第34話 三馬鹿が反省

 冒険者ギルドの修練場にて、三馬鹿を撃破した。

 見よう見まねで気術を発動したところ、想像以上の威力が出てしまい、三馬鹿だけでなく観戦していた受付嬢にまで被害が及んでしまった。


 俺は、へたり込んでいる受付嬢に近寄り、話しかける。


「すまん。だいじょうぶか? つい力を入れすぎてしまった」

「え、ええ……。なんとか……」


 彼女がかろうじて立ち上がる。

 立ち上がる途中で、自分の股が濡れていることに気づいたようだ。

 みるみるうちに顔が赤くなっていく。

 俺はそれに気づいていないふりをする。


「こいつらの相手で疲れただろう? この場の片付けは俺がやっておくから、お前は少し休憩してくるといい」


 俺はそう言う。

 実際には、休憩ではなくて着替えをしてほしいわけだが。

 気を利かせて、婉曲に伝えた感じだ。


「は、はい。……あの、ありがとうございます」


 受付嬢は恥ずかしそうにしつつも、俺に頭を下げて退出していった。

 あのお礼は、チンピラ冒険者たちをこらしめたことと、彼女の股が濡れていることに気づかないフリをした気遣いに対するものだろう。

 気遣っていることすら悟られないのがベストだったが、さすがにそこまではムリだったか。


 俺は、隅のほうで様子をうかがっていたエミリーたち一家に近づいていく。


「すまないな、ゴタゴタに巻き込んでしまって」

「いえ。リキヤさんなら、きっとだいじょうぶだと信じていました。……まあ、想像をはるかに超えていましたが」


 エミリーがそう言う。

 彼女は受付嬢よりもさらに離れたところから観戦していたので、無事だった様子だ。


「リキヤ殿は本当にお強いですな。これは、すぐにでも冒険者として名を上げそうです」

「私たち一家で、応援していますわ」


 エミリーの父と母がそう言う。


 そして、俺たち4人で修練場の片付けを始めた。

 使用していた木剣や防具を戻し、倒れていた器具を戻した。


 そして、気を失っている三馬鹿に声を掛ける。


「おい、起きろ!」

「へっへっへ。もう、食えねえよぉ……」


 何やら寝言を言っている。

 ずいぶんと平和な夢を見ているようだ。


「とっとと起きろ、ぶちころすぞ」


 俺はそう言って、男の脇腹を蹴り上げる。


「ぐっ!? ゴホッ! い、いったい何が……」


 男が目を覚ます。

 続けて他の2人にも蹴りを入れ、叩き起こす。


「起きたか、三馬鹿ども」


 俺はそう声を掛ける。


「うっ! てめえは……」

「ただの木剣にあそこまで気を入れるなんて、バカなことしやがって……!」

「足が痛え……」


 三馬鹿が口々にそう言う。

 俺を恐れるような目で見ている。

 こいつらが気を失ったのは半ば事故のようなものではあるが、それも俺の”気”とやらが多かったことに起因する。


「少しは懲りたか? お前ら程度では俺には勝てん。今後は、マジメに働くことだな。受付嬢の彼女に手を出すようなら、俺がお前らをぶち殺してやるからな」


 俺はそう言う。


「けっ! わかったよ」

「そもそも、マジで手を出したら俺らが犯罪者になっちまうしな」

「腰も痛え……」


 三馬鹿がそう言う。

 受付嬢を害しそうな雰囲気があったが、本気ではなかったようだ。


 そのまま三馬鹿を修練場から追い出した。

 これにて一件落着だ。


 しばらくして、受付嬢が戻ってきた。

 しっかりと着替えている。


「リキヤ殿。修練場を片付け、赤い三連星のみなさんも起こしてくださったのですね。ありがとうございます」


「ああ、こっちのエミリーたちも手伝ってくれたしな。あの赤い三連星とやらは、これで少しは反省してくれるといいのだが」


 逆恨みして、受付嬢の彼女が狙われたりしないかが心配だ。


「たぶんだいじょうぶでしょう。彼らはガラは悪いですが、実際のところそこそこマジメです。先ほども、すれ違い様に一言謝ってもらえました」


 この修練場から出ていく三馬鹿と、着替え終えて戻ってくる受付嬢がすれ違ったのか。

 そして、一言だけではあるが謝罪の言葉を口にしたと。

 それは確かに、意外と素直でマジメだな。

 鍛えてやれば、準備運動の相手ぐらいにはなるかもしれん。

 彼らに対する評価を少しだけ上方修正しておいてやろう。

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