第35話 エミリーとデート
三馬鹿を撃破して後始末を終え、冒険者ギルドを出てきた。
「さて……。ひと悶着あったが、無事に冒険者登録もできたな。ありがとう」
「お礼を言われるようなことではありません。私たちが受けた恩を考えれば、当然のことです」
エミリーがそう言う。
彼女が言葉を続ける。
「ところで……。リキヤさんは、今後の予定は考えていますか?」
「冒険者登録もしたことだし、しばらくはこのノックスの街を拠点に活動するつもりだ。今日はもう夕方だし、明日以降に活動開始だな」
「それなら、今日はこの街を案内させてください。何度か来たこともありますし、いろいろと知っていますので」
「わかった。ぜひ、案内してもらおう」
そんな感じで、エミリーに街を案内してもらうことになった。
エミリーの両親は別行動だ。
彼らは彼らで、やることがある。
俺とエミリーは、街中を歩み始める。
「このあたりには日用品が売っています。宿屋でも大概の物は揃っているはずなので、不足品があれば買いに来られるといいと思います。言っていただければ、私も付き合いますので」
「なるほど。そのときはお願いしよう」
俺はしばらくこの街を拠点に活動するし、エミリーたち一家も行商はしばらく取りやめる。
今後も、彼女たち一家と話す機会はいくらでもあるだろう。
「このあたりには武器屋や防具屋が集まっています。冒険者たちの行きつけの店ですね。リキヤさんには……必要ないかもしれませんが……」
「ふむ。確かに不要と言えば不要だが、何か思いがけないすばらしい物があるかもしれない。時間があれば、行ってみることにしよう」
俺は、基本的には武器や防具を使わない。
下手に力を込めると、あっさりと武器が壊れるからだ。
それに、俺の鍛え抜かれた体に勝るような防具もなかなかない。
現時点では、俺は素手で戦ったほうが強い。
とはいえ、俺の全力に耐えられるような武器があれば、もちろん武器があったほうが強い。
防具も似たようなイメージだ。
俺の肉体は鍛え抜いているが、もちろん限界はある。
トラックを受け止めて致命傷を負ってしまったことは記憶に新しい。
いや、あれは加齢による衰えも要因だが……。
なぜか全盛期に近い力を取り戻した今の俺なら、トラックも受け止められるだろう。
気術という力も練習しておかないとな。
「ここの通りが露店ですね。食べ物が売っています。高級店には劣りますが、こういうところで食べるものも結構おいしいものですよ」
「ふーむ。そういえば、小腹が空いたな。さっそく、何か食べることにしよう。何かオススメはあるか?」
俺には、先ほど盗賊を売り払ったときの金がある。
「ええっと。このファルコンバードの串焼きは、おいしいですね。私も好きですし……」
「わかった。……ちょっといいか? この串焼きを2本頼む」
「了解だぜ、兄ちゃん。べっぴんさんとデートかい? 羨ましいこって」
露店の店員が、そう軽口を叩く。
兄ちゃんだと?
俺は30代だ。
対して、この男もおそらく30代。
少し違和感を覚える。
盗賊どもや、冒険者ギルドの三馬鹿になめられたことにも違和感を覚えていたところだが……。
「いやんっ! デートだなんて、もうっ!」
エミリーがくねくねして照れている。
彼女は10代中盤くらいだ。
30代の男と10代中盤の少女が道を歩いていて、デートだと感じるだろうか?
まあ、露店の店員が深く考えていないだけの可能性もあるが……。
俺はそんなことを考えつつも、串焼きを食べ進めていく。
「おう。これはうまいな」
「ですよね。相変わらずおいしいです」
エミリーがオススメするだけあって、ファルコンバードの串焼きはなかなかの味だ。
日本における焼き鳥屋としても、十分に通用するだろう。
俺はそのまま串焼きを食べ終える。
ふと、少し離れたところから視線を感じた。
敵意は感じない。
俺はそちらに視線を向ける。
みすぼらしい格好の子どもたちが、こちらを羨ましそうな目で見ていた。
俺の視線に気づいたエミリーが、口を開く。
「ああ……。あの子たちは、孤児院の子たちでしょうね……。補助金だけでは食べるものが足りず、ああしてだれかの食べ残しを待っているのです」
「ふむ。そうか」
食べる物に困っているだけあって、全員が痩せぎすの体をしている。
それを見て俺はーー。
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