第77話 バックドロップ

 俺は領主邸にやって来たが、門番に追い返されそうになっている。


「帰れ帰れ!!」


「ふむ。しょうがないか……」


 帰れと言われれば帰るしかない。


「じゃあな。もう会うことはないかもしれないが」


「ああ。二度と顔をみせるなよ!」


 俺は振り返り歩き出す。

 ――と見せかけて、ダッシュで門番に近づく。


「なっ!? 貴様ぁ!」


「悪いな。お前には眠っていてもらう」


 俺は門番の背後から手を回す。


「ぐおっ! は、離せぇ!!」


「騒ぐんじゃない。すぐに終わる」


「ひっ! うわああぁっ!!」


 俺は男を担ぎ上げ、そのままバックドロップをお見舞いしてやった。

 ドゴーン!

 男は後頭部から地面に叩きつけられ、気絶する。


「よし。これで邪魔者はいなくなったな」


 別に帰ってもよかったのだが、後で問題にされる可能性があった。

 なにせ、呼び出し者が貴族なのだから。

 仮に俺が『門番に拒否されたので帰った』と説明したところで、すんなり納得してもらえたかどうか、かなり怪しい。

 権力、富、名声などを過剰に得た者は、得てして傲慢になりやすいものだ。


「さて……お前はどうする?」


 俺は残ったもう1人の門番に話しかける。


「…………」


「繰り返すが、俺は領主に呼ばれてやって来ただけなんだ。取り次いでもらわねば困る。納得できないなら、お前にも分からせてやろうか?」


「……いや、案内しよう。ちょっと待っていてくれ」


 もう1人の門番はまだ話せるタイプだったようだ。

 彼は門の内側にいた者を呼び出して指示を出し始めた。


「今、取り次ぎを頼んだ。少しだけ待っていてくれ」


「おう。それぐらいは問題ないぞ」


「……ところで、そっちの男は大丈夫なのか? 一応、俺の先輩なんだが……。白目を剥いているんだが」


「もちろん無事だ。しばらくすれば意識を取り戻すはずだぞ」


 俺を呼び出しておいて追い返そうとしたのは気に入らないが、それだけでぶっ殺すほどではない。

 別に俺は快楽殺人者ではないのだ。

 それに、敢えて生かしておくことで俺にもメリットはある。

 コイツが悔しさや屈辱をバネにして強くなり、俺にリベンジに来る可能性があるのだ。

 俺が最強に至るためのライバルとなってくれるかもしれない。


「そうか。それならばいい」


 そんな会話をしているうちに、ちょうどその男が目を覚ましたようだ。


「ううーん……。ここは……」


「おう。起きたか」


「お前はっ!? う、うわああぁっ!!」


 男が逃げ出そうとしたので、俺は瞬時に回り込んで捕まえてあげた。


「まぁそう逃げるなよ。俺に投げられて屈辱は感じなかったのか? リベンジなら受けてやるぞ」


「ひ、ひいぃ……!」


 どうやらすっかり怯えているらしい。

 これでは再戦を申し込まれなさそうだ。

 やり過ぎると、戦意を完全に失ってリベンジどころじゃなくなるんだよなぁ。

 加減を間違えてしまったか。


 俺がそんなことを考えているうちに、屋敷内から取り次ぎのメイドが現れた。

 そして、俺は敷地内へ足を踏み入れたのだった。

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