第97話 サキの心配

「ああ。構わん。食料はたくさん買っている」


 俺はそう答える。

 飛び入り参加がいるかもしれないと考え、肉は多めに購入している。

 正直に言えば、やや想定以上の人数だが……。

 いざとなればまた買い出しに行けばいいし、大した問題ではない。


「やったー!」


「お肉、お肉!」


「筋肉のオッチャン、大好きだぜ!」


「ありがと~。筋肉おじちゃん~」


 孤児たちが喜ぶ。

 まったく……。この子たちは本当に可愛いな。

 ネネコとはまた違った可愛さがある。


「ほ、本当にありがとうございます……。リキヤ様……」


 レオナが頬を赤くしながら俺を見つめる。

 その目は、まるで神様を崇拝するような輝きを放っていた。

 ……そこまで感謝されると照れくさいぞ。


「さあ、行こうではないか」


「「「「「はいっ!!」」」」」


 チンピラたち、ネネコ、レオナ、その他の孤児たちが元気よく返事をする。


(この人数だと、応接室には入り切らんかもなぁ……。仕方ない。庭でバーベキュー形式にするか)


 俺はそんなことを考えながら、みんなと共に領主邸に向けて歩き始める。

 領主邸の入り口に到着した俺たちを待っていたのは、メイドのサキだった。


「よう。戻ったぞ。肉や酒をたくさん買ってきた」


「り、リキヤ殿……。何だか人数が増えていませんか?」


 サキは驚いた表情でそう尋ねてきた。


「ん? まぁそうだな」


 俺とチンピラたちは、当初から宴会に参加する予定だった。

 街で買い出しをしている時に増えた参加者は、ネネコ、レオナ、そしてその他の孤児たちだ。


「いいじゃないか。人数は多いほうが楽しいだろ?」


「し、しかし……。あの部屋にこれだけの人数は……」


「なに。外でやればいいだろう」


「そ、外!? 外ですか!?」


「おうよ。庭なら広いだろ?」


 俺の言葉に、サキが驚きの声を上げる。

 そんなに驚くことかね?


「キッチンでお肉などを調理して、庭に運んで……。立ち食い形式ならば何とかなりますか。確かに、この人数ならば庭でやるしか……」


 サキが思案顔になる。

 宴会が円滑に進むように、いろいろと考えてくれているようだ。


「大丈夫だ。この庭で肉を焼けばいい。それに、立ち食いというのも疲れた奴らにはキツイだろ」


「え? ですが運ぶことができる調理器具など限られていますし、テーブルや椅子を室内から出したら領主様やメイド長から怒られちゃいますよぉ……。ただでさえ説教確実なことをしているのに……」


「俺に任せておけ。いい考えがある」


 俺はニヤリと笑みを浮かべる。

 その表情を見て、サキやレオナたちは首を傾げている。

 ネネコだけは、どこかワクワクとした顔をしている。


「ふむ……。これは立派な木だな」


「へ? あ、はい……。それは領主様が一番大切にされている木ですね」


 俺は庭で一番大きな一本の大樹に歩み寄る。

 かなり大きいので、枝の上に立つことも出来そうだ。


「これにしよう」


「……えっと、一体何をなさるので――」


「ふんっ!」


「え?」


 サキが呆けた声を出した瞬間だった。

 ボキッ! という音を立てて、目の前の大木が倒れて地面に横になったのだ。


「……は? は?????????」


 メイドのサキは目を丸くさせて口をパクパクとさせている。

 他の皆も、同じように驚いている様子だった。


「まだまだぁ! そりゃぁ! とうっ!!」


 俺は素早い動きで大木を加工していく。

 机や椅子、皿やフォークだ。


「よし。完成だ」


 ものの数分で作った即席の食卓が完成した。


「さあ、出来たぞお前たちぃい!!!」


「「「うおおおおおっ!! 凄ぇぇえええっ!」」」


 俺が作った宴会場を前に、チンピラ、孤児、ネネコは歓声を上げていた。


「あ、あわわ……。領主様の木を勝手にこんな……。いえ、それよりも素手でこんな加工ができる人がいるなんて……」


 サキは目を丸くして驚いていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る