第14話 宿屋

 俺達は、ホタルの通訳で無事にギャンブリーの街へと入る事が出来た。

 仮入街証を手に入れると、まっすぐに冒険者ギルドへと向かう。


 ホタル以外この国の言葉も文字も解らないので、登録もホタルに任せた。


 お告げカードと、仮入街証を提出して登録を済ませた。

 冒険者ギルドは、お告げカードのランクがそのまま冒険者ランクになるという事だった。


「無事に皆さんの登録も完了しましたね。とりあえずは逗留する宿を決めましょう」

「それこそ、ギルドの受付の人に聞けば宿は紹介して貰えないかな?」


「そうですね、ちょっと聞いてみます」


 ホタルが聞きに行ってる間に俺達は、物珍しそうにギルドの中を眺めていた。

 ギルドの中に居るハンターの人達の姿を見て、改めてここは地球じゃ無いという事がよくわかった。


 なぜって?


 普通の人の割合が、半分ほどしかいなかったからだ。

 残りの半分はファンタジーな感じの獣人や、耳の尖っているのは恐らくエルフだろうし、背が低くて筋肉質でひげもじゃの人はドワーフで間違いないだろう。

 剣や槍や弓などを持ち、鎧を身につけてる人が多い。


 確かにこの様子なら、俺達が武器を持っていてもそんなに違和感はないのかもしれない。


 俺はこの中ではホタルの他に唯一日本語を理解するアンドレ隊長に声を掛けた。


「アンドレ隊長は今後どうしようと思われてるんですか?」

「そうだな、実際『ダービーキングダム』と連絡もつかない状況では、無理に七人が一緒に行動しなければならないなどと言うつもりも無いが、言葉の問題がある以上、ホタルとアズマには負担は掛かるが協力はして欲しい。俺とミッシェルに関してはモンスター討伐であれば、やって行けそうだからな」


「そうですね、言葉の問題はは重要ですよね」

「今ここにいるメンバーは、アズマ以外はみんな最低でも三か国語以上の言語を理解するものばかりだから、言語習得のこつのようなものはみんな解っていると思う。『ダービーキングダム』の確認を行える約一か月後までは基本一緒に行動するとして、その後は個人の自由に任せようと思う。カジノコインを換金すれば、七人で一年間くらいは余裕をもって暮らせるしな」


 そんな話をしているとホタルがおすすめの宿を聞いて来てくれたので、全員で宿に移動した。


 ホタルが全員に説明を行う。


「えーとですね、紹介して貰った宿屋はこの街では中流の宿で、庶民にしては少し高めの所です。一人一泊二食付きの個室で一万二千ゴル程です」


 そう伝えるとアンドレ隊長が返事をした。


「個室でとれたのはよかった。プライバシーが守られて無いと精神的な負担は高くなるからな」


 チェックインを済ませてから、一度アンドレ隊長の部屋に集まった。

 結構余裕のある部屋で、七人が座れるほどのリビングもあった。

 この部屋で一万二千ゴルなら、逆に安いくらいだと思った。

 主な利用者は旅の商人などで、商談も行えるような造りになっているそうだ。


「一応長期逗留する場合は割引とかもあるそうですから、それはまだ焦って決めなくてもいいかもしれませんね」

「そうだな。だが、一応『ダービーキングダム』の確認をするまでは、この街から離れない方がいいだろうな。一応毎朝朝食は一緒に取る事にして、その時にお互いの情報交換に当てよう。それ以外は一か月間は自由行動だ。ダニエルの所持してるカジノコインが今までで十一枚使用して、残りが四百八十九枚残っている。これを七名で均等に分けようと思うが反対の者はいるか?」


 誰も異は唱えなかったので、一人七十枚ずつ分けた。

 既に両替した金貨は、今日の分の宿代を払った残りも、全員で平等に分ける。


 七十枚って事は一枚二十五万円分として、一人当たり千七百五十万円分だ。

 贅沢しなければ三年くらいは暮らせる額だろう。

 その間に言葉を覚え、生活環境に慣れれば暮らして行く事も無理では無いだろう。


 ダニエルさんがみんなに自分流の語学習得法を披露した。


「言葉を覚えるのは、ピロートークが一番効果的さ! 俺は明日からこの街の可愛い女性と親密になれるように頑張る」


 カールさんとアダムさんの男性陣は、その意見に乗っかるつもりみたいだ。

 

 アンドレ隊長は別の考え方をした。

 

「ホタル、この国には奴隷制度はあるのか?」

「どうでしょう? ヨーゼフさんにそれは聞いていませんでした」


「ホテルの従業員にでも聞いておいて貰えるか? もし制度があった場合は、大体の値段も知りたい」

「解りました。ディナーの前に聞いておきますね」


「ディナーは食堂に行って座れば勝手に出てくるのか?」

「ビュッフェ形式だと聞いています。一応ルールが解らないので今日のディナーは全員一緒に行きましょう。私が説明を聞いてお伝えします」


 シェフであるアダムさんは、この国の料理に興味津々という感じだ。


「この世界の料理のレベルを見ておけば、食べ物屋台を出店するのもよさそうだな。アンドレ隊長たちにモンスターを狩ってきてもらって、俺が捌いて料理して売れば、資金を減らさずに生活できると思わないか?」

「みんな前向きで安心しました」


 その後はみんなディナータイムまでそれぞれの部屋で寛いでいた。

 さすがに各部屋に風呂やトイレは無かったが、トイレは各階にあり、風呂は大浴場が一階にあるそうだ。


「ホタル、ちょっといいか?」

「どうしました? 先輩」


 俺は、部屋に戻るとジーンズとTシャツの姿になって、ホタルの部屋のドアを叩いた。


「女神聖教の教会の場所は解ったのかい?」

「それも、冒険者ギルドで聞いておきましたよ! この街で一番高い塔が立っている所です。朝の六時、正午、夕刻の十八時に鐘が鳴るそうです」


「そうなんだ。そう言えばこの国の一日は二十四時間なのかい?」

「そうですね、私も腕時計の時間を気にしてたんですけど、昨日ジョンソン船長に言われて、夕日が沈む時刻を十八時に設定したんですけど、今日の日没も十八時一分くらいでしたから、間違いない筈です」


「それは助かるな。でもホタル本当の所はどうだ? 無事に地球に帰れると思うか?」

「来れた以上は、帰る方法もあるとは思うんですけど、その方法がなにかなんて、まだ予想もつきませんね」


「だよな、俺は明日は朝から女神聖教の神殿に行ってみたいから、ホタルも付き合ってくれよ」

「いいですよ。私も興味ありましたし。でもヨーゼフさんが言ってた女神様の名前って、先輩の名前に似てますよね」


「オグリーヌ様だっけ。だいたい俺の名前のアズマだって、競馬好きだった爺ちゃんが、栗東厩舎から、もじって付けたらしいからな」

「なんか人生競馬って感じですよね」


「ちょっとディナーの時間には早いですけど、アンドレ隊長に聞かれてた、奴隷制度の事とか聞きに行きませんか?」

「お、いいぞ」


 そう言って、ホタルと二人でフロントに話を聞きにいった。


「奴隷商ですか? はい、ございますよ。違法に攫われてきたりということは、ありません。犯罪奴隷は国の管理の下に鉱山などの労役に駆り出されますので、購入できるのは借金奴隷です」

「借金奴隷に関しては自分で身柄を買い戻す権利があります。ただし、購入者には生活の面倒を見る責任はありますが、給料を支払う必要は無いので、余程の事が無い限りは一度奴隷に落ちてしまうと、一生抜け出せないですね」


「ありがとうございます。どれくらいの値段がするものなんですか?」

「衣食住の確保にもお金が掛かるので、欠損者や持病を持ってるような者ですと、借金額プラス十万ゴルくらいからで、戦闘能力の高いエルフやドラゴニュートの女性などですと、一億ゴル以上はしますね。勿論、性的な行為などは強要は出来ません。と、建前上は決まってますが……、隷属の首輪を嵌められますので、断る事が出来ずにそういう行為をするために奴隷を手に入れる方が多いのも実情です」


 奴隷の立場というのは、ラノベでも様々なパターンを見る事があったけど、実際にそういう制度があると知ると、平和に慣れきった日本人の俺とホタルには少し話が重かった


 アンドレ隊長は奴隷を買うつもりなのかな? 俺にはとても無理だけど。

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