してないですよね?』


『そうだね、小栗君が転移で連れて来てしまうと、色々と問題が露呈しそうだし、間にアメリカを挟まないと自分の所を頭越しにされて、機嫌が悪くなってしまう可能性も高い。あくまでも友達の小栗東に会いに行くというスタンスで、来てもらわないといけないね』

『沖縄から自衛隊機で『ラン・フォー・ザ・ローゼス』まで直接着艦できりような機体はありますか?』


『確か、最新の輸送機であれば大丈夫な筈です』

『島長官は、日本から離れるのは難しいですか?』


『私は立場上、原則、総理が東京へいらっしゃる時以外は、東京都内から外に出る事が出来ないのですが、これから一週間以内の間は国会もありませんし、総理が東京都の外に出られる予定も伺っていませんので、出来ない事はありません』

『でしたら、一緒に『ラン・フォー・ザ・ローゼス』まで出かけませんか?』


『アメリカの空母ですか……それは調整が必要ですね』

『一番心配なのは、カージノの騎士なんですが、彼らと合流する際にアメリカから足止めをされる可能性が高いという問題ですから』


『当然そうでしょう。それを私がいる事で防げと言われるのですか?』

『そうです。駄目でしょうか?』


『その願いを聞き届けた場合に、日本にとっての利点は何でしょうか? アメリカからも良い顔をされる事ではないので、はっきりと日本にとっての利点を、提示して欲しいですね』

『世界に先駆けて、駐日大使を置く準備に入るというのはどうでしょう?』


『魅力的ですが、カージノを国として認めるという行為を世界の足並みを揃える事無く日本が独断で行うということにも繋がります。私の判断だけでは答えられないですね』

『そうですか、一応、三日以内くらいで返事を頂けないでしょうか? 無理なら無理で別の手段を考えますので』


『小栗さん。その別の手段の中に日本以外の外国の力を借りるという選択は無いでしょうね?』

『そうならなくて済む様に、考えてみます』


『くれぐれも、その点だけはお願いしますよ』

『はい』


 電話を終えて、自分の部屋から一階へと降りて行くと、丁度、大崎さんの一行が玄関前に到着したところだった。


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