第8話 異世界大陸へ
朝を迎えた。
現在時刻は四時半だ。
うっすらと東の空が明るくなりつつある。
一日の長さの判定は、昨日の日没から今日の日没までの時間を計測して行うと船長が言っていた。
集合時刻は朝五時なので、洗顔と歯磨きを済ませてヘリポートのある後部デッキへと向かう。
「ホタル、随分早くから起きてたんだな?」
「そりゃぁ私はレディですから、朝シャンは必須項目でので、先輩みたいに歯磨きと髭剃りだけって訳にはいかないですよ」
「そういえば男は朝ひげをそるけど、女性は朝ムダ毛処理とかするのか?」
「もーう、そういうデリカシーの無い発言は、もてない原因になりますよ?」
「ほら、その辺は肉体関係も無く投資してるんだから、普通の女性には聞きにくい部分の生態調査程度は、ありってことで」
「……まぁ、いいです。私は学生時代まだ父が居た時に必死でバイトして永久脱毛しました」
「へー、それって下も?」
「セクハラです! 却下」
そんなしょうもない話をしながらヘリポートに到着する。
すでに『パーフェクトディフェンダーズ』のアンドレ隊長とミッシェルさんは来ていた。
ミッシェルさんが英語で話しかけてくる。
「一応、戦闘が起こっても大丈夫なように、ミリタリージャケットとパンツ、ブーツ、グローブを用意したから着替えて頂戴。サイズはホタルには少し大きめだけど裾はブーツの中に入れれば大丈夫だから。今着ている服はバッグパックに詰めて持ってきてね、もし街の中に入ってショッピングをするとかなれば、ミリタリールックは良くないかもしれないから」
「了解です。えーと……ショッピングってこの世界のお金なんて持ってないですよね?」
「そうね、でもゴールドなら使えるんじゃないかって言う話になって、カジノに用意してあったゴールドコインが純金製だったから、それを持っていくことにしたの」
「なるほど! 金なら使える可能性は高いですね」
「問題は言葉の壁なんだけどね」
「それは……確かに」
そんな話をしているうちに他のメンバーも集まり、ジョンソン船長が無線機をアンドレ隊長がナイフと銃の武器をそれぞれに渡すと、ヘリに搭乗して、大陸へと飛び立った。
高度千メートルほどの高さで、昨日発見したという街まで向かう。
十分程で目的地は視界へ入って来た。
まぁ、いわゆる中世ヨーロッパ風の街並みが見え、何よりも特徴的なのはその街をぐるっと囲むように高さが五メートルほどもある壁が取り囲んでいた。
俺は、他のメンバーの認識を知りたいと思って質問をする。
勿論ホタルが通訳してくれないと無理だが。
「今見えてきた街に壁が設置されていますよね? それを見て何故だと思いますか?」
カールさんが答える。
「防御の為って事だろうな。戦争が普通にあるのかな?」
他のメンバーもその意見に頷いた。
「防御のためという認識は間違いないと思いますが、恐らくモンスターが存在する世界で、それを避けるための壁だと思って間違いないでしょうね」
俺の発言を聞き他のメンバーが少し表情を引き締めた気がする。
そして、ヘリが着陸予定地点に接近した時だった。
アダムさんが街の方角を指さし「ちょっと待ってくれ」と発言した。
その言葉に合わせてみんなが指さした方向を見る。
すると、騎馬の一団が街の門から現れ上空に浮かぶヘリコプターを見ている事に気づく。
そりゃかなりの爆音を響かせているから、目立つと言えば目立って当然なのかな……
もしかして飛行タイプのモンスターだと思われていても不思議はない。
どっちにしてもこのまま着陸するのでは、いきなり拘束される危険性もあるし、戦闘になって相手を殺しでもしたら友好的な取引など望むべくもない。
ホタルがアンドレさんに尋ねた。
「どうしますか?」
「着陸地点を変更する。少なくとも、まだこのヘリに人が乗っているなどと思われてない可能性が高い。騎馬部隊から見えない位置に着陸して徒歩で向かおう」
その指示に従いパイロットは再び高度を上げ、街の反対側にある林を超えた位置に見つけた平野部分に着陸した。
街までの距離は直線で三キロメートルほどだろう。
俺達はバッグパックを背負い、腰のベルトのナイフと拳銃を確認して異世界の土地へと降りったった。
ヘリのパイロットは俺達をおろすと、すぐに高度を上げ、『ダービーキングダム』へ戻って行った。
「全員、周囲に注意を払いながら離れないように街へと進むぞ」
アンドレ隊長の指示に従い、林の中へと入って行った。
この林の幅自体は、五百メートルも無いだろう。
上空から確認した感じでは林を抜けると、畑が続く平野部分だったはずだ。
俺はホタルに声を掛ける。
「モンスターが居る世界なら、この林の中で間違いなく遭遇しそうだな」
「ですよね……倒したらステータスとか見えるようになっちゃったりしませんかね?」
「どうだろうな? 少なくともゲームのようなステータスボードが表示されたりすることは、あり得ないと思うが、身体能力の向上や能力の取得という事であれば可能性が無いとは言えないな」
林の中に入り百メートルほど進んだ時だった。
「グギャッ、グギャ」
という何ともいえない声が聞こえる。
声の方角を見ると、身長百二十センチ程度の二足歩行の小鬼というか、醜い見た目で緑色の肌をした動物が現れた。
服は着用しておらず、股間に生殖器のような物も見える。
「ゴブリンか……」
「先輩見た目的にっていうか、生理的に無理な感じです」
「そうだな……ラノベだと腰ミノくらいは付けてるんだけど、モンスターが服を着てるとか普通におかしいから、この方が現実っぽいんだろうけど」
そして、ゴブリンは地面に転がっている石を拾ってこちらに投擲してきた。
結構早い……時速百キロメートルくらいは出てそうだ。
幸い誰にも命中せずに後ろの草むらへ石は到達した。
「敵対行為を確認した。反撃する。ミッシェル撃て」
「ラジャー」
ミッシェルさんが単発で、ゴブリンの頭部を撃ち抜いた。
一撃で倒れる。
すると、ミッシェルさんの足元に銀色でメタリックな感じのカードが落ちた。
まさか……ステータスカードなのか?
意外にゲームっぽい展開な事に驚いた。
カードには何か文字が書いてあるのだが、当然この世界の文字なのか読む事は出来ない。
ホタルがアンドレさんに声を掛ける。
「どうやら、この世界の魔物を倒すことで今のステータスカードの様なものを取得できるようですね。この林を抜ける前に全員最低一体はモンスターを倒し、カードの取得を目指すべきだと思います」
一瞬アンドレさんが考えたが、すぐに肯定の返事を出し全員で一体づつのモンスター討伐を行う方針となった。
だが……先程の銃声に反応したのか、辺りを見回すとゴブリンが十匹程も現れていた。
アンドレさんが素早くカービン銃をオートに切り替えて掃射した。
十匹のゴブリンが倒れるがまだ死んではいない様だ。
「みんな銃弾は出来るだけ節約をしたい。この状態ならナイフで止めを刺せるはずだ」
その指示に従い各々がアーミーナイフを手にゴブリンに近寄り、その心臓部分に向けてナイフを突き刺す。
青い血が流れた。
赤い血が流れるよりも現実逃避が出来て罪悪感が薄れるな……と、ちょっと醒めた感じで見る事が出来た。
「ホタル、大丈夫か?」
「あ、うん……大丈夫……です」
ホタルは少し躊躇していた。
いきなり「ヒャッハー!」とか叫んで殺すことを楽しむ女子よりは安心した。
だが、覚悟を決めたのか、目を瞑りながらナイフをゴブリンの胸に突き刺した。
そして全員の足元に、先ほどのミッシェルと同じような銀色のカードが現れていた。
カードを拾い上げて見てみるが、全く見た事の無い文字なので意味がわからない。
隣にいたアダムさんのカードを覗き込む。
大きな文字が一つあり、小さな文字が並んでいる感じも俺の物とほとんど変わらないように見える。
「あ、私……読めます! っていうか理解できます」
ホタルが声を上げた。
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