第30話 報道番組

 俺とホタルはショッピングセンターから直接ギャンブリーの街の屋敷へと転移で戻ってきた。

 既に、アンドレ隊長とミッシェルも戻ってきている。


「アズマ、ホタル、これを一台ずつ持っておけ」


 そう言って渡して来たのは、隊長が米軍に用意して貰った、イリジウム電話機だった。


「通話を傍受されたりしないんですか?」

「まったく無いとは言い切れないから、大事な話はあまりしない方がいいかもな」


「俺達のことは、どう伝えたんですか?」

「アダム、アズマ、ホタルの三名も無事に暮らしていると伝えている。能力関係の話などは、ダニエルとカールも口外しないように伝えてある」


「それは助かりますね。そう言えば俺、この国の貴族になりました」

「おい……また唐突な話だな」


「一応ですね、俺達、小栗東と蘭蛍ではなく、『エスト・ペティシャティ』伯爵と、王国の言語学者リングイストのリュシオルとして、昨日連れて来ていた王女と、地球を見て回ろうという話になっています」


「ここに居る時は、アズマでいいんだよな? 伯爵様って呼ばせるか?」

「この屋敷の中では、日本人の小栗東でお願いします。一応、領地も賜ったんですが、どう使うのが良いかアンドレ隊長たちも一緒に考えて貰えますか?」


「なんか凄い話になってるな。領地ってどこなんだ?」

「潮の満ち引きが地球と同じになったので今まで水没する土地という事で、手付かずだった海岸線の土地を貰いました」

「どれくらいの広さだ?」


 俺はシリウス陛下から聞いた内容を、ここに残っているメンバーに説明した。


「アズマ、凄いな。地球の各国とどういう風に接していくかで、色々と状況は変わるが、千六百キロメートルの海岸線がアズマの土地だというのはものすごいアドバンテージだ」

「隊長、実際どうなんですか? 隊長はどこかの国と深いかかわりがあったりしますか?」


「いや、俺や『パーフェクトディフェンダーズ』社は英国が本拠地ではあるが、政治的にはどこにも加担したりしていない。会社の幹部たちも世界各国の退役将校を中心に雇い入れているが、政治的な考え方の強い者は排除してあるので、ビジネスライクな付き合いができるはずだ」

「俺として、はっきりしておきたいのは、隊長はあくまでもアンドレ・スチュワート個人ではなく、『パーフェクトディフェンダーズ』のアンドレ隊長の立場という事なんですね」


「そうだな。その立場がきっと、この大陸と世界が関わって行く上で重要だと思う」

「解りました」


「どうされるんですか?」

「俺やアダムは何も変わらないさ。言ってた通りにハンターとハンバーガーショップを続けるよ」


「アダムさん。そのうち領地を少し整えますから、その時は地球食レストランを開いて貰えますか?」

「おう、任せろ。アズマが伯爵様になったって言うなら、出店費用とかは考えなくても構わないんだろ?」


「そうですね。街づくりに関しての専門家を、日本から招きたい所です」

「時間が掛かりそうだな。もっと手早く形にできる手段は無いのか?」


「あるとは思いますが、少し考えてみます」


 その後は、隊長に用意して貰ったイリジウム電話で、俺とホタルはそれぞれの親に連絡を取っておいた。


「ホタル、お母さんへは連絡はすんだのか?」

「はい。なんだか、警察庁の警備局とかいうところから人が訪ねて来て、もし私から連絡が入ったりしたら、必ず教えてくれと言われたらしいですよ?」


「あれ? うちの親父はそれは言ってなかったな。ホタルは実家はどこだっけ?」

「神奈川の横須賀です」


「東京に近いから、すぐにきたのかな? うちの実家は鳥取の砂丘のそばだからな」

「そう言えば、日本の砂浜はほとんどなくなったんですよね? 鳥取砂丘はどうなんですか?」


「どうだろうな? 結構高低差があった気がするから半分は残ってるんじゃないかな?」

「だとしたら、これからの日本では凄い大事な場所にならないですか?」


「でも、結構みんな勘違いしてるけど、鳥取砂丘って公証は東西十六キロメートル、南北二.四キロメートルって事になってるけど、砂丘らしさが残っていたのは、二キロメート弱くらいの区間なんだぞ? 植林とかしてほとんど面影はないんだ」

「そうなんですか? 砂丘って言うからサハラ砂漠みたいに広い所を想像してましたよ」


「サハラ砂漠は大袈裟すぎだけど、みんな見たらガッカリする観光地である事は否定できないな」

「それなら、先輩の土地っていうか領地は、凄く価値がないですか? 地球でほとんど失われた、砂浜がずっと続いてるなんて」


「まぁそうかも知れないが、他の国との付き合い方は大事だな。シリウス陛下に他の海岸線部分を、安易に領地として払い下げたりしないように進言しないと、カージノの貴族たちの間でも争いが起こる可能性が高いな」

「先輩に海岸線全部くれたりしないですかね?」


「それは、絶対面倒が舞い込むだけになるだろうから、遠慮しておきたいな。そう言えば今日の十八時から報道特別番組やるってラジオで言ってたよな。ちょっと視たくないか?」

「視たいですね。私達の名前も、もう出てたし顔写真とか出るんでしょうか?」


「なんか、犯罪者みたいな扱いだな。俺の部屋に直接転移して部屋の灯を付けたりしなければ大丈夫だろうし、テレビ視に行くか」

「ポテチとコーラは必須ですよ?」


「近所のコンビニで買おう。カラコン入れれば、もう髪の色も違うし簡単にはバレないだろ?」


 東京の自宅へ戻る前に一度、王都へと転移をしシリウス陛下とポーラ王女に明日の朝に出立することを伝えると、王女のテンションが上がっていた。


「エスト伯爵。地球には美味しい食べ物は沢山あるのですよね?」

「ああ。それは間違いない。陛下にも美味しいものを、お土産に買ってきますね」


「楽しみにしておるぞ」


 朝、迎えに来る事を約束して、ホタルと二人で東京の俺の部屋へと転移をする。

 部屋の灯を付けてしまうと、外部からの監視があった場合に都合が悪いので、部屋の中でテレビだけを点けて……


「先輩、薄暗い部屋で二人きりだからって、無理やりはダメですよ?」

「その気があるならとっくに襲ってるよ。きっとホタルとそんな関係にはならないと思うぞ」


「なんか……はっきりと拒絶されると嫌ですね……絶対にダメとかじゃなくて、ちゃんと手順を踏んでからっていうことですから!」

「今はこのままの関係の方が俺も気楽だから別にいいさ」


「コンビニは一人で大丈夫か? マンションに見張りが付いているとしたら、いくら変装していても俺が外に出ると怪しまれそうだし」

「ですね、私一人で行ってきます。何が良いですか?」


「ビールと柿ピーかな」

「解りました」


 ホタルがコンビニに行っている間に、俺は部屋のパソコンでメールのチェックを始めた。


 メールボックスの中には、あり得ない数のメールが届いていたが、その中で気になるメールだけを開く。

 まずは、俺の不動産関係のことを面倒見てくれていた、司法書士の斎藤先生だ。


『小栗様。大変な事態に巻き込まれているようですが、無事である事を願うばかりです。もし、このメールを読んでいただけたなら、今後のことを相談させて頂きたいと思いますので、連絡をお待ちしております。仮に連絡がつかない場合は失踪届を提出し、小栗様より伺っていたご両親へ資産の移動の手続きを始めさせていただきますので、本日より一月以内の連絡をお願いいたします』


 ん? このメールの日付って、あ、もう一月以上前じゃん。

 完全に俺って失踪者なんだな。


 ちょっと、急ぎで連絡を入れなきゃならないか……

 だが、斎藤先生との付き合いは別に長いわけでは無いから、秘密が守れる人なのかどうかが判断つかないな。


 そう考えていたら、ホタルがコンビニから戻ってきた。


「先輩。回りに注意を払いながら出かけて来たんですけど、やはり見張りは付いているようですね。マンションの前に怪しい車がとまっていて、さりげなく玄関を見張っています。恐らく先輩の車が消えてたりするから、その辺りで、怪しまれてるんじゃないですか?」

「そうかもな。テレビ中継を見ながら、なんか対策を考えよう」


 十八時を迎えて特別報道番組が始まった。

 タイトルは『新大陸出現と海水面の上昇、地球はどうなる?』だった。


 なんともベタなタイトルだが、解りやすいっちゃ解りやすいな。

 

 総合司会の報道アナウンサーが、コメンテーターとゲストの方々を紹介するが、何故かゲストに異世界物を中心に執筆するラノベ作家の人まで呼ばれていた。


 そして見覚えのある人も……


「ホタル、あの、ひな壇の端っこに座っている人見覚えないか?」

「えー? いえ私は知りません」


「あーそう言えばホタルはほとんど日本人の乗客と話してなかったな。俺は逆にあの時点だと日本語しか喋れなかったから、日本人としか話せなかったんだ。その時に少し話して名刺交換をした、確か建設大手の元会長だったかな。他にも銀行の元頭取だったって言う爺ちゃんと、流通系の元社長の爺ちゃんも呼ばれてるぞ」

「先輩、よくそんな偉い人達と話せましたね?」


「あの船に乗っている時点で俺もセレブと思われてたからな。日本に戻ったら俺が個人で不動産もってるのは経費面とかで無駄が多いから、会社組織にしなさいとか、アドバイスしてくれたぞ」

「そうなんですね。後で連絡入れましょうか? そんな繋がりは大事にした方がいいと思いますよ」


「ホタルは、俺達が無事にいることを明らかにした方がいいと思っているのか?」

「それなんですけど、エスト伯爵とアズマ先輩。私とリュシオルは別人としてそれぞれ、日本とカージノに存在している方がいいんじゃないかと思ったんです。どうせ先輩の転移で自由に行き来できるんだし、私達は公的には日本に帰国してたほうが、動きやすいと思いませんか?」


「なるほどな。一理あるかも」


 番組では衛星写真で大陸出現前と、出現後の世界を撮影した写真を並べて、学者さん達が解説を始めるところから始まった。


 俺も、カージノ大陸の全体図など見たことなかったので、その広さに少しびっくりした。


 南北に長く東西は若干短く、海岸線はつるっとした感じの楕円形だ。

 卵型と表現するのが一番しっくりくるかな。半島なども存在していないので港湾を作るには少し不便かもしれない。


 それに対して、既存の地球の大陸や島は大陸出現前と比べて、一回り小さくなった感じがする。


 太平洋の環礁地帯や、北ヨーロッパの方では、かなりの陸地が喪失しており、国力の低下が懸念されたりしていた。


 総合司会のアナウンサーが、『ダービーキングダム』の乗客の三人に対して質問をした。


「この大陸には普通に人が住んでいるのですか?」

「私達も自分の目で見たわけでは無いのですが、偵察に行った船の遊覧ヘリのパイロットからの情報では、海岸から五十キロメートルほどの内陸部分に街が発見されたと報告を聞きました」


「それは、『ダービーキングダム』の乗員、乗客の間ではみんなが共有されているという事でしょうか?」

「そうですね。船長が大変公平な方でしたので、重要な情報は乗客にも隠すことなく知らせてくれていたと思います」


「それでは、もう一つお伺いしますが、正式な発表があった訳ではありませんが、異世界から戻って来られる際に『ダービーキングダム』にモンスターが襲い掛かって来たという情報を伺いましたが真実なのでしょうか?」


 結構序盤から大きな話題をぶち込んできたよな……

 どうなるんだ? 俺はホタルと二人でビールを飲みながら画面に集中した。

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