第10話 街へ向かう

 それぞれの能力の確認も終り、この先どうするのかという話になった。

 『ダービーキングダム』の安否も凄く気にはなるが、この場所から海岸までは直線距離で五十キロメートル近い距離があるだろうし、現時点ではアンドレ隊長が無線で呼びかけても反応はない。


「俺としては、ホタルの能力があればなんとか、街にたどりつき生活基盤を作ることは可能だと思うので、生き残って元の世界へ戻る方法を見つけ出すために、情報収集を行うべきだと思う」


 アンドレ隊長の呼びかけにみんなが頷いた。

 一等航海士であったダニエルが、船長から買い物用に託された金貨を確認する。


「金貨は全部で二十グラムの金貨が五百枚だ。地球での価値は一枚千USドル相当、五十万USドル分だな。この世界での価値は想像できないが、地球と同じ程度の価値観があれば、当面すぐには困らないだろう」


 カールさんが発言する。


「金貨に価値があると確認できれば、『ダービーキングダム』が沈没したとしても、船内にはかなりの宝が残ってるんじゃないのか? エグゼクティブな人達が、連夜のディナーパーティのために持ち込んでいた貴金属だけでも相当な物があるし、カジノのチップだってまだまだ在庫はあったはずだ」


 それに対してアンドレ隊長が答える。


「確かに滞在が長期に及ぶようであれば、カールの提案は考慮するべきだろう。しかし、『ダービーキングダム』を海中に引き込むほどの、モンスターの存在があるし、そんな中で水深二百メートルの海中の探索が可能なのか? と言えば極めて困難だろうな」


 俺はその時に一つのことを思い出し発言した。


「ちょっといいでしょうか?」


 ホタルが通訳する。


「なんだ、アズマ?」

「地球と置き換えて考えてみてください。ほとんどの街は沿岸部分に栄える筈です。それがこんな内陸部まで街を発見できなかった理由です」


「どういうことだ?」

「昨日船長とアンドレ隊長には提案しましたが、潮の満ち引きです。あの巨大な月の引力によって、かなりの距離まで潮が満ち生活空間として使えない可能性があるのではないかと」


「ふむ、なる程な。それと『ダービーキングダム』の沈没との関係は?」

「逆に引き潮の場合に大きく海岸線が後退し、もしかしたら船体が露出するような状況もあるのではないかと思ったんですが、どうでしょう?」


「凄いぞアズマ。可能性としては十分考えられる。まず街に着いたら潮の満ち引きに関しての情報を探すことにしよう。OKか?」


 するとダニエルさんが発言する。


「だが……残念ながら可能性は低いかも知れません。すでに朝の段階で十八時間が経過していました。潮の満ち干であれば十二時間程で、満潮から干潮へのサイクルは起こったはずです。そこまでの潮の流れは無かった」

「た、確かに……だが、ここは地球ではない。この星だけの潮の満ち引きのルールがある可能性も残されている。諦めるのは早い」


 とりあえずは街へ行って、実際がどうなのかを調べることがもっとも優先されるべき事だと方針が決まり、再び隊列を組み林を抜けるために出発をした。


 林の中では相変わらずゴブリンが現れる。


「銃弾は極力使いたくない。俺とカールが格闘で仕留めることを基本方針にしよう。ただミッシェルは常にM4を構えて危険があると思えば、狙撃を頼む」

「了解です」


 ここで、カールさんとアンドレ隊長のギフトがかなり凄い事が解った。

 アーミーナイフを持つアンドレ隊長は、素早い動きでゴブリンを相手にほぼ一撃で首筋を切り裂き倒すし、カールさんが鉄板入り軍用ブーツでキックを放つと、ゴブリン程度ならキック一発で倒せる。


 ホタルが二人に確認する。


「アンドレ隊長? その動きは元々できた動きなんですか?」

「格闘技はそれなりに極めてるつもりだが、ここまで身体が反応してくれることはなかったな。ギフトの恩恵だろう」


「カールさんも?」

「そうだな、今なら地球に戻れば現役にカムバックして、バロンドールが狙えそうだ」


「素敵ですね」

「そのためにはまず地球に戻らなきゃな」 


 その時だった。


「グルルルルゥウ」と声がして五頭ほどの灰色の狼が現れた。

 ゴブリンたちの血の匂いに誘われたんだろう。


 アンドレ隊長が素早く指示を出す。


「ミッシェル撃て」

「ラジャー」


 単発で五発の銃弾を続けざまに撃ちだすと、寸分たがわず五頭の狼の眉間に弾丸は吸い込まれた。


「凄いな、ミッシェル」

「これもギフトの効果みたいね。さすがに今までだと、こんな命中率は無かったわ」


 倒れた狼とゴブリンに対して、アダムさんが【鑑定アナライズ】を掛けていた。


 魔物:ゴブリン:食用不可

 魔獣:グレーウルフ:食用可


 鑑定結果をみんなに伝える。


「肉の解体なら得意だ。ウルフ食ってみるか?」


 料理人のアダムさんの提案にみんな少し引いたが、今後生き残るためには必要な事かも知れないと、一頭だけ捌いて貰う。


「魔獣と魔物の違いは血の色のようだな。まぁ青っぽい色をした肉など食べたいと思わないから、解りやすくていいな」


 アダムさんの説明にみんな納得しながら、捌く姿を見ていた。

 ウルフ一頭当たりで二十キログラムほどの肉が取れることが解ったが、アダムさんの説明によると、焼いてそのまま食べて美味しそうなのは、背中の部分のロース肉くらいで残りの部分は、煮込み料理くらいにしか使えないという事だった。


 ロースの部分だけだと八キログラムほどだ。

 切り分けた肉と皮を、非戦闘要員の俺とダニエルさんとアダムさんの三人で分けて運ぶ。


 それから三十分ほどで林を抜け、街郊外の農業地域に入った。

 栽培されているのは、麦とトウモロコシのような植物がメインだった。

 ホタルが、アダムさんに問いかけた。


「アダムさん。あれは見た目通りに麦とトウモロコシなの?」


 鑑定を掛けたアダムさんが返事をする。


「そうだな。鑑定でも麦:食用、トウモロコシ:食用と出ている」


 どうやら食文化は地球と近いようだ。

 街の高い壁が視界に入って来る。


 ダニエルさんが人影を見付けて、俺達に伝えた。


「どうやら農民のようですね。街に入る前に予備知識を仕入れるのはどうでしょうか? 場合によっては先程捌いたウルフの肉を分けてあげるのでもいいかも知れません」


 アンドレ隊長が判断を下す。


「その提案に乗ろう。ホタル、コンタクトを取ってくれないか?」

「了解です。初めての異世界人との会話、結構ドキドキしちゃいますね」


 見えていた農民に近づき、ホタルとミッシェルの女性二人で近づいて声を掛けた。

 勿論ミッシェルはM4カービンは俺に渡して腰の後ろにハンドガンを挟んでいるだけの装備になっている。

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