第31話 報道番組②

「この件に関しては別に秘匿しているわけでも無く、『ダービーキングダム』が地球に帰還した時には、まだ大陸も現れておらず、話しても誰も信用してくれなかったので、私達も積極的に話題にはしなかったのですが、モンスターに襲われたのと、そのモンスターと共に地球へ帰還したことに関しては事実です」


 建設会社の元会長である、大崎さんの発言にスタジオはどよめいていた。


「一緒に地球に戻って来たと仰いましたよね? そのモンスターは何処へ行ったのですか」

「『ダービーキングダム』にとりついたままで私達は、このまま海に引き込まれてしまうのだと、覚悟を決めた時でした。船の横にモンスターと変わらないサイズの巨大な鯨が現れて、モンスターはそちらを追いかけて行きました」


「では、この世界の海に、その巨大なタコの形をしたモンスターが潜んでいるという事なのですね……」

「そういうことになりますな。それは、私達の責任とはまさか言われないですよね?」


「いえ、その状況でよく助かる事ができましたね」

「まったくもってその通りです」


「それは何故? これまで大きな話題にならなかったのでしょう?」

「私達が異世界に行ったと言っても、異世界人を見たわけでも無く、偵察ヘリの上空からの報告を聞いただけですし、モンスターにしても私達が言っているだけで、地球の誰も見かけてもない事ですから、真実味が無かったのでしょうね」


 話題は、続いて人工衛星からの新大陸の衛星写真をクローズアップされたものが用意された。


「この写真から読み取れる、新大陸というのはどのようなものなのでしょうか? 地政学者の大隈先生にお願いいたします」

「はい。この写真から見て取れる街の規模から考えて、大陸中央部分に最大の街が存在しています。大体この規模の大陸の中央部分というのは、砂漠化してしまう場合が多いので、このように最も大きな街が大陸中央に存在するのは、非常に興味深い所ですね。それに対して大陸の沿岸部分を見て下さい。地球の国々にあるような海辺の都市が一切存在しない事が特筆されます。半島や湾と呼べるような部分もありません。海岸線は卵型のこの大陸を、ぐるっと一周砂浜が続いています。大陸一周で二万キロメートルは海岸線があると計算できますので、極めて不自然ですね」


「果たしてこの大陸は複数国家が存在するのか、それとも単一国家なのかと言う点ではどうでしょうか?」

「それは、ほぼ間違いなく単一国家ですね。中央の首都と思われる街から放射線状に街は点在し、海に近づくほど街の規模も小さく、街と街の距離が離れていっています。これは文字面通りの中央集権国家であると見て間違いは無いでしょう」


「なるほど、では予想される文明レベルはいかがでしょうか?」

「はい、それは、ほぼ中世ヨーロッパのような文明水準なのではないでしょうか? 石造りの建物が多く、木造の物も見受ける事ができますが、高層建築物のような建物は無く、電柱のような物も確認できません。よって文明レベルは地球よりもかなり遅れているのではないでしょうか?」


「では、他の皆様に今の大隈先生の見解を聞いた上で、質問などございましたらよろしくお願いします」


 MCのアナウンサーの呼びかけに、真っ先に手を挙げたのは、ラノベ作家の『夢幻』さんだった。

 ラノベ作家ってもっとオタクっぽい人を想像してたけど(偏見)夢幻さんは普通に今どきの、仕事の出来そうなビジネスマンのような容貌だった。

 高級そうなスーツ姿で、顔もイケメンだし意外な感じだな。


「先輩、私この人の小説結構読んでますよ。異世界転移物が多いんですけど、設定が結構きちんと練りこまれていて、読みごたえがあるんですよね」

「俺も何作品かは読んだことあるけど、書籍化決まったら取り下げる人だから、最近のはほとんど手つかずだな」


「先輩、そこは買ってあげてくださいよ」

「ほら、買ってまで読まなくてもどんどん新しい作家さんが出てくるし、そういうのを発掘する楽しみも、ネット小説の世界にはあるだろ?」


「まぁ、それもありかも知れないですけど……どんな質問するんでしょうね?」


 ホタルが興味深そうにテレビに見入った。


「ラノベ作家の夢幻です。私が知りたいのは三つです。この新大陸には海に現れた以外のモンスター達が生息しているのか? 人間以外の知的生物例えば獣人やエルフなどは存在するのか? そして……魔法やスキルのような物は実在するのか? です。異世界転移が現実にあるなら、それらの可能性もあるのではないでしょうか?」


 夢幻さんの発言にスタジオは大いに賑わったが、この時点で答えを知る人物はいないので……


「さすがに夢のある話題ですね。もし、夢幻さんが今おっしゃられたことが、事実として存在したならば、どうしたいと思われますか?」


 と、MCのアナウンサーに聞き返された。

 それに対して夢幻さんは言い切った。


「行くに決まってるでしょ!」

「これは、なんとも思い切った発言ですね夢幻さん。実際問題として国交のない外国への渡航は、公式には行えないので、そうとうに難関ではあると思いますが、夢のある発言ですね。今後の新大陸の情報を楽しみにしたいと思います。現在、元サッカー選手ドイツのカール・シュナイダー選手と、『ダービーキングダム』の一等航海士であった、ダニエル・オバマさんの二名と今、出演を交渉中ですので彼らの発言をいただければ、一気に新大陸の実情も解って来る事でしょう。そして小栗東さん、蘭蛍さんの日本人二名を含めた五名もの上陸者が、帰国を望まなかった事実は、それだけ魅力的な大陸であったという事なのでしょうか? いずれにしても続報が待たれます」


 その後は地形問題の掘り下げなどに入って行ったので、俺はホタルと二人で会話を始めた。


「なぁホタル。どっちにしても俺達が日本に戻って来たらきたで、とても面倒そうだと思わないか?」

「ですよねぇ。でも一応日本にいることにしておかないと、買い物するのも見つかっただけで捕まっちゃいそうですし、法律的には国内にいることにした方がいいですって。カージノ大陸に居るのは、あくまでもエスト伯爵とリュシオルです!」


 その時だった。

 玄関のチャイムが押された。


「なっ? バレたか?」

「もしかしたら、定期的に電気のメーターの回転とか確かめに来てるのかもしれないですね? 今テレビとエアコンつけてたから、メーター見られれば部屋に誰かいるのは解りますから……」


 何度か鳴らされた後に扉を『ドンドン』と強めのノックをされ、声が聞こえた。


「小栗さーん。いらっしゃるなら少しお話を伺いたいんですが? 警察庁の者です」


(まったく……なんとも困った訪問だな。同じ階の人間に気付かれたら、戻って来てもここに住み続けるのが困難になるじゃないかよ)


「ホタル。ビールとお菓子片付けて、このままギャンブリーの街に戻るぞ」

「了解です。テレビとエアコンどうします?」


「電気代掛かると嫌だから、消そう」

「はーい」


 俺のインベントリに滞在した形跡は仕舞い込んで、ギャンブリーの街へと戻った。

 果たしてこの後、鍵を開けて強行突入とかするのかな? もし、そうなら今後、日本との付き合い方は距離を置く事になるな。


「司法書士の斎藤先生って融通利く人かな?」

「一応、競馬研究会の先輩だってことで私も面識があって小栗先輩に紹介したので、ある程度は融通の利く人だと思いますよ?」


「競馬好きなのか……財産、任せるの危険だな……」

「その辺りはきちんとしてるでしょ? もう十年以上もこの仕事続けてる人ですから」


「ホタル、ちょっと斎藤先生に電話してみてくれ」

「はい。出られたら先輩に替わって貰って良いんですか?」


「ああ」


 斎藤先生は、イリジウム電話からの見慣れない番号の着信にもちゃんと出てくれた。


『お久しぶりです。小栗東です』

『あー! 小栗さん。ご無事だったんですね。今どちらですか?』


『ご存じの通り、新大陸に居ます』

『それでは、この電話は? よく通じますね』


『ほら、自衛隊の災害救助の人とかが使う、イリジウム電話機というやつです。こちらのメンバーがアメリカの海軍から都合をつけてこられたので』

『そうなんですね。色々伺いたい事は山ほどありますが、小栗さんが私に連絡を付けて来られたということは、用事があるのでしょう? どんなご用件ですか?』


『話が早くて助かります。先生にうちの自宅をちょっと見て来て欲しいんですが、いいでしょうか?』

『鍵はどうしましょう?』


『郵便受けの中に入っています。別に鍵もかけていないので開ければ取り出せますから』

『なんとも、不用心ですね。億万長者の行動とも思えない』


『別に部屋の中には現金や、高価な物は何もないですから』

『それで部屋に行ってどうすればいいのですか?』


『おそらく警察の公安とか警備局とかの人が見張ってると思うので、先生が留守を任されて、時々、俺の部屋を訪れてるっていう感じで話してもらえませんか?』

『別に構いませんが、どうやって部屋の状況を知られたんですか?』


『その辺りは、今度顔を合わせた時にでもゆっくりお話ししますよ。蘭蛍も元気にしていますので、ご安心ください』

『そうですか。無事で何よりです。早い方がいいですね。今からすぐに伺いましょう』


 斎藤先生への連絡を入れるとアンドレ隊長が、声を掛けてきた。


「アズマ。警察関係が動いてるのか?」

「そうですね。まぁ俺が自分の車とかを移動させてるんで、怪しまれてるみたいです」


「どうするんだ?」

「アズマとエスト伯爵は別人って事にして、日本に帰国しようと思います」


「なるほどな。転移が出来るならその方が色々と誤魔化しやすそうだな」

「はい。帰国したい旨を米軍に頼んで貰えますか?」


「解った伝えておこう。米軍だから、頼んだらすぐに日本へ行けるとも限らないが、いいのか?」

「それは、少しの間はしょうがないですね。日本政府はここまで迎えには来てくれないでしょうし」


「そうだろうな……」


 俺が、アンドレ隊長と話してたら、フローラとフラワーの二人が慌てたように聞いて来た。


「あの……ご主人様? 私達をおいてここから出て行かれるのですか?」

「あー、気にしなくていい。日本人の小栗東が出て行くだけで、エスト・ペティシャティ伯爵がこのままここで過ごすから。フローラたちは今まで通りだ」


 そう返事をしてやると、嬉しそうな表情をしたので聞いてみた。


「フローラとフラワーは俺が帰国したら、奴隷から解放してやるんだし、その方がいいんじゃないのか?」

「ご主人様たちは、私たちを全然奴隷として扱われないではないですか? 普通の屋敷奉公をしていたとしても、こんないい条件の奉公先なんかないので、出来ればずっとここに居させて欲しいのです」


「へー、そんな風に言ってもらえると嬉しいな。でもずっとはダメだぞ。ちゃんと自立して奴隷なんかじゃ無く幸せに暮らしていけるようになってほしいからな。やりたい事が見つかったら俺に教えてくれ。手伝えるかもしれないからな」

「「ご主人様ぁー」」


 フラワーとフローラの二人がなんか涙ぐんでいた。

 その様子を見てたホタルが声を掛ける。


「先輩。そういうところは、なんか男前ですね。でも勘違いさせて結局責任取る事になるかも知れませんよ? そう言えば知ってますか先輩。この国は重婚全然OKだそうですよ?」

「おい……俺はそんなつもりはないからな。それより明日は朝から王女連れて日本へ行くんだから今日は早く寝るぞ」


「はーい」

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