第33話 王女様と日本へ②

 俺の転移魔法により、ホタル、ポーラ王女、ザック、アインの五人で俺の部屋へと転移した。

 

 カージノ王国では朝の九時頃であったが、日本では時差の問題で現在朝の六時半だ。


 最初に転移する部屋の中では、驚く事があっても声を出さないようにと伝えてあったので、興味深そうに部屋を眺めてはいるが静かにはしていてくれる。


「ホタル、間違っても今はテレビとかつけるなよ? 絶対大騒ぎになるから」

「解ってますって」


 王女達は俺の部屋に置いてあるものを物珍しそうに見てはいるが、とりあえず静かにはしてくれていた。

 

「ホタル、この世界を解ってもらうのは、どこに連れて行くのが良いかな?」

「そうですねぇ、化学文明の発展が解りやすい所が良いですね、スカイツリーと秋葉原とかどうですか?」


「スカイツリーはわかるけど、アキバは必要か?」

「ほら、なんか凄い異世界文明にも造詣が深そうじゃないですか? 興味を持つ物とかもあるんじゃないですか?」


「解った。ホタルに任そう。別に俺も替りの意見とか思い浮かばないしな」

「じゃぁ行きましょうか。時間差で出たほうがいいですよね? 私は女性三人で先に出ますから、先輩はザックさんと五分後くらいに出て下さい。地下鉄の駅で合流しましょう」


「地下鉄で行くのかよ? 大丈夫か??」

「文明を見るのが主な目的ですから、間違って無いと思いますよ」


 そう言ってポーラ王女とアインをともないホタルは出て行った。

 俺は待ち時間の間に斎藤先生に電話をしておくことにした。


「斎藤先生、おはようございます。朝早くにすいません」

「小栗さん、おはようございます。大丈夫ですよ毎朝六時には起きてジョギングに行ってますから」


「昨日はどうでしたか?」

「警察ですか? 私が部屋の鍵を開けて入ろうとすると、すぐに何処からか現れて、職務質問されましたよ。私が留守中の管理を任されていることなどを説明すると一応納得していましたし、その後は玄関前に待機していた車も居なくなってましたので、大丈夫じゃないですかね? あと小栗さんの車の事を聞かれましたが、よく解らなかったので、それも私が預かっているということで話をしておきましたが構いませんか?」


「助かります。今日は先生は予定とかどうなんですか?」

「私の予定ですか? 日曜日ですし、のんびりする予定ですよ」


「それは丁度良かった。会って話をしませんか?」

「えっ? まさか日本にいらっしゃるんですか? 一体どうやって?」


「その辺りも会ってからでお願いします。スカイツリーのそばのハンバーガーショップが早くから開いてますよね? 七時三十分ころには到着するので、そこで合流しませんか?」

「解りました。勿論、他言は無用ですよね?」


「それでお願いします」


 電話を切るとザックと一緒に部屋から出た。


「エスト伯爵。それは念話器のような物ですか?」

「そうだね、値段とか考えたら念話器よりは格安だから便利だよ」


「それは、カージノでも使えるのでしょうか?」

「充電とかが大変だけど、使える種類の物もある」


「充電とは魔石で動くのとは違う動力があるという事でしょうか?」

「そういう事だな。今日一日この世界を見て回ったら、色々聞きたい事が一杯見つかるはずだから質問は後でまとめて聞くよ」


「解りました」

「ホタルたちが待ってるから少し急ごう」


 俺とザックも家を出て、地下鉄の駅へと急いだ。

 しかし……そこに繰り広げられていた光景に、俺は少しホタルたちを先に出した事を後悔した。


「ホタル! あれはなんですの? なんで薄いガラスの中で人が動いたりしてるんですの? 馬もいないのに走る馬車のような物は何ですの? 何ですの? 何ですの?…………」

 

 しかも、その言葉は大きな声で、この地球上には今まで存在してなかった言語のカージノ語だけに目立ってしょうがない。

 それに……ポーラとアインは日本人基準から見るとまさにラノベから飛び出してきたような超絶美人だから、朝の七時だというのに既に人だかりができはじめていた。


「おい、ホタル何してんだ。ポーラ王女、騒がない約束でしたよね? 今すぐに連れて帰りますよ?」

「あ、エスト。ごめんなさい。もう騒がないから連れて帰るのは許して」


 幸いにも日本人は聞きなれない言語で会話をしている一団に積極的に話しかけてくる人は極少数派なので、人だかりは出来ていても話し掛けられたりはしていなかった。


 俺とホタルも金髪に青い目のコンタクトを入れてるし、少々顔の造詣が平べったくても、日本語を喋っていない限りは、外国人だと思って貰えてるようだ。


「先輩、ごめんなさい。ポーラ王女が車とかテレビモニターを見たら、完全に暴走してしまって、アインさんも街の規模に圧倒されちゃったみたいで、放心状態だったから、どうにもできなかったんです」

「ああ、指示を出した俺が悪かった。子供じゃないから大丈夫だと思っていたが、ポーラ王女は子供未満だと思って扱わなきゃならないな」


 五人が合流して、地下鉄のホームへ降りていくと、そこでもカージノの感覚で言えば恐ろしく長大な列車から凄い数の人間が乗り降りするのを見て、目が真ん丸になっていた。


 日曜の早朝だから、座れない程では無かったがそれでも、最後の方に乗ってきた人たちは吊革に掴まっている。


「ポーラ王女、こちらにいる間は、ザックとアインも含めて王女、とか伯爵を付けて呼ぶのは禁止で頼むな。言葉は解からないとは思うけど、念のために徹底してくれ」


(これは思ってた以上に面倒そうだな……)


 十五分程で地下鉄はスカイツリーの駅に到着し、俺達はとりあえず朝食を取るために、ハンバーガーショップへと向かった。


 ショップに入ると、既に斎藤先生は到着していて一人でテーブル席でコーヒーを飲んでいた。

 俺達の一団が前を通っても何のリアクションも見せない。

 ホタルも俺も知り合いなんだがそれでも、やはり気付かれないようじゃ、この変装は十分に効果はありそうだな。


 ホタルに注文を任せ、俺達は先にテーブル席へとつく。

 相変わらず三人組はキョロキョロ辺りを見回している。

 さすがに騒ぐと強制送還と伝えていたから声は出していない。


 俺はおもむろに、電話機を取り出して斎藤先生へと電話をかけた。

 すぐに電話を手に取り応答をする。


『先生おはようございます。私に気付かなかったようですね?』

『小栗さんどちらにいらっしゃるんですか?』


『すぐ隣ですよ?』


 そう伝えると、電話を持った俺に気付き少し驚いたような表情をして、


『ご一緒して構わないのでしょうか?』と、尋ねて来た。


 俺が大きく頷くと、テーブルを引っ付けて俺のすぐ横へと移動した。


「お久しぶりです先生」

「その見た目では気づくのは難しいですね。どう見ても欧米系のグループだと思いましたよ?」


 そう言い終わった頃にホタルも注文を終えて合流してきた。


「あれ? 斎藤先生。何故ここに?」

「蘭君。君も随分見た目が変わっちゃったんだね……」


「日本人の蘭蛍では色々都合の悪い事が多すぎますから……一応今は『リュシオル』と呼んでいただけますか? 先輩のこともエストでお願いします」

「どうやら、色々事情がありそうだね。エストさん、ご一緒している方々はどちら様? でしょうか」


「先生、面倒ごとに巻き込んでしまってすいません。当然のことですが俺や彼らの事は一切秘密でお願いしますね。一緒に居るのは新大陸であるカージノ王国の第一王女と護衛の騎士達です」


 俺がそう告げると、『ゴクリ』と生唾を飲み込む音が聞こえた。

 緊張した一瞬に思えたが次の瞬間、王女が空気をぶち壊した。


「きゃあぁ、何よこの食べ物! 滅茶苦茶美味しいじゃないですか」


 勿論、カージノ語だ。


「ポーラ! カージノ語で大声で話すんじゃない!」

「だって! こんなに美味しいものが存在するだなんて、この世界は信じられません」


 護衛の二人も、ハンバーガーを一口食べて炭酸飲料を飲み、びっくりしたような表情をしていた。


「どうですか? みんな、ハンバーガー美味しいでしょ? ポテトとナゲットもとても美味しいから食べてね」


「このシュワシュワの黒い水も凄く甘くて美味しいです」

「このハンバーガー? なる食べ物を父上にもお土産で持って帰りたいですわ。百個ほど買っていきましょう。私達も一個じゃ全然足りません。あと五つずつ追加してください」


「ちょっとポーラ! 朝からそんなに食べたら、動けなくなるしもっと美味しい物は沢山ありますから、今はそれだけで我慢しなさい!」


「ちょっとエストさん? で、よろしかったですか? 一体どういう事なんでしょうか」

「先生、騒がしくてすいません。現状ではカージノ王国は積極的にこの地球の国家と関りを持とうとはしていないのですが、こちらの世界のことを知らずに閉じこもっているだけだと、それも良くないとという判断から、王女が地球の文化、文明と言うものを確認しに来たのです。現状では色々な理由があって、地球の言葉とカージノ王国の言葉を両方理解できるのは私とホタルだけだという問題もありますが」


「それは……何とも凄い話ですね。そんな事実を日本や世界中の政府が知ってしまえば、お二人とも落ち着いてなんか暮らせませんよ?」


「エストー、後一個だけ駄目でしょうか?」


 王女が上目遣いで訴えかけてくる……


「リュシオル、ちょっとやかましいから後一個ずつ買って来てやってくれ」

「はーい」


「……それにしても、王女を連れて歩けるエストさんとリュシオルさんの立場とは一体?」

「ちょっと驚かれるかもしれませんが、私は現在カージノ王国で爵位を賜り、『エスト・ペティシャティ伯爵』と名乗っています。それとホタルは王国の言語学者としての地位を持っています。おっと『リュシオル』ですね」


「なんとまぁ、貴族様とはびっくりですね。それでその事実を私にだけ告げたということは、何か頼みがあるんでしょうか?」


 斎藤先生は本当に感が良いというか、話が早くて助かる。

 俺は早速頼みたいことを伝えた。

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