第15話 女神神殿

 ディナーはビュッフェ形式で好きな物をセルフで取って来るスタイルだったので、これなら明日以降はみんな揃って食べなくても大丈夫だろう。


 一通りの料理を、ホタルがみんなに説明していた。

 やはりこの世界でのご馳走といえるのは、モンスターの肉を使った料理の様で、今日のビュッフェのスペシャルアイテムは、オーク肉のステーキだった。


 ピンク色のをした断面から肉汁が溢れ出すような、絶妙な焼き加減で岩塩とハーブで香りをつけてあった。

 味付けの予想をしていたアダムさんが小型のペッパーミルを持って来ていて、ブラックペッパーをかけてくれると、味が引き締まって凄く美味しくなった。


「焼き加減とかの技術は問題ないが、やはり調味料の少なさが気になるな」

「胡椒は出回っては無いようですね、栽培とかできないんですか?」


「俺も栽培は専門じゃ無いから、よく解らないな。ただ、黒胡椒は未成熟の実だから粒から発芽を目指すなら、完熟した物の殻を割ってある白胡椒か殻のついたままの赤胡椒を使うことになるな」


 意外なトリビアだったな。

 黒胡椒の方が完熟っぽい気がしてたけど逆なんだ……


 需要があるかどうかは解らないが、街のマーケットで調べてみてもいいかもな。


 アンドレ隊長にフロントで聞いて来た奴隷商の話をすると、明日の昼から一度行ってみたいと言われたので、十二時過ぎに待ち合わせをして一緒に訪れることになった。


 他のメンバーも奴隷には興味がある様で、全員ついてくるという話になった。


 翌朝、俺はホタルと一緒に朝食を取り、女神聖教の教会に向かうことにした。


「俺達が地球に戻れないパターンを考えると、ランクアップは結構重要な要素だと思うんだけど、今の俺とホタルのスキルじゃアンドレ隊長たちのように、モンスターと戦って行けるとは思えないよな」

「そうですね。最低クラスのJランクでは。餌になるだけな感じしかしません」


「と、なるとだ。ヨーゼフさんのいってた神殿で戦いに使えるようなスキルを手に入れるしか手は無いよな」

「そうですね、どんなスキルがあるのか楽しみですが、私達の所持金で手に入るのかが微妙ですね」


「それなんだがな、俺のスキルで神殿で開かれているレースって予想できる気がするんだよな」

「マジですか?」


「うん、俺のスキルってさ極めて狭い範囲の何秒後とかをイメージしたら見える感じだから、戦闘とかじゃほとんど役に立てないけど、ギャンブルとかなら話は別だ。一番いいのはカジノのルーレットの結果予想なんかだけど、競馬でもゴール地点は決まってるんだから、その地点を集中して【予知】したら、確実に当てれると思うんだ。やってみなければ、わかんないけど」

「もしそうなら、凄いですね。先輩の予想に丸乗りすれば私もスキル手に入れられるのかな?」


「まぁ試しに俺がやってみて結果次第だな」


 二人で女神神殿に到着すると、そこは結構大きな建物だった。

 この街で一番高い塔の上には、ベルが並んでいるのが見える。

 恐らくカリヨンの様な音色を奏でる鐘だろう。


 教会の中に入ると正面に大きな女神『オグリーヌ』様の白大理石で作られた像が飾ってあり、祈りを捧げてる人がいる。

 ホタルがすれ違う人にたずねた。


「すいません。初めて来たのですがスキルを売っている場所は何処でしょうか?」

「ああ、あっちだよ」


 そう指をさされた方向を向くと人の集まっている場所があった。

 早速その場所に向かう。


 いろいろなスキルが並んでいるが、安いスキルで二百万ゴルの値段だ。

 俺には書いてある字が理解できないので、ホタルに読んでもらう。


「先輩、スキルにはランクが付けられてるみたいですね。ランク一からランク七まであります。値段がランク一で二百万ゴル、ランク二だと五百万万ゴル、ランク三で一千二百五十万ゴル、ランク四で三千百二十五万ゴル、ランク五で七千八百十二万五千ゴルって感じで、二.五倍づつ値段が上がってます」

「手が出せそうなスキルで有用なのはあるのか?」


「えーとですね、まず、魔法は火、水、風、土がそれぞれランク五です。闇と光がランク六、聖がランク七ですね」

「絶対無理だなそんなの……」


「あっスキルのレベルアップが書いてありますよ」

「お、どんな感じでレベルが上がるんだ?」


「えーとですね、レベル一からレベル二に上げるのがスキルオーブ一個でそれから上は倍々に数が必要になるみたいです」

「結構お金が掛かりそうなシステムだな……」


「あ、先輩ランク二のスキルに身体強化ってありますよ。これは必要そうじゃないですか?」

「それは、お約束スキルだな。どの程度上がるんだろ?」


「ちょっと待って下さいね、詳細を見ます」

「あー……微妙かも。ランク一で十パーセントのステータス上昇で、ランクが上がるごとに十パーセント効果の上乗せですって」


「スポーツ競技とかをやってる人には必須な感じだけど、モンスターと戦うとかじゃ、効果がわかりにくいかもしれないな」

「ちょっと計算してみましたけど、能力が倍になる百パーセントアップで、必要なオーブの数が五百十一個で金額でいうと、二十五億五千五百万ゴルですね……」


「そういえばさ、アダムさんの鑑定ではステータスなんて見えなかったけど、ちゃんと存在してるんだな。鑑定のレベルが上がったら見えるんだろうか?」

「そうかもしれませんね。えーと鑑定はランク二のスキルにあります」


「でも、レベルあがらないとあまり意味が無いんじゃ今の手持ちだと厳しいな」

「そうですねぇ、でも先輩の予知とか、私の言語理解は出品されてないですよ」


「それな、この世界の人達なら国外に出ないし、言語も一つなら言語理解が欲しいと思う人なんていないだろうし、それで現れないんじゃないかな? 俺の予知にしたって、今までの経験に基づいてギフトが決まるってシステムを理解してたら、この世界で成人してモンスターを倒しに行った時に、予知にまつわる能力が現れるって少ないと思うんだよな」

「なるほどですね」


「システムを知らないからこそ現れたレアスキルってことですね」

「だろうな」


「ランク一のスキルだと単純に、力プラス十とかそんなステータスアップのスキルですね。ランク二のスキルには私と先輩以外の人が獲得したギフトもありますね」

「とりあえず何か買うか? 剣術とか覚えて無いと戦えないだろう?」


「うーん。私はやめておきます。もっとじっくり考えてから決めないと、失敗しそうだし。安くはないですからね」

「そうか、俺は昔、剣道は習ってたことあるから、剣術を買ってみようと思う。ホタル通訳してくれよ」


「了解です」


 剣術スキルを買うことに決めて、ホタルに神殿の司祭の様な格好をした店員さんに頼んでもらった。


「先輩……駄目です。Jランクだとスキルカードに空きが無いからランクを上げてから買いに来いと言われました」

「まじかよ。今の実力でモンスターと戦うのは結構厳しいな」


 ホタルがもう一度店員さんと、なにかを話している。


「先輩! 手段はありました。例のレースを当てるとそれで手に入った能力は、そのまま増やせるそうです。しかも当てるたびにステータスランクが上がるんですって」

「お、当て続けたらAランクも夢じゃ無いってことか? レースを見に行こうぜ」


 とりあえずは、神殿の裏にある競馬場というよりは陸上の四百メートルトラックのような競技場を訪れた。


 そこではヨーゼフさんから聞いてはいたけど、馬のような耳と尻尾をはやした女の子達が走っていた……

 とてもシュールな光景だ。

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