第30話 冒険者登録

 盗賊どもを奴隷として売り払った金を、村長と行商一家に気前よくあげた。

 村長は恐縮しながら、村の若者たちと合流するために去っていった。

 そのまま、フィーナの村に帰るはずだ。


 そしてエミリーたち行商一家も、同じく恐縮していた。

 お金のお礼として何でもしてくれると言っていたので、冒険者ギルドに案内してもらうことにした。


「リキヤさん。ここが冒険者ギルドです」

「ふむ。ここがそうか」


 俺は眼前の建物を見る。

 なかなか立派な建物だ。

 俺たち4人で中に入る。

 エミリーの父親の先導のもと、冒険者ギルドの受付まで進んでいく。


「あら、エミリーさんたちではありませんか。お久しぶりですね。本日は何かのご依頼でしょうか?」


 受付嬢がそう言う。

 どうやら、エミリーたち行商一家とは顔なじみのようだ。


「いえ、今日は依頼ではありません。こちらのリキヤさんの冒険者登録をお願いしたいのです」

「リキヤだ。よろしく頼む」


 俺はそう一言だけあいさつする。


「まあ。ずいぶんと鍛え抜かれた体ですね。これは期待できそうです。もともと、軍か何かで働いていた方なのでしょうか?」


 受付嬢がそう言う。


「まあそんなところだ。戦闘の心得は持っている。いろいろな技術を学びたいと思って、武者修行のために各地を巡っているところだ」

「そうでしたか。それならば、冒険者登録はしておいた方がいいでしょうね。道中の魔物退治でも、しっかりと報奨金が出ますし。それに……」


 俺は受付嬢からざっくりとした説明を受ける。

 魔物を退治すれば報奨金がもらえるらしい。

 もちろん、ただ”討伐しました”と言って信じてもらえるような優しい制度ではない。


 魔物ごとに設定されている、討伐証明部位とやらを提出する必要があるそうだ。

 もちろん、魔物の死体まるごとでも可である。

 その場合は、素材の買取費ももらえるので1匹あたりの報酬はもちろん増える。

 ただし、運んでこれる質量には自ずと限界がある。

 街から遠い場所での討伐依頼なら、討伐証明部位だけを持ち帰って討伐報酬を受取るほうが、結果的にはより多くの報酬を得ることが可能だ。


「詳しい説明をありがとう。だいたいわかった。とりあえずは、街の近郊で魔物を討伐していけばよさそうか?」

「リキヤ殿の場合は、それがいいでしょうね。他にも採取依頼や護衛依頼もありますが、リキヤ殿には少しだけ不向きかもしれません」


 受付嬢がそう言う。


「なぜ俺には不向きなんだ?」

「採取依頼は強さとは関係ありませんので、せっかくのリキヤ殿の戦闘能力が活かせません。護衛依頼であれば活かせるでしょうが、残念ながらまだ実績が足りないので信頼されないでしょう」


 受付嬢の言うことは一理ある。

 だがーー。


「採取依頼も俺に任せておいてくれ。これでも、目や鼻は効く。探しものは得意なんだ」


 最強に至るためには、力や技術だけを鍛えればいいものではない。

 視力や嗅覚も鍛えることで、より高みを目指すことができるのだ。

 もちろん、どちらかと言えば力や技術のほうが大切なのは間違いないが。


「まあ。そうでしたか。それは失礼致しました。ではさっそく、冒険者登録を進めます。いくつか質問させていただきますので、答えてください」

「わかった」


 受付嬢からいくつかの質問がなされていく。

 名前は?

 得意な武器は?

 犯罪歴は?

 活動拠点は?

 などといった感じだ。


 俺は無難に受け答えしていく。


「ふむふむ。特に問題なさそうです。では、ギルドカードを発行しますね」


 受付嬢がそう言って、処理を進めていく。

 少しして、彼女が1枚のカードを差し出してきた。

 しっかりとした材質ではあるが、それ以外は何の変哲もないカードだ。

 俺の名前や冒険者ランクが書かれてある。

 最初は、ランクEからか。


「これがギルドカードになります。なくさないようにしてくださいね」

「ああ。気をつけよう」


 俺は受付嬢からギルドカードを受け取り、懐にしまい込む。


「では、これにて冒険者登録は終了となります。リキヤ殿のご活躍に期待させていただきますね。何かあれば、お気軽にこちらまでお越しください」


 受付嬢がそう言う。

 そんな感じで、俺の冒険者登録は終了した。


 さて……。

 先ほどから、背後に何やら不穏な視線を感じている。

 視線の主がだれか、見てみることにしよう。

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