第78話 応接室
領主邸を訪れた俺は、門番からメイドへと取り次がれた。
「ようこそおいでくださいました。私はメイドのサキと申します」
女性が丁寧にお辞儀をする。
流石貴族の屋敷で働く使用人だ。
物腰が柔らかい。
「うむ。俺はCランク冒険者のリキヤだ。よろしく頼む」
「応接室にご案内します。こちらへどうぞ」
「分かった」
俺はサキの後に続いて廊下を歩く。
「凄いな……」
思わずそんな言葉が漏れてしまった。
なんというか、綺麗な場所なのだ。
高い天井。
煌びやかな調度品の数々。
貴族様はいつもこんな環境で暮らしているのだろうか?
パッと見の贅沢さだけで言えば、地球の富豪にも引けを取らないように見える。
(まぁ、やや華美すぎる気もするが……)
俺は、金持ちには節度が必要だと思っている。
地球では戦いや刺激を求めて日常的に旅をしており、世界各地の富豪や支配者たちに招かれることもあった。
その経験から言わせてもらえば、この屋敷の雰囲気は気に入らない部類だ。
そんなことを考えながら歩いていると、とある部屋にたどり着いた。
メイドのサキに案内され、中に入る。
「こちらに座って少々お待ち下さい」
勧められたソファに座ると、俺は部屋の内部を見回した。
広い空間にはふかふかなカーペットが敷かれており、部屋の隅には高そうな壺が置かれている。
まさしくお金の匂いを感じさせる内装であった。
(あの壷、いくらするんだ?)
俺は壺に詳しくない。
だが、いかにもな感じで飾られているところから察するに、金貨100枚以上しても不思議はないな。
俺はネネコを奴隷として金貨200枚でもらい受けた。
だがあれはおそらくふっかけられただけで、本来の適正価格は金貨100枚だったはずだ。
そう考えると、この応接室だけでも相当な額の調度品が飾られていると思われる。
(盗賊の被害に遭って苦労したフィーナやエミリー、孤児のレオナ、獣人のネネコ……。彼女たちは必死に今を生きているというのに、まったくここの領主ときたら……)
俺は思わず呆れてしまう。
「お茶をお持ちしました」
「ああ。ありがとう」
俺が茶に手をつける。
「む……?」
「ど、どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない。美味い茶だ」
俺は言葉を濁しておく。
この程度の痺れ薬、俺には通じない。
適当に飲んだふりをしておこう。
「それで、領主様は?」
「現在、ご用意中でございます。もう少々お待ち下さいませ」
サキはそう言って、部屋から退出していった。
さて、どうなることやら。
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