第9話 スキル
「え? どういうことだ」
俺はホタルの発言を思わず聞き返した。
「まだよくは解りませんが……ちょっとここではモンスターの現れる可能性が高いので、一度最初の平原に戻りませんか?」
ホタルの返答を受け、リーダーのアンドレが判断を下す。
「了解だ。一度スタート地点へと戻ろう」
アンドレの判断により、一度ヘリで着陸した見通しのいい地点まで戻った。
「それで、文字が理解できるって、どういうことだホタル」
「はい、その前にカールさん今私の喋っている言葉が理解できるんじゃないですか?」
「え? どういう事だホタルは今ドイツ語で喋ったんじゃないのか?」
「いえ、私ドイツ語は理解できていませんし、今喋っているのは私のネイティブ言語である日本語です」
「何だって?」
他の日本語を理解できないメンバーであるミッシェルさん、アダムさん、ダニエルさんからも声が上がる。
「ホタル、説明してくれ。一体どういうことだ」
「先ほど私の足元に現れたカードを手にして見たら、書いてある内容が理解できたんです」
そう言って皆に分かりやすい様に、バッグパックからノートを取り出してボールペンで文字を書き始めた。
カードであろう絵をかき、そこに書いてある文字を全員の理解言語である(アズマを除く)英語で書き記す。
「先輩は口頭でも同じ内容を日本語で喋りますから、それで見当をつけて下さいね?」
「あ、ああ。解った」
まず、大きめの文字は本人のランクを示す文字であるという事だった。
英語のアルファベットに該当させると俺とシェフのアダムさん、ホタルの三人のカードに記された文字は、アルファベットのJに相当する文字だそうだ。
次にダニエルさんと、ミッシェルのカードに記された文字はアルファベットで言えば、Iに相当する文字だそうだ。
そしてアンドレさんとカールさんのカードに記された文字はHに相当する文字という事だった。
「ホタル、このアルファベットは何を現しているんだ?」
「恐らく、身体能力ですねプロサッカー選手だったカールさんが、私達より高い能力であるのも納得がいきやすいですし」
次に小さな文字で書いてある項目の説明にはいる。
「この文字は、まず最初にギフトと書いてあります」
「贈り物ってことだな……」
「そうですね、そして私のカードに記されているギフトの内容は、【言語理解】と書いてありました。詳細は書いてないので最初に聞かれた時に『よく解りません』と返事をしたのです」
「他には書いて無いのか? 例えば攻撃力とか魔力だとか?」
「そういう記述は無いですね、身体能力を現すであろうアルファベットとギフトの名前だけが記述してあります」
俺の質問に答えたホタルに、今度はアンドレさんが問いかける。
「だとすればだ。ホタルには今、俺達が一番必要としているだろう能力、異世界人との対話が可能だという事か?」
「おそらく、そうですね。カードを手に入れたという事は皆さんにもなんらかのギフトが現れているはずですので、それを先に確認すれば、この世界での探索に必ず役立つはずです」
その時だった……
無線機に連絡が入った。
「アンドレ隊長、聞こえるか?」
「はい、船長どうしましたか?」
「モンスターが現れた……巨大なタコだ。全長三十メートルは優に超える。船にまとわりついて一撃でヘリを破壊し、現在この船を海中に引き込もうとしている」
「何ですって?」
「君たちを迎えに行く事も出来ない、すまない。どうか生き延びてくれ……」
その言葉を最後に、大音量の海水が襲い掛かる様な音が無線機から流れ、通信が途切れた。
「なんてことだ……船が……『ダービーキングダム』が恐らく沈没した。ヘリも無くなった」
七人のメンバーが絶句した。
「どうすればいいんだ……」
アンドレ隊長が、気を取り直して指示を出す。
「みんな無線機の電源を落としてくれ、今後充電ができる可能性は極めて低くなったから、今のバッテリー残量は重要だ。ただし私の一台だけは、船からの連絡が入るかも知れないので、電源を入れておく」
その言葉を受け、全員が指示に従う。
「どうしましょう……」
ホタルが問いかけた。
アンドレ隊長が答える。
「全員が得たギフトの能力を確認するのが先だ。それによって動き方が変わる」
全員のカードを並べ、一枚ずつホタルが内容を書き出す。
アンドレ隊長 ランクH ギフト:体術
ミッシェル ランクI ギフト:狙撃
カール ランクH ギフト:蹴撃
ダニエル ランクI ギフト:遠視
アダム ランクJ ギフト:鑑定
ホタル ランクJ ギフト:言語理解
アズマ ランクJ ギフト:予知
以上の結果だった。
「アダムさん鑑定ってどうなんですか? 例えば私を見て鑑定をすればどんな情報が解るのですか?」
「あー、ちょっと待ってくれ見てみる」
【アナライズ】
「人族:女性:食用可だな」
「えっ? それだけですか? ステータスとか所持ギフトとかは見えないのですか? それに……食用可ってその情報必要ですか?」
「ああ……見えないし、食べれるかどうかの判断は重要だと思う」
その場の全員が少し残念そうな表情をしたが、俺は可能性を考えて発言した。
「おそらくだが、このギフトという能力は使っていけば成長したりするんじゃないのかな? それによって見える範囲も広がって来るんじゃないだろうか?」
「そうだったらいいな。できるだけ使っていって成長に期待する事にするよ」と、アダムさんが少し笑顔になった。
ホタルが戦闘系であろうギフトを授かった三人にも質問をする。
「何か必殺技みたいなのが放てる感じとかありますか?」
「いや、別にそんなのは感じないな。だがホタルのような効果が分かりやすい能力の高性能ぶりを見れば、何らかの効果は必ずあると信じよう」
「ダニエルさんはいかがですか? 想像しやすい能力のようですが」
「ああ、凄く遠くの物まで鮮明に見える。ズームアップの機能とかは無さそうだがな」
「その能力は、かなり役に立つと思います。もしかしたらレベルアップしてズーム機能も芽生えたりするかも?」
「それより、透視が出来たほうが嬉しいな。女性の身体を観察できる」
「レントゲン写真みたいになるんじゃないですか? それ」
「OH、それは残念過ぎるな」
最後は俺だ。
【予知】なかなか凄そうな能力だがどう使うんだろ?
「先輩、使い方解りますか?」
「いや、さっきから脳内で呟いてるんだがさっぱりわからんな」
「他の人達の能力から考えても、現状では極めて限定的な感じなんじゃないでしょうか」
「なるほどな、少し試してみよう。ホタル、じゃんけんしてみよう」
俺は、ホタルの右手に集中しながら「じゃんけんぽん!」と言った。
結果……無事に発動した。
「ぽ」の辺りでホタルの右手がチョキになるのを確認でき、俺はグーを出した。
「今のって? 見えたんですか?」
「ああ、見えた」
俺の言葉の信用度を調べるために六人全員と五回ずつじゃんけんを行い、あいこも無しの三十連勝で終わった。
「信用するしか無いな。凄い能力だと思うが、例えば敵の攻撃を防げたり出来るのか?」と、アンドレ隊長が聞いて来た。
「それは今の時点だとできないです。極限られた空間内の少し先の現象をイメージしてやっと見える感じですね」
「うーむ、常時発動型の予知スキルでないと使い所は極めて難しいな」
だが俺は、このスキルの最も効果的な使い方を思い描けていた。
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