第32話 王女様と日本へ①

 翌朝早く、俺とホタルは王宮へと転移で移動した。

 中庭の誰も使わない場所を『転移用のスペースに使ってもよい』と許可されている。


 転移で到着するとすぐにザックとアインの兄妹が現れた。

 

「おはようございます、エスト伯爵。リュシオル様」

「おはよう、ザック。まだそんな恰好をしていたのか。早く昨日渡したジーンズとシャツに着替えてくれよ。武器なんかはマジックバッグに入れておくんだぞ? 今から行く日本の国で剣なんか持ってたら、問答無用で逮捕されるし、警察官……こっちで言う衛兵に逆らって怪我でもさせたら、凄く面倒な話になるからな?」


「でも、それではポーラ王女をどのように守ればよろしいのでしょうか?」

「心配しなくても、今から行く日本にはモンスターもいないし、普通にしていればいきなり強盗に襲われるような事も、滅多にあるもんじゃないから。それでも心配なら俺が結界魔法を張ってやるから、それだったら襲われても、怪我なんかしないから大丈夫だろ?」


「しかし、このような薄い布切れ一枚の服など、本当に大丈夫なのですか?」

「大丈夫だから早く着替えておいでって」


「解りました」


 それから五分程でそれぞれ着替えていたんだが、ザックはいいとして、アインの姿に驚いた……


「先輩! 目をつぶって下さい。開けたら目つぶししますよ」


 アインは、その豊満な肉体にぴっちり張り付くような女性もののTシャツを渡されていたのだが、なんと……ノーブラで胸の辺りにはっきりと突起物が突き出した状態で戻ってきていた。


「ああ、目つぶってるから、早くブラジャー着けさせてくれ」

「そう言いながら、薄目で脳に焼き付けてたりしてませんか?」


「焼き付けて無いから早く連れて行け」


 そして、ホタルに手を引かれたアインは再び五分くらいの時間をおいて戻ってきた。

 

「ホタル。最初からブラは渡してなかったのか?」

「いえ、渡していたんですけどなんか窮屈で動きにくいって言って、しなかったそうです」


「この国ってそんな部分こだわりは薄いのか?」

「基本鎧を身につけるから、鎧の下は蒸れにくいように目の粗いインナーだけだそうです」


「そうなんだ。まぁ鎧じゃさっきみたいに先っぽが透けたりしないだろうしな……」

「先輩。先っぽってなんかイヤらしいです」


「乳首とかビーチクって言ったらもっと駄目だろ?」

「それは問答無用で、ひっぱたきます」


「じゃぁなんて言えばいいんだよ」

「その話題に触れないでください。私がアインさんにはよく言っておきますので」


「解ったよ」


 (なんか理不尽な文句の言われ方だな……)


 アインさんが無事にTシャツの下で透けても目立ちにくいスポーツタイプのブラを装着して来たので、四人でポーラ王女を迎えに行った。


 王女は普段ドレスを着用するためのコルセットをした状態で、ワンピースを着ていたもんだから、凄い窮屈そうだった。


「ホタル、あんなの着けてたら苦しいだろう? 外すように言ってあげなよ?」

「一応言ってみますね。ウエストがメチャ細すぎて不自然ですよね……確かに」


 結局コルセットは外して貰って、普通にワンピースを着て貰ったけど、淡い水色のワンピースは王女にとてもよく似合っていた。

 でも……俺は一つ気付いた事を聞いてみた。


「ポーラ王女。そういえば今の王族はオグリーヌ……様の子孫なんですよね?」

「はい。その通りですが、それがなにか?」


「オグリーヌ様や、使徒の馬娘たちのように耳が頭の上に立って居たり、尻尾があったりしないのですか?」


 俺がストレートにそう聞くと、何故かホタルが俺の頭にチョップしてきた。


「先輩! デリカシー無さすぎです。そういうことは思ってても聞くもんじゃないんです」

「あ……なんかごめんなさいポーラ王女」


「気になりますか? 王家直系の血筋を引く者には特別な才能があるのです。王位継承権を満たすにはその才能を身に宿している事が条件となるのです」

「へー、その才能ってどんなのだ?」


「では、特別にお見せしましょう」


 そう言って自分の身体を抱きしめるようにしたポーラ王女が光りに包まれながら変身した。

 その姿は……オグリーヌと同じ半人半馬のケンタウロスの様な姿だった。


 だが……上半身は人間のままだから、ワンピースが大きく下からたくし上げらるような感じだったのはまだいいのだけど、その足元には馬の姿の下半身では身につける事ができないパンティが裂けて落ちていた……


「ちょっ王女……凄いですけど、それ日本では絶対に禁止ですよ。ホタルすぐ王女に元の姿に戻ってもらって、下着も新しいの渡してくれ」


 ホタルに手を引かれて着替えに行った王女が元の人間の姿で戻ってきた。

 獣人形態になると耳が使徒の子たちみたいにピョイと立ってるのだけは可愛いと思ったが下半身が普通に白馬って結構きついな……


「えーと……王女はその姿になれるって事は、能力も沢山使えたりするんですか?」

「いえ、この姿だと走るのが凄く早いだけで他は変わりません。魔法は生活魔法程度しか使えませんし」


「わかりました。なにかあっても基本俺が対処しますから、王女やザック達は身を守る事だけに集中してください」


 俺が王女達にそう声を掛けると、アインが俺に聞いて来た。


「エスト伯爵。確かにエスト伯爵は勇者としてのスキルを授かっているとは聞き及んでいますが……実際に戦う姿を見ていませんけど本当に強いんでしょうか?」

「あー、確かに俺は魔物との戦闘も満足にやった事は無いけど、強いとは思ってるぞ?」


「あの、お手合わせをしていただいても構いませんか?」

「まぁそれで安心するって言うならね」


 と返事をした時にはすでに、アインの姿はその場になかった。

 その次の瞬間、俺の右斜め後ろに向かって、蹴りを放つとアインが派手に吹っ飛んで行った。


「あ、ゴメンやり過ぎた」


 俺は慌ててアインの飛んで行った場所に行くと、アインの手の骨がぽっきりと折れていた。


「すぐ治すからな」


 そう言って、聖魔法の『ハイヒール』を発動して骨折を治療する。

 その時、今度は左手に持ったナイフが俺の首筋を狙って来た。


「無駄だ。俺には見えている」


 そう言って、ナイフが襲ってくる方向を、見ることも無く親指と人差し指でナイフの刃をつまんで、ポッキリとナイフの刃をへし折った。


「何故? 解るの」

「教えたら切り札じゃ無くなるから教えないよ。でもこれで満足かい? 言っとくけどホタルは戦闘能力ゼロだからな。俺にしたことと同じことしたら普通に死ぬから、絶対ダメだぞ?」


「あ、はい。わかりました」


 俺の戦う姿なんか見たことも無かったホタルも少しびっくりしてた。


「先輩! マジ強いんですね。少し惚れちゃったかもしれません」

「お、そうか? もっと褒めてもいいんだぞ」


「エスト伯爵。中々に強いな。安心したぞ」


 そう言って姿を現したのは、シリウス陛下だった。


「ポーラ、お前の婿はエスト伯爵で構わないか?」

「陛下、いきなり何言ってるんですか?」


「なに? うちの娘じゃ不満だとでもいうのか? 別にホタルは嫁でも婚約者でも無いのであろう?」

「確かにそうですが、だからと言って王女の気持ちも聞かずにいきなり、婿とかそんな話は、ありえないでしょう」


「何を言っておる。王家の正当な血を引くポーラが、この王家の始祖であるイースト様以来の勇者に嫁ぐことに不満などあるはずも無かろう?」

「はい、お父様。このお話、喜んで受け入れさせていただきます」


「ちょっ、ポーラ王女まで何言ってるんだ」


「先輩、モテモテですね。じゃぁ私はしょうがないから諦めましょう!」

「いやいや、ちょっと待てって。陛下、今はまだそんな話はしないでください。実際に私はこの地球の人間として、このカージノの国と地球が仲良く平和的に暮らしていけるのかが解りません。そして、もし、争いにでもなれば、どちらの味方をするのかも決めてはいません。俺が自分の目でしっかりと、この国と他国の出方を見極めたうえで、決めたいと思いますので」


「エスト伯爵。この国の爵位を授けんたんだから、そこはカージノ王国に協力して貰わないと困るな」

「自分なりに正しいと思える行動を選びたいと思います。今の所この国のことはとても気に入ってますよ? 奴隷制度がある事を除けば」


「まぁ、その辺りの話は、この地球の主要国と話をしてからになるな。こちらからは積極的にアプローチを掛ける事は無いから、何らかの手段をもちいて、余の所に連絡を付けてくる国が出てきたら、よろしく頼もう。その時はリュシオルに活躍して貰わねばな」

「お任せください陛下。ただ私も基本的にはどの国に対しても公平でありたいと思っていますので、翻訳は公平に行いますからお許しください」


「よい。エスト伯爵とリュシオルを敵にしてしまうと何かと不便が多そうだからな。早くポーラと結婚して真のカージノの国民になってもらわねばな。リュシオルもどうだザックはまだ独身だぞ?」

「あー……私は、一夫一婦制度じゃないと結婚はする気ないんで遠慮しておきます」


「ん? 地球では嫁は一人だけなのか?」

「いえ、ほとんどの国はそうですけど一部の国では多重婚が認められている国や地域もあります。ただ、私は生まれ育った文化の中で、複数の人と婚姻をすることに対して容認できませんので」


「ほう、そうであるか。文化の違いと言うものであろうな。この国では多くの子を成し、優れた才能の者に家を継がせたいと思うのが貴族家などでは当たり前の考えであるから、難しいのかもしれぬな」

「エスト伯爵もそういう考えなのか?」


「そうですね、複数の嫁を持ち同じように愛情を注いで行く事は難しいと思いますので……それに現時点では結婚は考えていませんでしたので。今はその話は置いておいて下さい。予定通りに私の出身国である日本へと向かいますので、帰って来てから王女やザック達が感じた、地球の文化というものを踏まえて、また話をしましょう。一応今日は夜の九時頃には戻ってくる予定です。向こうで夕食までは済ませてきますので」

「あい、わかった。くれぐれも事故の無いように頼むぞ」


「はい、それでは行ってまいります」


 いきなり王女を嫁に貰えとか言われて結構焦ったが、俺たちはようやく日本へ向けての転移を行った。

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