第96話 レオナ

「うう……。嬢ちゃんに殴られた腹が痛ぇ……」


「俺は背中だ……。勢いよく投げ飛ばされちまったからな……」


 俺の舎弟であるチンピラたちがそう言う。

 状況が落ち着いたので、こいつらを介抱してやっているところだ。


「その程度で泣き言を言うな。ネネコのような少女にやられて悔しいと思わんのか?」


「いや、そりゃあ思いますけどよぉ……。いくらなんでも、その子は人間離れしてませんかぃ?」


「俺らだって、さすがに正規軍ほどじゃないが、それなりに強いつもりだったのに」


「あんな子供相手に負けるとは……。情けねぇ話だよな」


 俺の言葉に、チンピラたちはしょんぼりと肩を落とす。

 まぁ、相手が悪かったな。


「お前たち、自分の力不足を恥じろ。ただ、お前たちには伸びしろがたくさん残されている。今後もっと強くなれるはずだ」


「そうですかい?」


「おうとも。安心してついてこい。俺が保証する」


「「へい!!」」


 俺が太鼓判を押してやれば、彼らは元気よく返事をする。

 この様子なら、もう大丈夫そうだな。


「よし。なら、みんなで帰って宴をするぞ。ネネコも来るよな?」


「はいっ! ご馳走になります!」


 彼女は、俺に向かって元気にお辞儀をした。

 と、俺たちがそんなやり取りをしているときだった。


「「「…………」」」


 物陰から、複数の視線を感じた。

 数は1つ2つのレベルではない。

 10以上はいそうな感じだ。


「そこに隠れている奴ら。出て来い」


「「「――――っ!!!」」」


 俺の声に反応して、物陰の奴らが息を呑む。

 そして、勢いよく逃げ出した。


(ふむ? 襲ってくるのではなく、逃げるか。足運びも素人のそれだな。放置していても害はないだろうが――)


 ダンッ!

 俺は勢いよく地面を蹴りつけ、大きく跳躍する。

 そして、逃げていく奴らの前に回り込んだ。


「うわぁっ!?」


「ひいっ!」


 突然目の前に現れた俺に、そいつらは驚愕する。


「ご、ごめんなさい!!」


「すいませんでした~!」


 そいつらは即座に頭を下げて謝罪してきた。

 うん?

 こいつらはどこかで見たことがあるような気が……。

 俺はジロリと彼らを睨みつける。

 すると、その全員が体を小さくさせた。


「も、申し訳ありません。たくさん食べ物を買い込んでいる人がいると聞いて、つい見てしまったのです……」


「ええと、確かお前は……レオナ、だったな?」


「は、はい。覚えていてくださり、ありがとうございます」


 隠れていた集団は、孤児の少年少女たちだった。

 俺はかつて、彼女たちに焼き鳥を奢ってやったことがある。

 その後も何度か彼女たちのもとを訪れ、食料を渡してやると同時に、格闘の鍛錬も行った。


 筋は悪くないのだが、なにせまだまだ子どもたちだ。

 リーダー格のレオナでさえ、まだ12歳前後。

 俺のライバルに成長する者が出るまで、長い目で見るつもりだった。


「まぁ、俺たちに害をなそうというのでなければ構わないさ」


「と、当然です。私たちが元気に暮らせているのは、リキヤ様のおかげですから」


 レオナはそう言いつつも、チンピラたちが持っている食料から視線をそらせていない。

 ふぅむ。

 定期的に食料は渡していたのだが、不十分だったか。


「で、では私たちはこれで――」


「まぁ待て。せっかくだし、お前たちも宴に参加するといい」


 俺はレオナたちに声をかける。


「へ? い、いいのですか?」


 レオナは目を丸くして、そう聞き返してきたのだった。

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